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閑話 顔に傷を負った男


 三大都市ノ一つであるノーファストから近い街、オックスター。

 そのオックスターにある、中規模の冒険者ギルドからは楽しそうな声が漏れ出ていた。

 クラウス様の命令を受け、カルロの足取りを追っていたらこの街へと辿り着いた訳だが……。


「この街でその足取りがぱったりと途絶えている」


 俺は心の中で小さくそう呟き、顎に手を当てて必死に頭を回転させる。

 クラウス様から受けた命は、カルロを密かに抹殺すること。


 なのにも関わらず、オックスターにやってきて約一週間が経過しようというのに、何の足取りも掴めないままなのだ。

 既に死んでいてくれていれば楽なのだが、死んでいたとしてもその死体の確認は行わないとならない。


『別に死体の確認なんていらねぇだろ。とっとと王都へ帰っちまおうぜ!』

「うるさい! 少し黙っていろ!」


 賑やかな冒険者ギルドの中とは違い、俺がいる場所は人気のない細い路地裏。

 そんな路地裏で“一人”で大きな声を上げたため、周囲の注目を集めてしまった。


 チッ。パイモンが急に話しかけてきたせいで、つい反応してしまった。

 俺はフードを深く被り直し、逃げるようにその場を後にする。


 それから更に一週間ほどオックスターに滞在し、必死に情報集めに勤しんだが結局何の手掛かりもなし。

 筋骨隆々の大男で隻腕。気性も悪いため、一度見たらそうそう忘れない人物であるはずなのに足取りが一切掴めていない。


 唯一、冒険者ギルドのギルド長だけが知っていそうな感じがあったが、知らぬ存ぜぬで押し通されてしまった。

 拉致して口を割らせてもいいのだが、面倒なことに相手はギルド長。


 俺がカルロを探し回っていることはオックスターの街で広まり始めていて、そんな俺がギルド長を拉致したことがバレたら冒険者ギルドを敵に回しかねないし、カルロの足取りを追うためにそこまでのリスクは取れない。

 ……仕方がないが、二週間捜索したが見つからなかったという報告をクラウス様にするしかない。


『ケッケッケ。だから俺様がそう忠告してやったろ! あの時に実行していればこの一週間を無駄に過ごすこともなかったのによ!』

「黙れ。次、俺の許可なく喋ったら殺すぞ」


 俺の琴線に触れてくるパイモンを黙らせ、俺はカルロ捜索を諦めて王都へ帰還することに決めた。

 約一ヶ月に渡って複数の街を回って手掛かりなしというのは忍びないが、足取りが消えていたという事実もしっかりと報告しなければならないからな。


 

 久しぶりの王都。生まれ育った場所とはいえ、俺にとってはまだ慣れ親しんでいない商業通りを進みながら、王城近くにある国立の育成学園を目指す。

 学園に近づくにつれ、国旗が象られた鎧を身に纏った王国騎士団の姿が増え始め、それに比例して漆黒のローブを身に纏ってフードを深々と被った俺へ向けられる殺気の量も増えてくる。


 実際に何度か威圧的な口調で直接声を掛けられたが、クラウス様から授かっているバッジを見せると、騎士団の奴らは歯軋りしながら引いていく。

 常に俺を見下している奴のこの反応は何度見ても心地が良く、わざわざ怪しい漆黒のローブにフードまで被っているのは、騎士団の連中に声を掛けられるのを待っているというのも少なからず理由としてある。


 そんなこんな学園へと辿り着いた俺は、脇目も振らずにクラウス様の待つ部屋へと向かった。

 ノックをして言葉が返ってくるのを待ってから、俺は部屋の中へと入る。


「……ミルウォークか。カルロの件はどうだった」

「わりぃが見つからなかったぜ! かなりの時間を割いて探したんだがよ、オックスター以降は足取りがなかったんだわ!」

「ミルウォーク。本当に探したんだろうな?」

「オレ様を疑うってのか? いくらクラウスでも許さねぇぞ?」


 一瞬だけクラウス様との間に険悪なムードが流れたが、すぐに殺気を止めてくれた。

 パイモンニかけられた悪魔のような言葉を振り切り、真剣に探したのにも関わらず疑われたら流石の俺でも黙ってはいられないからな。


「本当に足取りが途絶えていたのだとしたら、カルロは死んでいるだろうな。あいつが隠れるようなことをするはずがないし、隠れていないのだとしたらあれだけ目立つ奴が見つからないというのはあり得ない」

「ということは、クラウスの兄貴のクリスに殺られたのか? ケッケッケ、そうだとしたら随分と話が違うじゃねぇか! 農民で逃げるのだけは得意なゴミ人間って話だろ?」

「くく……。あーっはっはっ! クリスの野郎がカルロを殺した? それは絶対にありえねぇ話だな! 何度も言ったがクリスは落ちこぼれのカスだ。――ミルウォーク、冗談でもつまらなすぎるな。……斬り殺すぞ?」


 本気のトーンで再び殺気を俺に向けてきたクラウス様。

 兄であるクリスのこととなると、いつもの冷静さが一気に失われる。

 腰に差してある剣に手がかかっているし、ここは謝らなければ本気で殺しにくるだろう。


「……悪かったよ。ただ決して冗談を言った訳じゃねぇことは分かってくれや! カルロにはクリスを殺す命令を出していて、そのまま消えたとなれば一番疑わしいのはクリスじゃねぇか?」

「だとしてもありえないんだよ。農民であるクリスがあのカルロを殺せるなんてのは、万に一つもありえない」


 どうしても認めたくないようだな。

 これ以上踏み込んでも感情を逆撫でするだけだろうし、ここは一度引いて様子を見るしかなさそうだ。


 ……ただ、今の話を聞いてクリスが俺の中で強烈に臭くなった。

 部下を使って、徹底的にクリスについてを調べ上げてもよさそうだ。

 もちろんクラウス様には内緒で動かないと殺され兼ねないため、慎重に動くとしようか。



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― 新着の感想 ―
「琴線にふれる」は深く感動する等の心に良い意味の言葉なので 誤用に気を付けて欲しい。
[気になる点] 結局「農民」のスキルの有用性とは?
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