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第320話 食事会


 通いなれた冒険者ギルドのすぐ近くにあり、普通の家のような佇まいの小さな店。

 ボルスさんから初めて連れて来てもらった時は、何度も来ようと胸に誓ったぐらいなのだが……結局、今日の今日まで訪れることはなかったな。


 出費を抑えるためにヘスターが飯を作ってくれていたし、その好意を無碍にすることができなかったのだが大きな要因。

 ヘスターの飯も本当に美味いから良かったんだが、こうして最後に一度訪れることができたのは嬉しい。


 ……最後って考えると、急にラルフとヘスター、スノーももう一度食わせてあげたい気分になってきた。

 やっぱボルスの言う通りみんなも連れてくれば良かったと思いつつも、エデストル滞在最終日に来ればいいやと考え直して、俺は『ペコペコ』の扉の前へと立つ。


「この扉から既にワクワクするね! お昼ご飯を我慢してきたから、お腹がぐぅーって鳴ってるよ!」

「匂いが最高ですね。口の中の唾液が勝手に溢れてくる」

「俺なんか朝飯から抜いてるからな! クリスから俺への最後の礼だろ? ガンガンに食わせてもらうからな!」

「ああ、構わない。三人には色々と世話になったし遠慮なく食ってくれ」


 店内から漂う肉の良い匂いだけで会話が弾みつつ、俺はようやく扉に手をかけて中へと入った。

 相変わらず狭い店内。そして、今回は閉まっている状態じゃないため他の客の姿もあるが、予約はキッチリと取っているから四席分空いている。


「いらっしゃ……って、ボルスかよ」

「なんでガッカリしてるんだよ! 俺はお得意様だろうが!」

「うるせぇ。他の客もいるんだから静かにしろ。……んで、そこの席に座ってくれ」


 店主に言われるがまま、俺達はカウンター席に着いた。

 目の前には鉄板があり、この目の前の鉄板で焼いてくれるステーキを食べるには最高の環境。

 他の席の客が食べているステーキの香りで、ルパート同様に俺も腹が鳴りそうになる。


「それじゃ今日は何を食べるんだ?」

「全員ワイバーンステーキで頼む。量は……各々言ってくれ」

「俺は500グラム食わせてもらうぜ! お腹ぺっこぺこだしな!」

「俺は300でお願いします」

「俺も300グラムでいいな。ルパートはどうする?」

「私は……250グラムで!」

「了解。合計で1350だな。切って計ってから焼くから、少し待っててくれ」


 各々量を伝えたところで、店主はステーキを取りに裏へと消えて行った。

 前回はこんなやり取りがなかったが、こうやって各自で量も変えられるんだな。


 しばらく待っていると、四つに切り分けられた肉を持って奥から戻ってきた店主。

 300でも相当な量なのだが、500ともなると肉塊って感じだな。

 

「それじゃ焼いていく。焼けたらすぐに食ってくれよ」


 店主はそう言うと同時に、各自の前の鉄板でステーキを焼き始めた。

 前回と同じように肉から溢れ出る肉汁の弾ける音と、その弾けた肉汁から香る良い匂いが俺の食欲を強烈に刺激する。


 生唾を呑み込みながら、焼かれるステーキに釘付けになっていると……。

 どうやら焼けたようで、綺麗に皿に盛りつけられてから目の前に出された。


「焼けたぜ。食べてくれ」

「それじゃクリス! 遠慮なく頂かせてもらうぜ!」

「ああ。味わって食べてくれ」

「頂きます」

「いっただきまーす!」


 食前の挨拶を行ってから、一気にワイバーンステーキを頬張る。

 ………………やはり美味い。美味すぎる!


 バハムートの洞窟であのまま死んでいたら、このステーキを再び食べることができていなかった。

 生きていて良かった。――心の中でそう強く噛み締めてしまうほどの美味しさ。


 ボルスさん、ルパート。

 それから、あまりテンションが上がっていないようにも見えたルーファスも、一心不乱にステーキを貪り食べている。


 量自体は前回よりも多く、普通のステーキならば食べきるのにそこそこの時間がかかる量なのだが、無言のままひたすらに食べ続けていたということもあり、三人共にあっさりと完食してしまった。


「いやぁ本当に美味かったぜ……!」

「あっさりと食べきれてしまいましたね。まだ口の中が幸せ」

「本当に至福の時間だったぁ! クリス君、ありがとね!」

「ご飯を奢るくらいの礼しかできなくて悪いな。俺の方こそエデストルでは色々と助けられた。本当にありがとう」


 三人に感謝を告げられ、俺も感謝の言葉を伝える。

 ボルスさんは特に世話になったし、エデストルに来てから生意気な俺にも色々と尽くしてくれた。


 このワイバーンステーキだって以前一度奢ってもらったし、これで借りが返せたとは思わないが……。

 こうしてキチンと礼を伝えることができたのは良かった。


「俺の方こそ楽しくて刺激的だったし、感謝しているんだぜ? プラチナランクの俺なんかを師匠として敬ってくれてるしな!」

「その分、最初は馬鹿にしまくってたけどな」

「まぁそこも含めて気に入ってんだよ! 王都に行っても頑張れよ! まぁ出立する日にも見送りに行くけどよ!」

「ああ、ありがとう。ボルスさん達もプラチナランクから上がれるように頑張れよ」

「本当とことん生意気な奴だな!」

「クリス君は年上を敬うってことを知らなそうですもんね!」

「俺はボルスだけ、何故かさん付けなのが気に食わない」


 そんな会話で一盛り上がりしつつ、『ペコペコ』での最高の食事を終えたのだった。



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