第333話 区切り
向かい合って剣を構えたからこそ分かるが、実力は俺の方が圧倒的に上。
恐怖で震え、なんとか逃げ出すことしか出来なかった前回から考えると驚きの成長速度だろう。
互いに動かず睨み合いの状況が続く中、先に動いたのはデュークウルスだった。
ノーモーションで突進を開始し、太い腕をぶん回して切り裂きにかかってきた。
俺は振り下ろされた爪に合わせて剣を出し、ガードを図りに動く。
爪自体が凶器のようなもののため、両腕をただ振り回されるだけでもかなりの脅威ではあるが……。
デュークウルスの攻撃に力負けすることはなく、スキルなしの状態でも完璧にガードすることができている。
獣らしい滅茶苦茶な動きをしながら攻撃をしてきてはいるが、やはり最初の直感通りもはや俺の相手ではないな。
実際に数回攻撃を受けて実力差がはっきりと分かった今、ダラダラと戦いを続けていても意味がない。
全ての切り裂きを攻撃を完璧にガードされているにも関わらず、性懲りもなく再び爪を振り下ろしてきたその攻撃に合わせ――今度は俺も剣を振り下ろす。
単純な力比べによって押し返すつもりで剣を振り下ろしたのだが、俺の振った鉄の剣は金属のように硬く伸びきった爪を綺麗に斬り、そのまま左腕を刎ね飛ばしてしまった。
鈍い音と共にデュークウルスの左腕が地面に落ち、少しの間を置いてから悲痛に近い叫び声が上がった。
噴き出た大量の血が辺り一帯の木々を濡らし、腕を失くしてバランスが崩れたのか転がるように地面を這いずり回っているデュークウルス。
かなり念入りに準備をしてきたのだが、俺が行った攻撃はたった一回。
攻撃を弾き飛ばすともりで放った一撃が致命傷となってしまったようだ。
「あの時の弱い俺を殺し切れなかった自分を恨んでくれ」
俺はそう独り言を呟いてから、転げ回っているデュークウルスの首を刎ねてこれ以上苦しまないようにトドメを刺した。
デュークウルスを倒すことはペイシャの森から逃げ帰った時に誓ったことだが、終わってみるとあまりにもあっけなく特別にスッキリした訳でもない。
ただこれで一つの区切りはできた訳だし、レアルザッドで俺がやり残したことは終わった。
後はシャーロットからの連絡が来るまで、レアルザッドでひと時の休息を取るとしようか。
……さて、デュークウルスの死体だが、かなり面倒くさいが持ち帰ることにしよう。
死体をこのまま焼却しても問題はないが、わざわざ俺の方から足を運んで殺しに来た訳だからな。
仕返しであり復讐でもある訳だが、無駄な殺生をしたからには有効活用しなくてはモヤモヤが残る。
軽くを手を合わせてから剥ぎ取りを行っていき、素材と使えそうな部分を綺麗に回収し、残った肉の部分は流石にどうにもできないため燃やした。
美味ければ全て食べることも視野に入れていたけども、筋肉の部分が多くとても食えた物ではない。
ちなみに刎ね飛ばした頭を調べたところ、上顎にはしっかりと以前の俺が突き立てた傷跡が残っていた。
間違いなく以前俺を襲ってきたデュークウルスと同一の個体というのが判明し、俺は一切の悔いも思い残すことなく、ペイシャの森を後にしたのだった。
解体と焼却にも時間がかかったし、ペイシャの森を抜けてレアルザッドに戻る頃には、すっかりと夜が更けて人が誰一人として出歩いていない深夜となってしまった。
ただ、ひとまず今日中に戻ることができたし、明日のラルフとの約束は守ることができそうだ。
大きくあくびをしながら『月花』へ向けて歩を進めていると、背後から足音が聞こえたような気がした。
レアルザッドの街の中だし、深夜といえど人がいてもおかしくはないのだが……。
足音が聞こえたのは今の一回きりで、その後は一切人の気配も足音も聞こえない。
――これはもしかして後をつけられているのか?
脳裏に思い浮かぶのは、ヘスターに不意を突かれて盗みを働かれたあの時の記憶。
ただ盗人にしては気配の消し方が上手いし、足音も聞こえたのは一度きりで手練れすぎる気もする。
急いで『月花』に入ってしまえば、別に危害が及ぶとかはないだろうが念のため探ってみるか。
【知覚強化】【生命感知】【魔力感知】【知覚範囲強化】【聴覚強化】の五つのスキルを発動させ、レアルザッドの街の中を索敵してみると――やはり俺からかなり離れた位置に身を隠している人物を見つけた。
何よりも気になるのが、生命反応も魔力反応もかなり高い人間ということ。
てっきり隠密能力の高い人間とばかり思っていたが、隠密は苦手だが自信の能力の高さでなんとかしている人間って感じだ。
思い浮かぶ人物としてはクラウスの刺客だが、レアルザッドについたばかりで悟られたとは考えにくい。
……いや、俺が来る前から潜伏させていたのか?
だとしたら、俺が思っている以上にクラウスは俺のことを警戒しているってことになる。
でも。クラウスの性格から考えると違和感はあるんだよな。
…………いくら考えても分からないものは分からない。
とっ捕まえて、逆に情報を吐き出させるとしようか。





