第316話 オーナー社長
大勢の人で溢れている店内を掻き分け、俺は目に付いた一人の店員の下へと向かった。
店員が取り合ってくれるか分からないが、ひとまずケヴィンからの紹介状を見せてみよう。
「すまないがちょっといいか?」
「はい、大丈夫ですよ。何かお探しでしょうか?」
「いや、ちょっとここの社長に用があって探しているんだ。一応、紹介状もあるんだが案内してもらうことってできるか?」
俺はそう言いながら、ケヴィンの紹介状を店員に手渡した。
予想外だったのか、かなり怪訝そうな表情を浮かべつつも……紹介状を受け取ってくれた店員。
「分かりました。ここで少しだけお待ち頂けますか? お店にいたらご案内させて頂きます」
「ああ、待たせてもらう」
バックヤードへと消えて行った店員を見送り、俺は店内の商品を見ながら戻ってくるのを待つ。
恐らく店長だかに俺の紹介状を見せ、どう対応すればいいかを尋ねているところだろう。
店員の怪訝そうな表情から、八割方諦めはついているが……まだ分からない。
残りの二割の可能性に賭けつつ待っていると、奥から先ほどの店員が戻ってきた。
「お待たせしました。店長が案内すると仰っていますので、私についてきてもらってもよろしいですか?」
よし!
俺は心の中でガッツポーズをしながらも、態度には出さずに平静を装う。
「分かった。案内をよろしく頼む」
店員に案内されるがまま、普通は従業員しか立ち入ることのできないバックヤードを突き進む。
客に見せることのない場所だと思うが、売り場と変わらないほど隅々まで綺麗に掃除されているな。
「あ、あの人がこのお店の店長です。紹介状も既に渡してありますので、詳しい場所は店長から聞いてもらってもいいですか?」
「ああ。色々と手間をかけさせて悪かった」
「いえ、それでは私は仕事に戻らせて頂きます」
階段の前で立っている店長が見えたところで、ここまで対応してくれた店員は売り場へと戻っていった。
一人となった俺は、そのまま階段に立っている店長の下へと向かう。
「待たせて悪かった。オーナー社長の下に案内してもらえるとのことで間違いないか?」
「あなたが紹介状を持ってきた方でしたか。はい。社長室にいらっしゃいますので、きっちりとご案内させて頂きます」
「よろしく頼む」
年齢は四十代半ばで、随分と気弱そうな人だな。
もっと敏腕な感じをイメージしていたが、店長はそういう感じでもなさそうだ。
そんな気弱そうな店長に案内されるがまま階段を上り、三階へと上がってすぐの大きな一室。
黒い室名札には社長室と書かれているため、この部屋が社長室で間違いない。
「このお部屋が社長室となります。後ろについてきてください」
そう言ってから店長は扉を四回ノックし、中から返事がきたのを聞いてから扉をゆっくりと開けた。
返事の声から男というのは分かっていたが……中にいたのはまさかの小さいおっさん。
そう、ケヴィンと同じドワーフだった。
「なんだよ、目を丸くさせやがって! 『レラボマーケット』の社長がドワーフでビックリしたのか?」
「確かに少し面を食らった。てっきりスマートな人物だとばかり思ってたからな」
「ああ!? 俺はどこからどう見てもスマートだろうが!」
「いや、全くスマートではないな」
「チッ、随分と生意気な客人なこった! ったく、久しぶりに手紙の一枚でも送ってきたのかと思ったら……ケヴィンの奴、ろくでもない奴を紹介してきやがった!」
少し緊張していたが、ドワーフと分かって緊張するのが一気にバカバカしくなった。
性格的に『イチリュウ』の店主と同じタイプっぽいし、一切の遠慮もいらない感じだな。
それと……ケヴィンがなんで知り合いなのか疑問だったが、同じドワーフ族だったから知り合いなのか。
これほどまでにしっくりとくる理由はないだろう。
「……それではアーロン社長。私は失礼させて頂きますね」
「おお、放置してすまなかったな。ヘイデン、案内ありがとよ!」
俺とアーロンと呼ばれたオーナー社長のやり取りを静かに聞いていた店長は、ぺこりと頭を下げて部屋から出て行った。
部屋にアーロンと二人残された俺は、早速本題へと切り出すことに決めた。
「早速で悪いんだが、本題に入らせてもらう」
「別に構わねぇよ! お前さんと世間話がしたいとは微塵も思わねぇしな!」
「俺も全くの同意見だ。――ケヴィンからあんたが一流の鑑定士だと聞いて尋ねてきた。鑑定してもらいたい物があるんだがいいか?」
「ケヴィンの頼みだし、まぁお前さんが生意気ってこと以外は断る理由がねぇな!」
「それは良かった。大剣と鎧の二種類を持ってきたから、この二つを鑑定してくれると助かる」
「鑑定はしてやるけど、鑑定料金はちゃんと頂くからな!」
大きな声で金銭を要求してくるアーロンの前で、俺は返事をせずにヴァンデッタテインを抜いて見せる。
するとケヴィンと同じように、アーロンは食いつくようにヴァンデッタテインに近づくと、目を輝かせながら興奮した様子で見始めた。





