第326話 別れの言葉
教会を出た俺は待たせている二人とスノーに追いつくため、急いで街の入口へと向かった。
賑わっているメインストリートを抜け、街の入口が見えてくると――ラルフ達と話しているみんなの姿が目に入った。
ボルスさん達はもちろんのこと、トリシャ、ゴーレムの爺さん、それから【月影の牙】のヴィンセントとフェシリアまでいる。
てっきり見送りに来てくれるのはボルスさん達だけかと思っていたが、わざわざみんな見送りに来てくれたようだ。
「待たせて悪かった。思ったより話が長引いてしまった」
「クリス、おせぇよ! まぁみんなとゆっくり話せたから良かったけどな!」
ラルフに苦言を呈されながらも、俺は見送りに来てくれた人達に一人ずつ挨拶へ向かう。
ここに来てくれた全員に世話になったからな。
「最後の挨拶はしたつもりだったけど、トリシャも見送りに来てくれたんだな」
「ルパートから誘われたからね。クリスはウチのお得意様だったし、お見送りぐらい喜んでさせてもらうよ」
「そうか。わざわざ来てくれて嬉しい。色々とポーション生成では世話になったな」
「その分のお金は貰ったし気にしなくていいさ。それよりもコレを貰っとくれ」
そう言ってトリシャから渡されたのは、以前も見た真っ黄色のポーション。
……確か、トリシャからルパートに渡していた滋養強壮に効く高価なポーションだったはず。
シャンテルからも貰ったし、なんとなく覚えていた。
「いいのか? 高価なポーションじゃないのか?」
「クリスは大事なお客さんだし構わないよ。その代わり、エデストルに戻ってきた時はまた贔屓にして頂戴ね」
「なら、ありがたく受け取らせてもらう。必ず贔屓にさせてもらう」
滋養強壮のポーションを受け取り、礼を伝えてから俺は深々と頭を下げた。
続いてはゴーレムの爺さん。あの作業部屋から出てくるとは思ってなかったからいるのが意外だな。
「ゴーレムの爺さんも来てくれたのか。てっきり見送りには来ないと思ってた」
「こう見えてもワシは弟子思いなんじゃよ。……あ、お主じゃなくて、ヘスターの見送りじゃけどな」
「まぁそんなこったろうと思ったよ。ただ、俺は本当に世話になったと思ってる。魔法に【アンチマジック】まで習得させてもらったしな。……あと、ヴァンデッタテインのことも助かった」
「気にせんでええ。魔法を教えたこと以外はワシの好奇心で動いただけじゃからのう。お主じゃなくとも喜んでやっていた」
ゴーレムの爺さんの言っていることは間違いないだろうな。
ただ、どんな理由があれど俺が助かった事実は変わりない。
「そうだろうけど、俺は感謝してるってだけだ。爺さんがいなけりゃ分からないことも多々あっただろうからな」
「勝手に感謝してくれるなら、ワシとしても悪い気分じゃないのう。礼として何かゴーレムについて分かったことがあったら教えに来てくれ」
「分かった。もし仮に何か情報を手に入れることがあれば、惜しみなく情報共有させてもらう」
「ほっほっほ! なんでも言ってみるもんじゃのう」
嬉しそうにしているゴーレムの爺さんと軽く笑い合ってから、次に【月影の牙】の面々の下に向かう。
フェシリアはともかく、ヴィンセントに挨拶すんのは気が進まないが無視するわけにもいかないからな。
「二人も見送りに来てくれたんだな。ありがとう」
「俺は愛弟子であるラルフの見送りだけどな。ラルフとはもう話が済んだし帰らせてもらうぜ?」
「…………別に構わん」
軽く言い返そうと思ったがグッと堪え、見送りにきたはずのヴィンセントが帰るのを見送る。
ラルフは嬉しそうに手を振っているが、俺はそんな気分にはなれないな。
……まぁ、わざわざ無駄な会話をしなくて済んだことを喜ぶか。
「クリス、ヴィンセントが失礼でごめんなさい。ラルフとの会話を終えても残っていたので、悪気がある訳ではないと思いますので許してあげてください」
「いや、悪気しかなかったと思うけど……別に気にしてはないから大丈夫だ。それよりも見送りに来てくれてありがとな」
「クリス達とは浅い関係ではありませんからね。クリスのお陰で自分を見直す良いきっかけになりましたし、これぐらいのお見送りくらいなら致しますよ」
「俺の方こそ良い経験をさせてもらった。無理を言って付き合ってもらった訳だし、ロザの大森林では本当に助かった」
フェシリアと固い握手を交わし、互いを褒め合う。
出会った時を思い返すと、こんな良好な関係を築けるとは思っていなかったな。
「以前も言いましたが、エデストルに戻ってきたらまた一緒に探検に行きましょう。ダンジョンならいつでも案内させて頂きますので」
「それは楽しみだな。ダンジョンにはいつか潜りたいと思っていたから、是非案内を頼む」
「もちろん。喜んでご案内させて頂きます」
フェシリアとも約束をし、いよいよ最後の人物との挨拶を行う。
なんだかんだ最初から最後まで親切にしてくれた、ボルスさん達一行だ。
「クリス君、この間は本当にありがとね! ワイバーンステーキ本当に美味しかった」
「ありがとうございました。久々に美味しいステーキを食べられたよ」
「こっちころ色々と二人には世話になった。商人ギルドの裏店も教えてもらったしな」
「あっ、くれぐれも他言無用でお願いしますね。俺達も利用禁止になるので」
「大丈夫だ。他の人には一切話していない」
「なら、良かった! エデストルに戻ってきたら、また一緒に買い物しようね! 今度は私達がワイバーンステーキを奢るからさ!」
「それは……本当に楽しみだな。戻ってきた時は遠慮なくご馳走させてもらう」
ルパートとルーファスと会話を交わしつつ、俺は一向に会話に参加してこないボルスさんを見る。
俺に背を向けたまま、肩を微妙に揺らしている姿を見るに……どうやら泣いてくれているようだ。
「……ボルスさん。最後に挨拶したいから、こっちを向いてくれ」
「――うるぜぇ! ぢょっと風邪引いだのぜいで見ぜられる顔じゃねぇんだ! 用件があるならこのまま伝えでぐれ!」
明らかな涙声なのだが必死に隠そうとするその姿に、俺はルパートと顔を見合わせて笑ってしまう。
まぁ見られたくないのなら、このまま礼を伝えさせてもらおう。
「そういうことなら、このまま伝えさせてもらうよ。俺達がエデストルに来た時から本当に世話になった。見知らぬ顔だったと思うのに声を掛けてきてくれたのは……当時はなんだこいつと思わなくもなかったが、今となれば本当に親切心のみで声を掛けてきてくれたのが分かる。失礼な態度を取る俺にもとことん付き合ってくれたしな。……まぁ自慢話は鬱陶しかったけど」
「……んぐっ、うぐ。ク、グリスはいづも一言余計なんだよ!」
「世話になったこの恩は一生忘れない。ボルスさん、俺がまた戻る時まで元気で過ごしていてくれよ」
「…………ぐ、グリスッ! お前も元気で暮らずんだぞ! 絶ッ対に死ぬんじゃねぇぞ!」
とうとう我慢ならなくなったのか、涙で顔面がぐちゃぐちゃのボルスさんはこちらを向くと、俺を勢いよく思い切り抱きしめてきた。
こんな感じで抱擁されたのは、両親にもされたことがなかったため俺も思わず涙が出そうになったが……お互いに涙で別れるのは嫌だったため、俺はグッと涙が零れないように堪えた。
微妙に汗臭いしおっさん臭が凄いのだが、俺は抱擁を一生忘れないと思う。
「それじゃ行ってくる。みんなも元気でいてくれ」
たくさんの人に見送られながら、エデストルを後にした。
後ろ髪引かれる思いがないといえば嘘になるが、旅立ったからにはもう振り向くことはできない。
クラウスとの決着をつけるため、俺達は王都に向かって歩を進めたのだった。
六章終了時のステータス(最後の能力判別時)
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【クリス】
適正職業:農民
体力 :30 (+494)
筋力 :25 (+572)
耐久力 :28 (+367)
魔法力 :7 (+210)
敏捷性 :15 (+357)
【特殊スキル】
『毒無効』『自滅撃』『硬質化』『黒霧』『広範化』
【通常スキル】
『繁殖能力上昇』『外皮強化』『肉体向上』『要塞』
『戦いの舞』『聴覚強化』『耐寒耐性』『威圧』『鼓舞』
『強撃』『熱操作』『痛覚遮断』『剛腕』『生命感知』『知覚強化』
『疾風』『知覚範囲強化』『隠密』『狂戦士化』『鉄壁』『変色』
『精神攻撃耐性』『粘糸操作』『魔力感知』『消音歩行』
『自己再生』『身体能力向上』『能力解放』『脳力解放』
『脚力強化』『深紅の瞳』『野生の勘』『士気向上』『毒液』
『音波探知』
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第326話 別れの言葉 にて第六章が終わりました。
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