第319話 今後の予定
初代勇者の装備品を鑑定した日から、約三週間が経過した。
この間は休まず依頼をこなし続けており、そして――とうとう俺の左腕が完治。
担当してくれた治療師の話によれば、完治するまでに三ヶ月以上はかかるとのことだったが、事あるごとに【自己再生】のスキルを使っていたお陰もあってか、三週間で問題なく腕を動かせるようになるまで回復させることができた。
この間に金の方も十分に貯められたし、エデストルでやり残したことがないかと言えば嘘になるが……王都へ向けて出発する準備は整った。
「やっと腕の固定具を外せたのか! 見慣れちまったから、何もつけてないのに違和感を覚えるぜ!」
「別にそんなことはないだろ。三週間しかつけてなかっただし」
「三週間でも見慣れるもんは見慣れる! なぁヘスター?」
「私に振らないでください。ただ、完治して本当に良かったです! ……これでもう、エデストルを発つ準備は整ったということですかね?」
「そうだな。依頼の数もこなして金も稼いだし、エデストルでやり残したことはないと俺は思ってる。二人はどうなんだ?」
この期間は俺のために時間を使ってもらったし、二人がやり残したことがあるのであれば時間を設けるつもりはある。
ラルフはダンジョン。ヘスターは『マジックケイヴ』で何かやりたいことがあるかもしれないしな。
「私は特にないです。もちろん、まだまだフィリップさんのところで魔法の見識を深めたいですが、数週間でどうにかなるものではありませんしね」
「俺もヘスターと同じだな! ダンジョンに潜りたいって気持ちはあるし、まだまだ【月影の牙】の人達から色々学びたいって気持ちはあるけど、すぐにどうこうできる話じゃないから……やり残したことはないと言えるな!」
「そうか。そういうことなら……もう王都に向けて出発するとしようか。かなり急ではあるがグダグダやってても仕方がないし、三日後の朝に出発で問題ないか?」
「はい。私は大丈夫です」
「確かにかなり急だけど、俺も問題ないぜ!」
二人の同意も得られたことだし、エデストルを発つ日が正式に決まった。
レアルザッド、オックスター、エデストルと街を移り住んできたが、いよいよ終着点でもある王都へと向かう。
殺されかけ、その後も俺を殺そうと動いていた――クラウスとの決着をつける時。
クラウスが【剣神】という適正職業を授かったため、ここまで大事にせざるを得なかったが、この歪みに歪み切った兄弟喧嘩を俺の手で終わらせる。
「……クリス、どうした? すげぇ怖い顔してるぞ」
「悪い。ちょっと考え事をしていた」
クラウスのことを考えると、どうしても黒い感情が抑えきれなくなる。
二人の前ではなるべく考えないようにしていたのだが、最終決戦が目前となり考えてしまった。
ひとまずこの感情は直接対峙するその時まで秘めておき、今は出立のための話し合いを行うとしよう。
それから俺達は三人で買い揃えておく物を決め、王都までのルートを話し合った。
まずは一度レアルザッドへ向かうことが決まり、必要な物に関しては三人で手分けして買うことになった。
道中の魔物についても、もはや何の心配もなく倒すことができるため気にするのはルートだけ。
ルートに関してもヘスターが完璧に記憶してくれるとのことだし、何の心配もない。
必要なものの買い出しは明日行うと決まったところで、俺はラルフとヘスターと別れて、一人で商業通りへと出てきた。
今日は珍しく夜ご飯の約束をしており、既に予約をキッチリと取ってある。
約束の場所に向かうと、予定時間よりも少し早く到着したのにも関わらず既に三人の姿があった。
「おー、クリス! こっちだこっち!」
「早めに着いたつもりだったんだけど、待たせてしまったか?」
「気にしないで大丈夫だよ! 私達が早めについちゃっただけだから!」
「そう。ボルスが弟子の誘いだからって勝手に張り切ってたんだよ」
「おい、ルーファス! 余計なことを言うんじゃねぇ!」
そう。俺が食事の約束をしていたのは、ボルスさんのパーティ一行。
バハムートの洞窟の攻略から戻ってきたら食事に誘おうと決めていたんだが、腕の怪我のせいもあって今日まで引き伸ばしていた。
まぁ正直なところ、一番の理由は金銭的な余裕がなかったってのが大きかったが……。
三週間ずっと依頼をこなしたお陰で金欠も解消されたから、こうして無事に誘うことができたって訳だ。
「そんな感情を持ってくれてるってのは俺としては嬉しいけどな。別に隠さなくてもいいだろ」
「恥ずかしいんだよ! ……それより、ラルフとヘスターはいないのか?」
「俺の個人的な礼だから二人は呼ばなかった。ラルフは必死について来ようとしてたけどな」
「連れてくりゃ良かったのに! ルパートは顔を合わせたことなかったし、クリスのパーティメンバーと会いたかったよな?」
「そうだねー。ボルスがお世話になっていた訳だし挨拶はしたかったかも!」
「ほらなー? 今からでも連れてこいよ!」
「予約だって四人分しか取ってないし、いきなりは無理だろ。いつか紹介するから今日はこの四人でいいよ」
ボルスさんはラルフとヘスターと一緒に飯が食えると思ってたからか、引き下がらずに文句を垂れ続けている。
『ペコペコ』の店主に迷惑はかけたくないし、俺はボルスさんの文句を聞き流しつつ、三人を連れてステーキ専門店『ペコペコ』へ向かったのだった。