第301話 毒の威力
「クリス! 真っ暗で全然見えなかったけど無事だったか!」
「クリスさんを信じてはいたのですけど……無事で本当に良かったです!」
「心配かけたみたいで悪かったな。きっちりと仕事はしてきたし、傷一つないから安心してくれ」
二人にきちんと無事を伝え、俺自身も含めて三人で大きく一息吐く。
落ち着きがてら、二人に【黒霧】の中で何をしていたのかの説明しようと思ったのだが……。
俺達にそんな暇を与えてくれることなく俺が立ち込めさせた【黒霧】は、恐らく羽の生えた狼のような魔物によって吹き飛ばされたようだ。
魔物の体に毒が回るのを【黒霧】が晴れるまでじわじわと待つつもりだったが、目晦ましの【黒霧】が晴れてしまったため魔物達にすぐ見つかってしまうはず。
さっきまでは無警戒だったからこそ気づかれなかったが、今は周囲を大警戒中だろうからな。
魔物の大半は毒が回っているし一度退散してもしてもいい場面だけど、数が多かろうと大半が手負いとなればわざわざ逃げる必要はない。
「ゆっくりと説明をしたかったところだが、俺が使った【黒霧】が晴らされてしまったみたいだ。黒いスライム以外は手負いだから、全員で一気に片付けるとしよう」
「色々と急展開すぎるな! 無事を喜んだ次の瞬間には戦闘かよ!」
「仕方ないだろ。ここでしっかり制しておかなければ、また魔物が湧いてくる可能性だってある」
「ですね。バハムートの洞窟の中は濃い瘴気が立ち込めているみたいですし、しっかりとトドメを刺して数を減らさないと事故を引き起こす切っ掛けになります」
単独で動くとは言ったものの、ここからは二人とスノーにも戦ってもらう。
元気な漆黒のスライムはヘドロスライムとの戦闘経験もある俺が倒すため、毒が効いていて動きの鈍い魔物相手だから苦戦を強いられることはないはず。
案の上、少し離れた場所にいる俺達に気が付いたであろう魔物が、洞窟の方からぞろぞろと向かってきているのが見えた。
先頭を立っているのは羽の生えた狼のような魔物で、その後ろを金色の猿の群れ。
更にその後ろをペタペタと地を這いながらスライムが向かってきており、残りは角の生えた小人のような魔物を含めて、地面に蹲ったまま動く気配がない。
これも最初の想定通りで、魔物によって毒の効き方に差があるようだ。
牙を剥き出しにしながら先頭を駆けている四匹の羽の生えた狼は、毒への耐性があるのは間違いない。
走る体のバランスにブレが生じているため、俺のような完全無効って訳ではなさそうだけどな。
「それでは早速魔法を放ちます。【アイシクルレイン】」
俺が特に指示を出す前に、先頭を駆けてきた羽の生えた狼に対して無数の氷の矢を放ったヘスター。
ある程度は躱されて致命傷は避けられたものの、それでも一匹に対して約十本ほどの氷の矢が突き刺さっている。
動きを更に鈍くさせた羽の生えた狼は、背後に控える金猿の群れと入れ替わるように後退していった。
そして、代わりに前へと出てきた金猿だが……目が虚ろになっている個体も多く、毒が相当に回っているのが分かる。
衝動的に走ったことにより、体の毒が一気に回ったんだろうな。
羽の生えた狼も金猿も、もはや自滅するまでの時間稼ぎだけで倒せそうだし前を進む二種類の魔物は二人に任せるとして、俺は大きく迂回するように後ろをペタペタと進むスライムの下へと駆けだした。
何をしてくるか分からなく、一切のダメージを負っていないスライムが一番面倒くさい。
狙いを三匹の黒いスライムに定め――【脚力強化】を使って一気に間合いを詰めていく。
スライム状の体を持つ漆黒のスライムにこのまま攻撃しても、もちろんのこと一切の攻撃も通らないのだが……。
俺は剣を引き抜くこともせず、スキルを発動させつつ構わずそのまま殴りにかかった。
漆黒のスライムは考えなしで突っ込んでくる俺を飲み込もうとしているのか、口を開くかのようにスライム状の体を動かして大きく見せている。
スライムに慢心なんて概念があるのか分からないが、打撃攻撃を食らわないというその認識をぶっ壊してやる。
突っ込んだ勢いすらも拳に乗せ、俺は肥大化した漆黒のスライム目掛けて拳を放った。
そしてスライムの体に俺の拳が触れた瞬間――【硬質化】のスキルを発動。
俺の拳だけでなく、この手で触れたスライムの体も硬質化させたことにより、漆黒のスライムは俺のパンチの威力を吸収することができなくなった。
ただの拳とはいえ、スキルの乗った一撃が元スライムの体が耐えられる訳もなく、一瞬にして体の核ごと粉々に砕け散った。
この要領でスライムを倒せると分かれば、残りの二匹は作業感覚で倒すことができる。
毒っぽい何かを吐き出したりと、漆黒のスライムも最後まで抵抗を見せてきたが――俺は一匹一撃で残りのスライムを屠ることに成功させたのだった。