第297話 トロール
この巨体の魔物はトロールで間違いないが、恐らくただのトロールではなさそうだ。
上位種であるウォー・トロールや、キングトロール等の可能性が非常に高い。
まぁ上位種だとしてもやることは変わらないが、気をつけて戦わなければあっさりとやられる可能性があるからな。
トロールの大きな特徴としては、力と耐久力が桁違いに高いこと。
そして一番気をつけなくてはいけないのはーー再生能力が高い点。
ボルスさんの話から予測するに、俺がカルロから奪った【自己再生】と同じか、その上位スキルを保持している可能性が高い。
そのため生半可な攻撃は無意味でしかなく、深手を負わせられる強烈な一撃が必要となる。
ただトロールの強みは強固な耐久力であり、【自己再生】スキルとの相性が抜群に良いのが非常に厄介だとボルスさんは話していた。
今目の前にいる魔物はそんなトロールの上位種であり、スキルをフルに使った状態で完璧な一撃を食らわせないと深手は負わせられないはず。
かといって、完璧な一撃を狙っていたら戦闘が長引くことは確実。
そうなってくると……速度重視で倒すのであれば、違った切り口で倒すほかない。
頭の中でこのトロールを倒す算段をつけた俺は、ヘスターの魔法が効いている内に俺と横並びで前線へと駆けあがったスノーに細かく指示を飛ばした。
出した指示は、とにかく懐に潜り込んで攻撃を行ってくれというもの。
ただし攻撃の威力は抑え、トロールの攻撃に当たらないことに注力してもらい、ボルス流から俺が派生させたあの避けタンクのような役割をスノーに担ってもらうつもりでいる。
力と耐久力が高く【自己再生】持ちの厄介なトロールだが、見た目通り敏捷性に関してはかなり劣っている。
倒すことに意識を向けなければ、ボルスさんの指導を受けていないスノーでも攻撃を避け続けることは簡単なはずだ。
後ろに控えているヘスターには、スノーが攻撃を食らってしまいそうになった場合のサポートを指示し――これで俺は自由に動くことが可能となる。
近づくスノーに気を取られているところを【粘糸操作】を使い、十本全ての指から粘糸飛ばしてぐるぐるとトロールの周囲を回りながら粘糸を巻き付けていく。
トロールは糸を鬱陶しそうにはしているが、糸が絡まっていたとしても圧倒的な力があるため、生半可な粘糸での捕縛では意味をなさず自由に動いている。
……ただ、今のところはこれでいい。
変に捕縛できてしまうとスノーに注意が向かず、粘糸を取ることに注力しかねない。
俺の今の目的は、トロールにとにかく粘糸を巻き付けること。
足元を狙って攻撃と回避を繰り返すスノーと、顔面を狙って魔法を打ち込むヘスター。
そんなスノーとヘスターのお陰で、俺はかなりの粘糸をトロールに巻きつけることができた。
それでもまだ自由自在にトロールは動けているのだが、この粘糸を【硬質化】で硬くしてしまえば話は大きく変わるはず。
これで硬糸が簡単に破られたら無駄に終わるため、無事に捕縛に成功してほしいところだが……。
俺は心の中で軽く祈りつつ、【硬質化】のスキルを発動させた。
トロールに巻き付いていた無数の粘糸は一気に硬質化し、トロールごとガッチガチに固める事に成功。
足先から胸付近までの体の部位が一気に動かせなくなったため、トロールはバランスを崩して頭から地面に倒れ込んだ。
作戦は狙い通り上手くいった。
こうなってしまえば、後は倒れたトロールの首を刎ねるだけで倒すことができる。
スノーと入れ替わるように前へと出て、俺は倒れたまま必死に藻掻いてるトロールの首を刎ね落としにかかった。
首も丸太のように太く、スキルを発動させて思い切り振り下ろすことでようやく刎ね飛ばすことに成功。
苦悶の表情を浮かべた生首がコロコロと地面を転がり、俺は首のなくなったトロールの体をジッと見つめる。
普通の魔物ならばこれで確実に絶命するはずだが、トロールは強力な再生能力を持つ魔物。
油断は一切せず、仮に首が生えてきたとしても対処できるように構えていたのだが……。
流石のトロールであれど首を落とされたら絶命するようで、緑色の巨体が再び動き出すことはなかった。
それから駆け寄ってきたスノーと共に、ラルフとヘスターの下へと戻った。
二人が他の魔物に襲われていないか心配だったが、予想以上に素早くトロールを倒したためか魔物に襲われてはいない様子。
「クリス、見てたぞ! 楽勝だったじゃんか!」
「楽勝じゃない。スノーとヘスターのお陰で一方的に俺のやりたいことができただけだ」
「それでも楽勝なのには変わりないだろ! あの馬鹿デカい魔物を数分で倒したんだし!」
「……。なら、そういうことでいいや。それよりも次の魔物に備えて態勢を整えるぞ」
「おい! 純粋褒めたのに適当に流すなよ!」
トロールは倒したもののまだ瘴気は濃いまま。
元気が有り余っている様子のラルフは放置し、次の魔物に備えて態勢を整える。
ブラックキャップもトロールの上位種もかなりの強敵だったが、ここまではそれ以上に俺達が強くなっていることを実感できた結果だった。
ただ決して油断はしすぎず、現れた魔物を全力で倒すことだけを考えとしよう。





