第314話 一人行動
くそっ。とんでもない治療だったな。
いきなりのことで【痛覚遮断】を使う暇もなく、叫び声を上げそうなほどの痛みを味わわされた。
ただ、左腕の治療は無事に成功。
このまま左腕を固定させたまま、完治するまで待てば無事に動かせるようになるとのことらしい。
安い方を選んだということもあって、治療費の方もそんなかからなかったし結果的には受診して良かった。
完全に治るまで左腕は固定具をつけたまま動かせないが、右腕はいつも通り動かすことができるし、エデストルを出発するまでに完治させれば何の問題もない。
金を稼ぐための依頼の方は【広範化】によるサポートに回りつつ、右手を使って【粘糸操作】と【硬質化】での攻撃を行えば十二分に戦える。
今後のことについてを頭の中でイメージしつつ、俺は治療師ギルドから『ゴラッシュ』へと帰ってきた。
治療師ギルドが想像以上に混んでいたため戻るのが遅くなってしまったが、まぁ丁度宴会の準備が済んでいるところのはず。
「遅くなって悪かった」
俺がそう言葉に出しながら部屋の中を見渡すと、ヘスターが台所で料理を作っており、その作った料理をラルフがテーブルの上に置いていっていた。
かなり腕によりをかけているようで、いつもの何倍も凝った料理の数々が置かれている。
「クリス! 帰ってきたか! 腕の方はどうだったんだ?」
「ああ、ちゃんと治療してもらった。後はしばらく休ませれば問題なく、動かせるようになるそうだ」
「ちゃんと治ると聞いて安心しました! それではクリスさんの腕が治るのを待ってから、エデストルを出発って流れになりますかね?」
「その流れになるだろうな。俺の都合で色々とスケジュールをズラして悪い」
「気にしないでください。エデストルでの挨拶周りとかやるべきことを済ませる時間とか……すぐに出発できる訳じゃありませんしね」
「そうそう! バルバッド山の攻略で金だって結構使っちまったし、金を貯める準備期間だって必要だしな! クリスは依頼の方は休むのか?」
「いや、依頼にはサポートとしてついていくつもりだ。左腕が動かせないだけで体調的にはもう問題ないからな」
「そりゃ良かった! クリスのサポートがありゃ、まず危険に陥ることはないしな!」
「迷惑をかける分、索敵含めた雑用もしっかりやらせてもらう」
「休んで頂いても問題ないと思うのですが、一緒に依頼をこなしてくれるのは嬉しいですね。……それでは料理の方も作り終えましたので、宴会といきましょうか!」
明日以降の話はこれくらいにし、ヘスターの言う通り宴会といこうか。
無事に帰ってこれた上にヴァンデッタテインの入手も達成。
今日くらいは色々忘れ、楽しくパーッと飲み食いするとしよう。
久しぶりの宴会を行った翌日。
夜遅くまで騒いだため、ラルフはもちろんのことヘスターもまだ起きていないようだ。
俺に関しては中継地点で散々眠らせてもらったため、なんとか朝に目覚めることができた。
これから依頼にでも行くか迷ったが……ラルフとスノーはバルバッド山とエデストル間を往復して買い出し。
ヘスターはずっと付きっ切りで看病してくれていたみたいだし、今日は休みとして俺一人でできることを行うとしよう。
まぁ一人でやれることなんて限られているし、左腕を負傷している今できることと言えばヴァンデッタテインの性能を調べることぐらい。
あと、鎧の性能についても調べたいところだな。
正直な話、あまり多くの人にはヴァンデッタテインのことは話したくないのだが、ケヴィンに相談するのは必要なことだと思う。
ある程度の信頼も置いているし、まずはケヴィンのところでヴァンデッタテインと鎧を見せて、詳しい性能についてを見てもらおうか。
そうと決まれば早速、二人とスノーを起こさないように準備を整え、俺はケヴィンの武器屋へ向けて歩を進めた。
ヴァンデッタテインと鎧を担ぎ、裏道にあるケヴィンの武器屋へと辿り着いた。
相変わらず壁の至るところが黒ずんでいて、店が開いているのかどうかも分からない怪しい雰囲気の外観。
煙突から煙が上っていることから、開いているとは思うんだけど……。
扉を軽くノックをしてから、俺はケヴィンの武器屋の中へと入った。
「ケヴィン。いるか?」
「――いるぞ。作業を終えたらそっちに行くから、ちょっと待っててくれや」
「分かった」
店の奥からは鉄を打つような音が聞こえており、その音が鳴り止んだと共に汗だくのケヴィンが顔を見せてくれた。
「待たせてすまなかったな。んで、今日は何の用事で来たんだ?」
「実は見てもらいたい武器と防具あって来たんだ。良ければ、鑑定してくれると助かる」
俺はそう言ってから、ケヴィンの前にヴァンデッタテインと鎧を置いた。
装備を見た瞬間に両目を見開き驚いた表情を見せ、食いつくようにヴァンデッタテインへと手を伸ばしたケヴィン。
「こりゃ……とんでもねぇ武器だな。俺も見たことないレベルの代物だぞ」
「やっぱり凄い代物なんだな。その大剣はバハムートの洞窟で手に入れた――ヴァンデッタテインだ」
「この大剣を実際に見せられちゃ、嘘だろとは口が裂けても言えねぇな」
「それでヴァンデッタテインの鑑定をしてもらうことはできるか? どれくらいの強度でどんな能力を秘めているのかが知りたい」
俺がそう尋ねると、ケヴィンは一度ヴァンデッタテインから手を放して首を
横へと振った。
興奮は治まっていない様子だが、自分に見る資格がないという意思表示なのか両手を上にあげている。
「すまねぇが正確な識別は俺にはできねぇ。武器を取り扱ってはいるが、生粋の鍛冶屋で作る専門だからな」
「……そうか。ケヴィンなら鑑定してくれると思ったが、そういうことなら仕方ない」
「――ただ、ヴァンデッタテインであろうが、鑑定できる人物を知っている」
「本当か? よければ紹介してくれるとありがたい」
「もちろん構わない。……その代わりと言っちゃなんだが、少しだけ見ても構わないか?」
俺はケヴィンの案を快く受け、興奮するようにヴァンデッタテインを見るケヴィンをしばらく見守った。