第299話 役割分担
「バハムートの洞窟がこの先にあるのか! 長い道のりだったけど、ようやく洞窟まで辿り着いたな! 早速行ってみようぜ!」
「おい、ラルフ。ちょっと待て」
バハムートの洞窟があると聞き、上がったテンションそのままの足で向かおうとしているラルフを一度止める。
俺も人のことを言えた義理ではないが、ラルフは本当に考えなし過ぎるな。
「なんだよ! 洞窟があるなら早く行った方がいいだろ?」
「まずは俺の話を聞いてからにしろ。……洞窟の入口付近には大量の魔物の気配がある。作戦を決めてから向かわないと、囲まれてやられる可能性があるくらいの数だ」
「そんな数の魔物がいるんですか! この山を覆う瘴気の出所なだけありますね」
「数だけじゃなく生命反応も強いし、一匹一匹がそれなりに危険な魔物。それに――」
「……それになんだよ!」
「そろそろ瘴気時間だろ? 瘴気が濃くなる影響で洞窟の魔物が変化するのか分からないが、仮に残ったままで背後から濃い瘴気の魔物に襲われたらひとたまりもない」
俺がそう伝えると、ラルフは険しい顔をして黙り込んだ。
考えなしのラルフでも、流石にいきなり突っ込んでいくのは厳しいと分かってくれたみたいだな。
「これからどう動きますか? 瘴気時間をやり過ごしてから、バハムートの洞窟に向かうのが確実だと私は思いますけど」
「俺も同意見だ。そこでもう一つ案があるんだが、濃い瘴気となる瘴気時間の魔物はスノーと二人がメインで戦ってほしいと考えてる」
「クリスはサポートに回るってことか?」
「その目的も含まれているが、大きな目的は体力の温存だな。洞窟の魔物は基本的に俺一人で倒そうと思っているんだよ」
「はぁ!? 数がめちゃくちゃ多いんだろ? それをクリス一人で倒すって言うのかよ!」
「……【広範化】と毒の合わせ技を使うんですね」
派手に驚いたラルフと、俺の考えていることを汲み取ってくれたヘスター。
ヘスターの言う通りで、バハムートの洞窟の入口に付近に溜まっている魔物は毒殺しようと考えている。
雑魚魔物を相手には試したことはあるが、強い魔物相手にはここまで試してきていない。
使うと決めてから使わないと二人とスノーへの誤爆が怖いし、かといって効果範囲が広い訳ではなく敵が範囲外となるリスクも大きいためここまでは温存して戦ってきた。
ただ洞窟で大勢の敵となれば、これ以上の使い時はないと言っても過言ではない。
何十、何百と練習は重ねてきたし、ここで使わなければ会得した意味がないからな。
「そうだ。洞窟内の魔物は【広範化】を使いながら、毒を飲んで敵を一掃するつもりでいる」
「練習してたアレか! ……ん? その戦い方で敵を一掃できるなら、別に今から洞窟に行ってもいいんじゃないか?」
「毒は即効くとは限らないし、種族によっても効き方に差があるからな。なんなら毒が効かない魔物がいる可能性だって十分に考えられる。それに知っての通り、【広範化】は効果範囲が狭い。洞窟内の魔物を一掃できても、瞬殺できるとは限らないんだよ」
「ラルフは一度思考してから行動、発言しましょう。安易に行動すると命取りになりますからね」
「分かってるよ! 何も言わず魔物を倒すことだけ考えるっての!」
ヘスターに指摘されて軽く拗ねたラルフを他所に、俺とヘスターで瘴気時間の魔物の対処についてを話していく。
今回はタンク役はなしで、ラルフとスノーの前衛アタッカー二枚にヘスターの後衛アタッカー一枚の超攻撃的布陣で戦うことに決めた。
俺は二人とスノーへの指示と【粘糸操作】によるサポートをメインで行い、戦況を見ながら【広範化】での回復、補助も行っていくつもり。
ここまで盾役に徹してきたラルフだが、【月影の牙】のヴィンセントのお陰か攻撃面も大分成長している。
ラルフずっとは温存する形となっていたし、ここで一つ爆発してもらいたいところ。
そしてサポートへと回ることになった俺はというと……瘴気時間のことは二人とスノーに任せ、意識を今から洞窟内の魔物に向ける。
重要なのは攻撃を避け続け、間合いに入りながら的確に毒を食らわせていくこと。
ラルフにも言った通り、魔物の種族によって毒が効く時間が異なるだろうし、毒を食らわせれば倒せると思って動かないように最大の準備を整える。
洞窟内。しかも単独ということで【黒霧】も有効だし、スキルを駆使しつつ戦うことを頭の中でシミュレートしていく。
この間の魔物の処理も二人とスノーに任せてしばらく考えていると……どうやら瘴気が濃くなり始めた様子。
「それじゃラルフ、ヘスター、スノー。ここからはよろしく頼んだぞ」
「ああ! サクサクッと倒してくるから、クリスは細かなサポートよろしくな!」
「クリスさんのサポートもいらないほど、完璧に倒してきてみせます」
「アウッ!」
二人とスノーの頼もしい声を聴きつつ――俺達は瘴気の中で生成され始めた魔物に向かっていったのだった。