第294話 山頂
「中腹に足を踏み込んでからは連戦に次ぐ連戦だったからな。こうやって一息入れられるだけで本当にありがたく感じる」
「本当にそう! この山、流石に魔物の数が多すぎるだろ! 想像の何倍も魔物が湧いてきやがったぞ!」
「それでクリスさん。ここからどうしますか? 初めてバルバッド山に足を踏み入れ、この中継地点の確認もできましたし一度帰るのもありだと思います。私もこの魔物の数は想定外でしたので」
一息入れて落ち着く間もなく、ヘスターはそんな質問を俺に飛ばしてきた。
確かに、ここからどうするかはかなりの悩みどころ。
まだそこまで山の奥まで来た訳ではないし、ヘスターの助言通りに一度戻って体勢を整えるのもありだと思う。
ただ、俺の心情としてはこのままバハムートの洞窟を見つけるつもりだったし、体力面も温存してここまで来たため探索を続行することは可能。
……二人とスノーの体力次第って感じだな。
「二人次第って感じだな。ラルフとヘスターの体力はどんな感じだ? 瘴気による体への影響とかもあったら教えてほしい」
「ちなみにだけど俺はまだまだいけるぜ? まぁ戦闘にはほとんど参加してなかったし、敵を抑えていただけだしな! 瘴気の方も特に問題ないんじゃねぇか? 少なくとも体に異変はない!」
「私だけのことを言うのであれば全然余裕です。ラルフ以上に戦闘では何もしてませんので。瘴気の方もラルフ同様に異常なしです」
二人に関してはこのまま探索を進めても問題なさそうか。
瘴気による体への影響もなさそうだし、後は俺と一緒に戦闘を行いまくってたスノーだけ。
「スノーはどうだ? 疲れたとかはあるか?」
「アウッ!」
言葉が通じているか分からないが腰下ろしてスノーにそう尋ねると、尻尾をブンブン振りながら鳴いて返事をしてきた。
……これは元気ということでいいのか?
軽く触ってスノーの体を確認するが、外傷も一切なさそうだしスノーも平気そうだな。
「俺もここまで体力を温存して戦っていたから、全員大丈夫なら探索を続行しようと思う。ロザの大森林と違っていつでも探索に臨めるし、無理はするつもりはないから危険と判断したら即座に引き返す――で異論はないか?」
「俺は構わねぇよ! ここまで何もしてないしバリバリ働くぜ!」
「クリスさんが大丈夫なのであれば私も問題ありません。危ないと感じたら、私もすぐに進言させて頂きます。この先はもう安全な中継地点の情報がありませんでしたので」
「ああ、遠慮なく言ってくれたら助かる。とりあえず、もう少し休憩したら探索を再開するとしようか」
そんな会話から約三十分ほど休息を取ってから、俺達は再び探索を行うべく中継地点を後にした。
予定としては時間をしっかりと把握しながら探索を行い、次の瘴気が濃くなる時間までにこの中継地点まで戻ってくることを考えている。
バハムートの洞窟を発見してしまったらどうするかは分からないが、安全を第一に考えて動くことを優先する。
何かイレギュラーがあった場合に備えて【黒霧】はいつでも使えるようにしつつ、俺達は再びバルバッド山の探索を再開した。
とにかく山頂を目指して歩を進め、道中で襲い掛かってくる魔物を倒して回る。
非常に歩き難い山道に加えて瘴気のせいなのか、それとも標高が高いせいで空気が薄いからか、体の疲労を強く感じ始めたところで――ようやくバルバッド山の山頂が見えてきた。
山頂付近はほとんど瘴気が消えかけており、途中から薄々は感じ始めていたのだが……。
「……何もないな」
「本当に何もねぇぞ! 山頂には魔物も全然いない!」
「途中から魔物の強さも麓付近と同じになってましたもんね」
せっかく山頂まで来たのにも関わらず、ただ眺めが良いというだけで何も存在しない。
ヘスターの言う通り、ある一定の場所からは山頂に近づくにつれて魔物がまた弱くなり始めていた。
その時点で薄々勘付いてはいたが、バハムートの洞窟は山頂付近にはないようだ。
“洞窟”と銘打っている訳だし、山頂にないのは当たり前と言えば当たり前なのだが、かと言ってここまでの道中でそれっぽい洞窟も見ていない。
バルバッド山を登っていれば道中で見つかると思ったが、流石にそんな甘くはないってことだな。
……これはバハムートの洞窟を見つけるだけでもかなりの骨が折れそうだ。
「山頂には何もないって分かっただけでまぁ収穫といえるか」
「クリスはポジティブだな! 俺は無駄足としか思えねぇわ!」
「とりあえず山を登ったことで時間も食ってしまったし、急いであの中継地点まで戻ろう。瘴気が濃くなる瘴気時間をやり過ごしてから……今日のところは下山だな」
「やはり、今日だけでバハムートの洞窟を見つけるのは厳しかったですね」
「瘴気が常に立ち込めている場所でも探索できることは分かったし、地道に探索をしていくしかないだろうな。魔物の強さを気にしつつ、強い魔物が現れる場所を重点的に探していこう」
情報もほとんど出回っていないため、ここからは本当に自分達の足で見つけるしかない。
次回の探索からは魔物が手強かった辺りを重点的に探すことを決め――今日のところは無事に帰還することを考えて動くとするか。