第327話 見慣れた場所
エデストルを発ってから、一週間ちょっとが経過した。
これまでの旅と同じように、いくつかの街を経由しながら王都を目指し歩き続け――俺達はようやく目的地である王都へと辿り着くことができた。
「見慣れた景色! 王国を一周して、ようやく王都へと戻ってきたな! 初めて王都を見た時は大きさに呑まれまくってたけど、今じゃ特に何も感じないところに成長を感じるわ!」
「確かにそれはそうですね。前に来た時は緊張やら恐怖やらの感情が強かったのですが、今では一切の緊張もありません。……もちろんクラウスとの戦いがありますので、別の意味での緊張はしてますけど」
「二人はそこまで気負わなくていい。危なくなったら逃げてもらうつもりでもいるしな。俺とクラウスがサシで戦えるようにしてくれれば何も問題ない」
「そう言われてもクリスを放っておけないし、向こうも精鋭のパーティメンバーがいるんだろ? 気負うなっつうのは無理な話だぜ?」
確かに、【剣神】に匹敵するパーティメンバーが揃っている。
その相手をさせるのだから、気負うなというのが無理な話か。
「私からクラウスの話を出しておいてアレですが、まだ深くは考えないでおきましょう。それよりもここからどうするんですか? もう王都に入り、クラウスとの決戦に臨むのでしょうか?」
「いや。王都の前まで来ておいてなんだが、まだ王都に入るつもりはない。一度レアルザッドへと向かい、レアルザッドを拠点としてシャーロットと連絡を取るつもりだ」
まずは情報を仕入れることが先決。
クラウスに俺が王都にいることを悟られたくないし、せっかく王女とエデストルで協力関係を結ぶことができたんだ。
なるべく秘密裏に動くのがベストなはず。
「おっ! じゃあ久しぶりにレアルザッドに行けるのか! 『七福屋』の爺さんは元気にしてるかな?」
「お爺さんなら大丈夫だと思いますよ。物凄く懐かしく感じますが、そこまでの年月は経っていませんからね」
「二人共異論はないってことで大丈夫だよな? それなら早速レアルザッドに向かいたいんだが」
「もちろんない! 俺はクリスにとことんついて行くぜ!」
「私もありません。レアルザッドへは行きたかったですし、逆に嬉しいぐらいです」
「それなら良かった。……なら、レアルザッドへ向かうとするか」
王都の城壁を遠巻きに見つつ、俺達は一度王都を離れてレアルザッドへ向かうこととなった。
知り合いという知り合いはお爺さんと顔立ちの良い神父しかいないが、俺が一人で初めて訪れた街であり、俺の人生が始まった街と呼ぶに相応しい街。
クラウスの情報を待ちつつ、やりたいことは色々とあるため本当に楽しみだな。
「見えてきたぞ! 懐かしいレアルザッドの街だ!」
「……なんか小さく見えるな。もっと大きな街のイメージがあったんだが」
「大きな街を転々としてきましたからね。でも、そこそこ栄えていると思いますよ?」
「そうだそうだ! 俺の生まれ故郷を悪く言うんじゃねぇ!」
「別に悪く言ったつもりはない」
二人のテンションが王都に辿り着いてから高かったが、レアルザッドが見えてから更に上がった気がする。
辛い過去があろうとも生まれ故郷である訳だし、やはり戻ってこられて嬉しいって感情があるのだろう。
逆に俺の方はというと、二人にも言った通り随分と小さく見えている。
ペイシャの森で身を隠し命辛々辿り着いた上、初めて訪れた栄えている呼べる街だったから、自分の中でかなり大きく想像していたのかもしれない。
エデストルに匹敵するようなイメージだったが、エデストルと比べると街の規模は半分以下だからな。
まぁオックスターよりかは栄えているけども。
「へーへっへ! まずはどこから行こうか! 裏通りで一通り挨拶してこようかな!」
「いや、まずは宿探しからだ。スノーもいるし、ペット可能な良い宿屋を探したい。『シャングリラホテル』ではなくてな」
「『シャングリラホテル』! 懐かしいですね。一泊ぐらいはしてみたい気持ちになります」
「いーや、俺はしたくないね! 俺達が寝泊まりしてた廃屋より手狭だったからな!」
「それは俺達三人で無理やり一部屋使ってたからだろ。……『シャングリラホテル』は今はよくて、良い宿屋だよ良い宿屋。二人はペット可の宿屋知らないか?」
故郷でもあり、俺と出会うまではレアルザッドで過ごしていた二人に尋ねてみたのだが、顎に手を当てた状態で考え込んでしまった。
パッと候補を出してくれると思ったが、俺の期待は外れてしまったようだな。
「宿屋は詳しくねぇからなぁ! 『鳩屋』はペット駄目だもんな?」
「絶対に無理だと思いますね。『鳩屋』以外の宿屋は……」
「そもそも裏通り以外は別世界みたいなもんだったし、俺もヘスターも全く詳しくないんだわ!」
「ラルフの言う通りで裏通り以外にはかなり疎く、表通りで良い宿屋がないかを探すしかないです」
「まぁ知らないのなら仕方がないな。手分けして表通りの宿屋を当たってみるとするか」
レアルザッドでの最初の動きを決めつつ、俺達は入門検査を受けた。
そして――随分と久しく感じるレアルザッドへと足を踏み入れたのだった。