第298話 未知のエリア
「ようやく瘴気が薄くなってきたか?」
「だな! ……ふへー。なんとか凌ぐことができたぜ!」
「出現する魔物は強力でしたが、ロザの大森林の経験のお陰もあって倒しきりましたね」
俺達は肩で息をしつつも、瘴気が薄くなっていくまで耐えきることができた。
トロールを倒した後も多種多様な魔物が生成され、かなりの苦戦を強いられたものの……新たに得ることのできた特殊スキルが本当に有用で、これといったダメージを負うこともなく瘴気時間をやり過ごすことができた。
「ひとまず中継地点に戻るとしよう。そこで軽く話し合いをしつつ、体力の回復を図りたい」
「だな! ちんたらしてたらまた魔物が湧いてくるし、早く身を隠そうぜ!」
濃い瘴気から通常の瘴気へと戻り、魔物が入れ変わる微妙な間を利用して安全な中継地点へと戻る。
瘴気もなく、魔物が襲ってくる可能性が限りなく少ない中継地点に身を潜めながら、俺は【広範化】を使って回復ポーションを一気に呷った。
「ふぅー。回復ポーションは疲れた体に効くな! 戦闘中も所々で回復ポーション使ってくれてただろ?」
「戦闘中でも気づいたのか。せっかく多めに購入したし、低級回復ポーションは惜しまず使おうと思ってな。一本で三人とスノーの分の回復を図れるなら安いもんだろ」
「良い使い方だったと思います。本当なら私がその役目をやることができればベストなんですけどね」
「確かに! ヘスターが使えれば、戦況を見渡せる位置で的確に使えるしな! ……まぁスキルの実を食えない時点でたらればでしかねぇけどよ」
「話が脱線してしまったけど、とりあえず濃い瘴気の中でも戦えることが分かった。明日からは瘴気時間を気にせず探索しようと思うが異論はないよな?」
俺は脱線しかけた話を戻し、二人にそう問いかける。
「俺は異論ないぜ! 確かに強い魔物だったけど、俺達のがもっと強いってことが分かったからな!」
「私も異論はありません。バハムートの洞窟の捜索を行い、初代勇者の残した装備を手に入れましょう」
俺の問いにそう力強く返事をしてくれた二人。
スノーも尻尾を振りながら目を輝かせているし、俺達の意見に同意してくれていると思う。
これで時間を気にすることなく、バハムートの洞窟捜索に移れるな。
「よし。これで明日以降の方針は決まりだな。とりあえず体を休めながら戦った魔物の情報を精査しつつ、今日のところは早めに下山するとしよう」
「賛成! まずは――ブラックキャップの情報からか?」
「ですね。客観的に見ることができてた私の意見を話しますので、実際に戦って違う点の修正をしてください」
こうして、記憶が薄れる前に魔物に関する話し合いを始めた。
濃い瘴気の中で戦った魔物の精査をし終えたら、さっき話した通り今日のところは下山するとしよう。
翌日。
早速、今日から本格的にバルバッド山中腹の探索を始める。
これまでの探索である程度の目星はつけているため、昨日までは時間の関係上探索できなかった範囲を探索していくつもりだ。
既にこなれた足取りで中継地点まで辿り着くと、持参した荷物の半分を下ろしてから極力時間のロスがないように山を登り始める。
手掛かりらしい手掛かりはないのだが魔物の強さで判断し、より強い魔物のいる方向を目指してとにかく山道を突き進んでいった。
以前までは引き返していた場所を通り過ぎ、未知の場所に足を踏み込んでから約一時間ほど。
目星をつけていた方向が正解であることを示すように、出現する魔物の強さが上がってきている。
濃い瘴気の時に現れていたブラックキャップや上位トロールほどではないが、俺とスノーだけのゴリ押しだけでは通用しない魔物も現れ始め、進む速度も明確に落ち始めた。
……ただ、着実にバハムートの洞窟の気配を感じ取れる。
存在するかまだ分からない伝説の装備を思い浮かべながら、俺達は進むペースは落としつつも地に足つけて確実に前へと突き進んで行った。
それから更に二時間ほど進んだ時。
何かを感じ取ったスノーが、前方を見て突然吠え出した。
すぐにスノーが吠えている方向を向き、三人同時に確認したのだが……特に何も見つけることができない。
索敵スキルを使っている俺でも何の感知もできないため、ラルフとヘスターも絶対に見つけることはできていないはず。
「急に吠え出してどうしたんですかね?」
「恐らく、魔物であるスノーにしか分からない何かを感じ取ったんだろう」
「クリスでも何か分からないのか?」
「ああ、スキルを使っているが何も感知できない。……ただ、スノーにおいては絶対の信頼を置いているし、この方向を進んで行こうと考えている」
毛を逆立たせているスノーを軽く撫でつつ、二人にそう伝えてからスノーが吠えた方向を目指して歩を進めていく。
吠えた地点から十分ほど進んだところで――ようやく俺のスキルにも“何か”が引っかかった。
思わず足を止め、固まってしまう。
これは……大量の魔物の生命反応か?
それも並みの魔物ではなく、かなりの強さを誇った魔物のおびただしい数の気配。
スノーはこの気配を感知して、あの時吠えていたんだな。
「急に立ち止まってどうした? まさか何か感知したのか?」
「ああ。スノーが感知した何かを俺も今感知することができた。恐らくだが……この先にバハムートの洞窟がある」
俺は二人にその事実を告げ、ここから先の行動をどうするかを話し合うことに決めたのだった。