第32話 ブラッドの情報
治療師ギルドを出てからラルフと別れ、数時間かけてブラッドと呼ばれる人物を探した。
別れる前に回ると決めた治療院は全て回り終えたため、俺は再集合場所へと向かう。
俺が手に入れたブラッドなる人物に関する情報は三つ。
一つ目は、どの治療師も顔を渋らせるほどの厄介者ということ。
二つ目は、どうやら凄腕の治療師らしいということ。
三つ目は、とうの昔に落ちぶれていて行方が定かではないということ。
詰まるところ大した情報はなく、現在の居場所を聞き出すことはできなかった。
俺とは別の治療院を当たっているラルフに期待するしかないのだが、別れた時のあの様子では正直期待は出来ない。
再集合場所に指定した行きつけの定食屋に入ると、既にラルフの姿が見えた。
まだ何も頼んでいないのか、水の入ったコップだけが置かれており、ラルフは下を向いたまま入ってきた俺に気づく様子はない。
「ラルフ、待たせたか?」
「ん? ああ、クリス。別に待ってないぞ」
明らかにテンションが低く、ラルフの方も手掛かりを掴むことができなかったのことを察する。
「こっちは大した収穫はなかった。そっちは?」
「ブラッドの情報だよな? あったぜ」
「そうだよな。振り出しに……ん? 手掛かりを見つけたのか?」
「ああ。今は王都にいるらしい」
「なんでその情報を手に入れたのに、あからさまにテンションが低いんだよ」
分かれた時も大分低かったが、今は更にテンションが低くなっている気がする。
諦めないと公言させたつもりなんだが……もしかしてブラッドは既に亡くなってるとかか?
「調べた限り、とんでもない奴だからだよ」
「詳しく聞かせろ」
「ブラッドは昔、治療師ギルドで図抜けて一番の腕を持っていたらしい。その腕で稼げると判断したブラッドは治療院ではなく、流浪の治療師として破格の高値で治療を行っていたんだとよ」
「難しい病気や怪我の治療を、高額の金銭を受け取って治療していたってことか」
「ああ、そうだ。最初はどうしても治したい患者が駆け付けていていたようだが、次第に医療や医学の発展でブラッドの知識は古いものとなっていき、今じゃ王都の裏通り的な場所で貧民相手に少ない金銭を貰ってなんとか生活しているらしい」
俺はその情報に小さくガッツポーズをする。
あの治療師は本当に良い情報をくれたんだな。
「まぁ自業自得だよな。やってきたことが全て自分に降りかかってきたって感じだ。てことで、ブラッドは期待外れって訳だよ」
「……お前は本当に馬鹿なんだな。落ちぶれ切っているからいいんだろうが。これはもしかしたらもしかするかもしれないぞ」
「な、何をそんなにテンション上がってるんだよ!」
「お前には説明するだけ無駄だ。とりあえず飯食え。気分が良いから昼飯代も俺が出してやる」
「なんだよそれ! 教えろよ!」
かなり期待できる情報を手に入れたことで、俺達は定食屋で飯を済ませてから解散の運びとなった。
俺が説明を面倒くさがったため、ラルフは最後までテンションだだ下がりだったが……落ちぶれたブラッドなら、破格の安価で手術を行ってくれる可能性が出てきたという訳だ。
その交渉をするためにも、ブラッドに会いに一度王都へと行かなければならないのだが……。
王都にはクラウスがいる可能性が高いし、可能性は限りなく低いだろうが鉢合わせる可能性を考えたら、ブラッドに関する正確な情報を掴むまで俺は王都に近づきたくない。
それに俺は有毒植物の研究に、金稼ぎも並行してやらなければならないからな。
となると、ラルフかヘスターを王都に行かせるのがベストなんだろうが、怪我の状態を見せるには張本人であるラルフが適任。
ただアホすぎるため、ラルフでは交渉なんて以ての外だ。
……仕方ない。遠征費は俺が捻出して二人に行かせるか。
ヘスターなら上手く交渉もしてくれるだろうし、アホのラルフの面倒役も担ってくれる。
俺は頭の中で諸々の計算をしつつ、『シャングリラホテル』へと戻ったのだった。