第336話 情報屋
「なるほど。クリスは顔が割れてるから、俺とヘスターでミエルか王女に会ってくればいいんだな!」
「そういうことだ。もしかしたら二人の顔も割れている可能性もあるし、危険な仕事になるが任せても大丈夫か?」
「当たり前です。なんだか昔を思い出しますね」
「……以前も似たような理由で二人を王都へ行かせたんだっけな。懐かしい」
「何もできなかった頃の俺達でもこなせた依頼だからな! 今回もヘマせずにこなすぜ! でもよ、王女なんてどこに行けば会えるんだ?」
問題はそこなんだよな。
エデストルで別れた時に連絡手段を決めていなかった。
王女だから簡単に探し出せるだろうと思っていたが、王女だからこそ会うときは慎重にならないといけない。
ミエルを探して連絡役にしてもらうのがベストかもしれないな。
「王女に会う方法は分からない。ひとまずミエルを探して、ミエル経由でシャーロットと連絡を取ってくれると助かる」
「ミエルさんを探せばいいんですね。分かりました。情報屋を使って探してみたいと思います」
「人目をつかないように動きつつ、シャーロットと接触しなきゃいけない厄介なお願いだがよろしく頼む」
「任せとけ! 完璧にこなしてくるぜ!」
「……やるのはほとんど私で、ラルフは何もできないでしょ」
ヘスターに毒吐かれているが、ラルフはやる気満々なようで助かるな。
シャーロットのアポについては二人に任せるとして、俺はレアルザッドで出来ることをやっておこう。
表立った動きは取れないが、やれることは色々とある。
……と、その前に眠気が限界を迎えているため、ひとまず睡眠を取ってから動くとしようか。
シャーロットを探してきてほしいことを伝えた数十分後には、準備を整えて王都へと発ってくれた二人とスノーを見送り、俺は一人レアルザッドに残って睡眠を取った。
目が覚める頃には既に日は落ちかけており、しっかり半日ほど眠ってしまっていたようだ。
動き出しは大分遅くなってしまったが、早速俺にできることを行うとしよう。
……まずは、俺の方でも情報収集を行う。
ヘスターから裏通りにある情報屋の場所を聞いているため、そこに行って昨晩俺を襲ってきたフードの男についてを調べるつもりだ。
確実にカルロと同じ裏の人間だったため、クラウスについてだけでなくその周囲の人間も調べておく必要がある。
実力があった上で何の躊躇もなく自死を選んだのも非常に嫌な感じだし、死ぬ前に気になる言葉も残していた。
“クラウス様が俺なんかに直接指示を出すか”
この言葉から分かるのは、あのフードの男はクラウスと直接繋がっている訳ではないということ。
一番考えられるのは、カルロが率いていた【ザマギニクス】のメンバー。
クラウスからの指示で俺を探していたのではなく、リーダーであるカルロを探している過程で俺をたまたまレアルザッドで見つけたという可能性だ。
【ザマギニクス】のことを頭に入れつつ、情報屋の居場所へと行ってみるとしようか。
周囲への警戒は最大限に行いつつ、俺は裏通りにある『エルデイズ』という店にやって来た。
表向きは定食屋なのだが、決まった注文を行うことで情報屋のところへと案内してくれるらしい。
普通にそこそこの客で賑わっており、どこからどう見ても普通の定食屋にしか見えないのだが……。
ヘスターが情報源だし間違いはないと断言できる。
「はい、いらっしゃい! 好きな席についてね!」
店に入るなりそう言われたため、俺は店の奥から二番目の広いテーブル席へと着いた。
この席にも決まりがあり、必ず“一人で奥から二番目のテーブル席”に着かなければいけないらしい。
少々周りくどい感じがしないでもないが、情報屋ということで念には念を入れているということなのだろう。
席に着いてしばらく待っていると、俺に声を掛けてくれた店員のおばさんが注文を受けに来た。
……さて、注文を間違いないように気をつけなくてはいけない。
「はい、お水だよ。お客さん、注文は何にするんだい?」
「日替わりB定食のご飯少なめサラダなし」
「……デザートは何にするんだい?」
「店主のオススメで頼む」
「分かったよ。ちょっとオススメが何かを聞いてくるから待ってて頂戴」
多分、これで間違いなく情報屋に通してくれると思う。
どこから情報屋が現れるのか、それとも情報屋のいるところに案内されるのか。
この先の詳しい話は教えてもらっていないため、ここからどうなるのか見当もつかない。
店員に言われた通り、向こうから何かアクションを起こしてくれるのを待っていると……。
十数分経ってからようやく戻ってきた店員の手には、なんと普通に定食が持たれていた。
肉野菜炒めにご飯少なめ、それから卵スープにサラダがなし。
デザートは店主のオススメなのか、彩り豊かなフルーツヨーグルトが皿に盛られていた。
これは……合言葉を失敗してしまったか?
店員に尋ねたところでしらばっくれられるだけだろうし、出禁にならないためにもここは普通に定食を食べて立ち去るとしよう。
一体何が駄目だったのか。定食を食べながら反省していると、店の奥からやってきた人が急に俺の向かいの席へと座ってきた。
注意してやろうと思ったのだが、目元が隠れるぐらいに深くまで帽子を被った見るからに怪しい人物で――その見た目の怪しさから俺はこの人物が情報屋だと確信した。
「情報を欲しているようだな。情報料は銀貨四枚だ。問題ないなら俺の持っている情報をくれてやるぜ?」
「金額は問題はないが、ここでやり取りするのか? 周りに人がいる」
「嫌なら場所を変えてくれても構わない。その分追加で金は貰うし、遠くへは行かないけどな」
やはり情報屋だったようだが、手の込んだことをやらせた割りには不用心な奴だな。
追加料金は払いたくないのが本音だが、ここで周囲にバレるのは避けたいところ。
……ここでケチッても仕方がないし、場所の移動を願い出るとするか。