表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

315/540

第309話 戦果


 俺は全身の痛みで飛び起きるように目を覚ました。

 その飛び起きた反動で怒った更なる痛みに体が悲鳴を上げ、俺はほぼ無意識下で【痛覚遮断】を使用。


 叫びそうになるほどの痛みが一瞬で治まり、ゴツゴツとした岩壁を見ながら今の状況を冷静に思い出すことにした。

 確か……バハムートとの戦闘に苦戦し、最後の足掻きとして【自滅撃】を使うことを決断したんだっけか?


 それで【自滅撃】を使う前にせっかくだからと、【狂戦士化】を発動させた――ところまではなんとか思い出した。

 ただ、【狂戦士化】を発動させてからの部分の記憶が飛び飛びになっていて、コマ送りのようにバハムートをぶった斬ったシーンしか思い出すことができない。


 前回使用した時は【狂戦士化】を使っても意識は保てていたはずなのに、今回は一切の記憶がない。

 体の状態によって変化が起きるのかもしれないが、使用回数が少ないだけに【狂戦士化】についてはいまいち不明な点が多い。


 とりあえず覚えていないものを考えても仕方がないため、洞窟の天井からゆっくりと視線を下へと落とし、辺りがどうなっているかを確認してみると……。

 微かな記憶の通り、惨たらしい死体となって俺の真横で倒れているバハムートの死体が目に飛び込んできた。


 流れ出ている血液で俺はズブ濡れ状態。

 生乾きなのは幸いだが、死臭で鼻が完全にイカレてしまっていて臭いの判別がつかない。


 とにかく、実感は一切ないけど俺はバハムートを仕留めることができたんだな。

 この惨状じゃ無事に倒したとは言えないし、死んでいてもおかしくない死闘だったが……なんとか生きてラルフ、ヘスター、スノーの下へと帰ることができそうだ。


 その事実に俺は少しホッとした気持ちになる。

 復讐しか見えていなかったこそ、ここまで脇目も振らずに突き進んで来れた俺にとって良い感情なのかどうか分からないが、今はとにかく二人とスノーの顔が見たい。


 横になったまま回復ポーションで血を洗いながすように回しかけ、カラッカラの喉を少しでも潤すように残りの回復ポーションを一気に呷る。

 更に【自己再生】も発動させて自主的にも体力の回復を図り、体が動くようになるまでジッと待っていると――ようやく体を起こせるくらいにまで体力が回復した。


 まぁ回復したといっても動かない箇所はいくつもあるし、なんとか歩ける状態であって戦闘を行える体では決してない。

 帰路に魔物がまだいる可能性を考えると、魔物の気配がないこの洞窟の最奥部でもう少し回復を図った方がいいのは分かるが、バハムートとの死闘からどれくらい時間が経ったのか分からない。


 ラルフの性格を考えると洞窟内に探しに来てしまう可能性もあり得るし、少しでも早く脱出を図った方がいい。

 それになにより……バハムートと戦っていた時は覆われていた紫色の瘴気がすっかりと消えている。


 あの瘴気があのバハムートから放出されていたことの証明であり、それと同時にバハムート洞窟やバルバッド山を覆っていた瘴気が晴れた可能性が高い。

 瘴気が晴れたのであれば、ヘスターがその意味を汲み取ってくれそうでもあるが、外がどうなっているかは分からないからな。


 少なくとも洞窟内の魔物は減っているだろうし、さっきよりかは確実に安全なはず。

 鋼の剣を杖替わりにし、右腕を上手く使いながら立ち上った俺は石の墓の前へと向かう。


 帰るにしても、わざわざこの洞窟を攻略しに来た目的である“ヴァンデッタテイン”を放置したまま帰る訳にはいかない。

 バハムートとの激しい戦闘を行ったため、石の墓が粉砕していてもおかしくないと思ったのだが、最初に見た光景と変わらない姿のままだった。


 ぽつんと建てられた石の墓と、その墓に立てかけられた大剣と鎧。

 何らかの魔法がかけられているのか、ものの見事に傷一つない状態だな。


 大剣と鎧を頂く前に、俺は石の墓の前で軽く頭を下げる。

 本来ならば両手を合わせたいところだが、あいにく両手ともに使えない状態のため許してほしい。


 頭を下げてから石の墓に彫られた文字を見てみると、そこには――勇者クリスここに眠ると刻まれていた。

 俺の名前があったことに心臓が跳ね上がったが、初代勇者の名前が俺と同じクリスだったってだけのこと。


 言われてみれば、文献や噂話にも“初代勇者”という呼び名でしか通っていなかったし、初代勇者の名前はこれまで知らなかった。

 クリスという名前自体、特筆して珍しい名前でもない、たまたまの偶然が重なっただけなのだが……。

 名前が同じなだけで変な親近感が湧いてきて、妙に嬉しい気持ちになる。


 改めて石の墓に頭を下げてから、立て掛けられた大剣と鎧を手にし上手いこと背負い込んだ。

 入手した装備品をじっくりと観察したいところだが、左腕が動かず右腕も支えに使わないといけない以上じっくり見る余裕がないからな。 

 死体となったバハムートを横目に、素材を剥ぎ取りたい気持ちを抑え――無事にヴァンデッタテインを手にすることのできた俺は、バハムートの洞窟からの脱出を図ることに決めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 画像をクリックすると、コミックウォーカーに飛びます! ▼▼▼  
表紙絵
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、コミックウォーカーに飛びます! ▲▲▲ 
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ