第318話 アイドスカルナ
「それでルーンによる三種の魔法武器ってのはどういったものなんだ?」
「残念ながらそこまでは分からん! とにかく使い方次第で、違った三つの性能を引き出せるって訳だ!」
「肝心なところが分からないのかよ。引き出し方についても分からないのか?」
「魔力を流せばルーンを起動させることができるだろうが、切り替えの方法は分からない! 何せ三種のルーンが刻まれた武器なんて初めて見たからな!」
有用情報をくれていることには間違いないと思うんだが、肝心な情報が足らない。
まぁ知らないことを尋ねても仕方がないし、自分で見つけていくしかないようだな。
「要約するとルーンが刻まれた強度の高い剣ってことか。金貨二枚の価値があったかどうかは微妙なところだが、中々良い情報が得られた」
「ちょっと待て。勝手に切り上げるな! その剣の性能はまだあるぞ! その埋め込まれている赤い宝石について話してないだろ」
「……確かに聞いてなかったな。この宝石は何の意味があるんだ?」
「その宝石は『ヴァンパイアジュエル』と呼ばれる宝石で、魔力伝導率を大幅に上昇させる効果と――体力を吸い取る効果を持った宝石だ!」
魔力伝導率を上げているのは、以前魔力を流した時になんとなく分かってはいたが……。
体力を吸い取る効果も持っていたとは気づかなかった。
「斬った敵の体力を吸い取るって認識でいいのか?」
「若干違うな! 宝石に触れた物の体力を吸い取るといった効果だ! 触れる度に体力を吸収するため、基本的には盾なんかに付けられている宝石なんだがなぁ」
「剣との相性自体は悪いってことか」
「そもそもヴァンパイアジェエル自体がほとんど流通していないし、正しい使い方がコレと決まっているものではないが……俺なら剣に使おうとは思わないな!」
これにはアーロンと同意見だな。ヴァンパイアジュエルが埋め込まれているのは鍔付近。
ただ斬り裂くだけじゃそもそも触れことはなく、深々と斬り裂いた時にしか触れない。
剣でのガードをする時なら話は変わるだろうが……俺の場合はボルス流の躱し特化だしな。
「話を聞く限り、魔力伝導率を上昇させるためのものって認識で良さそうだな。ルーンが彫られているからこそ、わざわざヴァンパイアジェエルを埋め込んだんだろう」
「それだけなら、別にヴァンパイアジュエルじゃなくても良さそうなのが引っかかる! まぁ鑑定では分からない謎については、自分自身で見つけるんだな」
「ああ、色々と助かった。ちなみにだが、この剣を売るとしたらいくらの値がつくんだ?」
「売る気があるのか!? 白金貨三百枚! ……いや、白金貨四百枚で俺に売ってくれっ!」
なんとなく好奇心で尋ねたのだが、予想以上の食いつきで俺に迫ってきたアーロン。
どうやら一人の鑑定士として平静を装っていたようで、金額の本気っぷりを見てもエデストル一の道具屋の社長としては欲しくて仕方がなかったって感じだな。
「好奇心で尋ねただけで売るつもりは一切ない。期待させたみたいで悪かったな」
「……いや、俺の方こそ取り乱してすまなかったな。まぁ売りたくなったらいつでも俺のところに持ってきてくれ! 喜んで買わせてもらうからよ!」
クラウスとの戦いが終わったら、アーロンに売ってもいいかもしれない。
白金貨四百枚の方が色々な側面を考えたら有用だし、心の片隅でずっと考えていた王都の奴隷解放も……金があった方が実現できそうな気がする。
まぁ今はクラウスのことだけに集中するつもりだけど、一つの選択肢として覚えておこう。
「気が変わったら売りに来させてもらう。それともう一つ鑑定してもらいたい物があるんだがいいか?」
「ん? 更に金貨二枚かかってもいいなら喜んで鑑定させてもらうぞ!」
「金の方なら払わせてもらう。この鎧なんだが、鑑定の方を頼む」
俺はヴァンデッタテインを受け取り、代わりに鎧をアーロンに手渡した。
剣ばかりに目を向けて、あまり気にしていなかった初代勇者のもう一つの装備品。
生半可な鎧ではないと思うため、金貨二枚支払ってでも鑑定してもらった方がいいはず。
「分かった! それじゃすぐに鑑定させてもらう。――ッ!! おい、この鎧はどこで見つけた奴だ!?」
鑑定が終わったようだが、アーロンは両目を見開き固まったままそう尋ねてきた。
この反応は良いのか、悪いのか……。
悪いということはなさそうだが、結果を聞くまでは分からない。
「ヴァンデッタテインと同じ場所だ。その鎧も初代勇者の残した装備品だと思う」
「やっぱりそうだったか! この鎧もネームド装備だからな! 名前は『アイドスカルナ』。装備者のダメージ量によって、力を増大させる性能を持っている鎧だ!」
流石は初代勇者が身に着けていたとされる装備品だな。
鎧なのにこんな性能を持っているのか。
「装備者の体力が少なくなるほど、力が上昇する鎧ってことか? ヴァンデッタテインよりもシンプルで分かりやすいな」
「それだけじゃないぞ! 単純に鎧としての硬度も高い! ……くっそ、羨ましい!」
感情を隠さなくなったアーロンに思わず笑ってしまう。
ヴァンデッタテインはともかく、鎧の方も破格の性能だったようだな。
俺としては……ヴァンデッタテインを俺が装備し、アイドスカルナをラルフが装備するのがベストだと今のところは思っている。
ダメージを受けるのはタンクであるラルフの方が多いし、攻撃を受ける度に力を増すタンクなんて敵からしたら凶悪だろうしな。
【自滅撃】とアイドスカルナを掛け合わせるとどうなるかも気になるが、色々差し引いてもラルフに持たせるのがベストなはず。
「とりあえず鎧の方の性能も分かった。安くはなかったが良い情報を貰えたよ。また何か機会があれば来させてもらう」
「ああ! 俺の方こそ久々に良い物を見せてもらった! 売りたい時は是非俺のとこに持ってきてくれ!」
最初は若干いがみ合っていたものの、俺はアーロンと固い握手を交わしてから……。
鑑定してもらった装備品を持って、『レラボマーケット』を後にしたのだった。





