第324話 秘められた力
年寄りとは思えないほど、はしゃぎながらヴァンデッタテインを見ていたゴーレムの爺さん。
ようやく一通り見終えたようで、先ほどまでとは一転し黙り込んだタイミングを見計らって俺は話しかけた。
「爺さん。一通り見終わったか?」
「…………この剣はとんでもない剣じゃ! ワシに売ってくれ!」
「残念ながらそれはできない相談だ。俺が使うために手に入れた剣だしな。それに既に白金貨四百枚で買い取りたいって人もいる。爺さんにそんな額は支払えないだろ?」
「白金貨四百枚じゃと!? ぐぬぬぬぬ……!」
繁盛しているこの『マジックケイヴ』を経営しているだけあり、爺さんも金を持っていないということはないだろうが、流石に『レラボマーケット』と比べると小規模だしアーロンより金を持っているとは思えない。
どちらにせよ今は金で売る気はない訳だが、爺さんは悔しそうに歯を食いしばっている。
「それよりもルーンについての解説をしてくれ。剣は約束通り見せただろ?」
「……そういう約束じゃったな。ルーンというのは簡単に言うと、魔法でいう詠唱の役割を担っているものなんじゃ」
「魔法の詠唱の役割? 既に言っている意味が分からない」
「例えば【ファイアボール】であれば、“世界を創造する四神の一神。この世を照らし悪を焼却する裁きの光。血の流れよりも紅きもの、昏きものに光指す道を示さん。我が身を糧にその力と為せ――”と詠唱しなければ発動されない。それは分かるな?」
「ああ。俺は短縮詠唱ができないから、毎回その詠唱をして魔法を発動させているからな」
「その詠唱の部分をルーンが担っているということ。つまり【ファイアボール】のルーンが彫られた剣に魔力を流せば、詠唱をせずとも【ファイアボール】が使えるという訳じゃ」
……なるほど。凄く分かりやすい説明だな。
だからヴァンデッタテインに魔力を流した際、赤く光り輝き全くの別物の剣へと変貌したって訳か。
「この剣には、何かしらの魔法が使えるルーンが彫られているという訳だな」
「違う。ワシが言ったのは“魔法でいう詠唱の役割”じゃ。似てはいるが魔法とは全くの別物」
「うーん……。詳しく聞いても理解できるとは思えないな。説明させて悪いが、ルーンに対しての理解は諦める」
「なんじゃそれは! せっかく分かりやすく小一時間かけて説明してやろうと思っておったのに」
話が長くなりそうだし、長く聞いたところで俺に理解はできないと本能的に分かった。
ルーンへの理解は諦め、ヴァンデッタテインに秘められた力についてを聞いてみることにしよう。
「頼んでおいて悪いな。頭の方は決して良い方ではないから、俺に理解するのは無理だと悟った。それでなんだが、この剣に彫られたルーンの効果については分からないか?」
「ワシを誰だと思っておる! 分かるに決まっておろう」
「本当か? なら彫られているルーンの効果について詳しく説明してくれ」
流石はゴーレムの爺さんだな。
伊達にゴーレムの研究してきた訳でなく知識も半端ではない。
俺は早速、ヴァンデッタテインに彫られたルーンについての説明を受けることにした。
「鑑定に出したなら分かっておるだろうが、この剣には三種類のルーンが彫られている。一つ目は普通に魔力を込めることで発動する、純粋な剣の威力増加効果じゃ。ヴァンパイアジュエルのお陰で魔力伝導率が良く、魔力量次第では凄まじい剣へと変化する」
「その効果は知っている。試しに魔力を流した時に赤く光り輝いて、剣の切れ味が増したように感じた」
「それが一つ目のルーン効果じゃな。二つ目は邪気を込めると発動する、剣の素材本来の能力を使える効果じゃ。これについてはワシから詳しく説明することは厳しい」
急に説明が曖昧になった気がする。
邪気の込め方も分からなければ、剣の素材本来の力ってのもかなり曖昧。
「どういうことだ? 今の説明じゃ何も分からない」
「どうもこうも……そうなるようにルーンが彫られているって話じゃ。ルーンについては読み取れるが、邪気だの剣の素材だのはワシにも分からん」
「……モヤモヤするが分からないものは仕方がないな。最後の効果はなんなんだ?」
「最後の効果は生命力を込めると発動する、斬った相手の体力を自身の体力へと替えるドレイン効果じゃ。これはヴァンパイアジュエルに合わせたルーン効果じゃな」
最後は生命力を込めると来たか。
魔力の込め方は分かるが、生命力の込め方は分からな……あっ!
確かヴァンパイアジュエルは、触れている相手の体力を吸い取るとアーロンが話していた。
つまり、俺がヴァンパイアジュエルに触れることで生命力を剣に込めることができ、ドレイン効果のルーンを発動させることができるという訳か。
これなら鍔付近に埋め込めれているのも納得だし、ヴァンデッタテインが緻密な計算を行って作られた至極の一振りだというのが分かる。
生命力を込めて得られるスキルが、ドレイン効果っていうのは割りに合っているのか少々考えものだが、これで色々とヴァンデッタテインの検証に移ることできそうだな。
「詳しい説明助かった。ルーンについてはいまいち分からなかったが、ヴァンデッタテインに付与されているルーンの効果については理解できた」
「それなら良かったわい。今回の礼ってことで、不必要になったらその剣を譲ってくれ」
「それは無理だな。まぁいつか礼はさせてもらう」
俺はゴーレムの爺さんにそう告げ、『マジックケイヴ』を後にした。
色々と新たな発見があったし、思っていた通りヴァンデッタテインの隠された力についてが分かった。
今から北の平原へ行って、ヴァンデッタテインの試し斬りといきたいところだが……。
今日は無理やり起きて眠いし、明日を万全な状態で楽しむために『ゴラッシュ』へ戻るとしようか。