第29話 パーティ結成
二人を林へと残し、レアルザッドへと戻ってきた俺は、残っている十五種類の内八種類の有毒植物を食べてから、教会で能力判別を行った。
結果はどの数値も上がっておらず、残りの七種類の中に潜在能力を引き上げる有毒植物が二種類混ざっているか、乾燥させたことで効能がなくなってしまったかのどちらかに絞られた。
単純な確率だけで考えると、効能が消えてしまった可能性の方が高いと思うのだが、これまでのお金や努力が水の泡と消えるため、できれば残りの七種類に残っていて欲しいところ。
それからパーティ結成記念ということで、商業地区で少し豪勢に食べ物を買い漁り、一足先に宿屋に戻って有毒植物の結果を書き記しながら、俺は二人の帰りを待った。
「クリスさん、戻りました」
「ほら、今日は俺達が串焼きを買ってきてやったぞ!」
……考えていることは同じなのか、どうやら二人も帰り際に食べ物を買って帰ってきたらしい。
それにしても串焼きか。
二人にしてはかなり奮発したのだろうが、俺の買ってきた物と比べると大分見劣りしてしまう。
二人を立てるために買ってきたものを出すかどうかを迷ったが、冷えたら不味くなるし串焼きでは物足らないし、まぁいいか。
「おかえり。俺も色々と買ってきておいてあるぞ。一応、パーティ結成の記念日だからな」
「なんだよー。じゃあ俺達が買う必要なかったじゃねぇか。……まぁでも、串焼きは何本あっても嬉しいか」
「俺が買ったのは串焼きじゃないけどな」
「――っ! おおっ! ヘスター見てみろ、ちゃんとした肉だ! それと、これは『正華饅頭』の豚まん! あと、『マルエラ』の魚の造りに『まるは食堂』の炊き込みご飯まである! クリス、どんだけ買ってきたんだよ!」
出会ってから一番の喜びを見せているラルフ。
串焼きを食っている様子から察していたが、俺と同じくらいラルフも食べることが好きなようだ。
「やっぱり長年レアルザッドで暮らしてるだけあって詳しいんだな」
「当たり前だろ! 表通りの有名店ばっかだぞ! ずっと指を咥えて眺めてた料理がここに並んでいやがる……!」
「本当に凄い! ……けど、串焼きだけなのがちょっと申し訳なくなるね」
「確かに……。串焼きしか買ってないが、俺達もこれ食っていいのか?」
「お前らには何の期待もしてないから安心していい。飯を食いながら、今後について話していこうか」
広げた料理を三人でつまみながら、このパーティの今後についてを話していく。
まず一番重要なのは、目的をしっかりと定めること。
俺の目的は定まっているけど、この二人がどうしたいのかを聞いておかなければ、この先どこかで揉める可能性が出てくるからな。
「まずはこのパーティの目的を決めたい。『三人で冒険者をやる』みたいな曖昧な目標じゃなく、しっかりとした目的をな」
「目的……? いっぱい食えるようにしていくとかじゃ駄目なのか?」
「現状でいっぱい食えてるだろ。もっとしっかりとした目的だ」
「私は魔法使いになりたいです。そのためにお金を稼ぎたいんですけど、個人の目的だから駄目ですかね?」
「いや、個人の目的でもいいぞ。ただ、魔法使いになってどうするんだ? 魔法使いになったら、ヘスターはこのパーティを抜けるのか?」
「うーん……。曖昧にしか考えていなかったので難しいですね。抜けるつもりは決してないんですけど……」
「分かんねぇ。言い出しっぺのクリスから挙げてくれよ」
「まぁそうだな。――俺の目的は弟に復讐を果たすこと。できれば、それをこのパーティに属しながら成し遂げたいと思ってる」
俺がそう発した瞬間、二人の飯を食べる手が止まり、室内が静寂に包まれる。
復讐の提案だし、まあこんな空気になるとは思っていた。
だからこそ、最後に提案したかったのだが……仕方ない。
「………………はぁ? 復讐――って殺すってことだよな? 殺すのがパーティの目的? それなら一人で勝手にやればいいだろ!」
「一人でやれる相手ならこんな話はしない」
「だ、だって……相手は弟なんだろ?」
「ああ。ただ、最強に近い人間だと俺は思ってる」
「最強の弟さんってどういうことなのですか? 正直、私も話をついていけていないです」
二人は口をあんぐりと開け、動揺を隠しきれていない様子。
パーティ結成の宴会が、いきなりお通夜のような感じになってしまったな。
「前に軽くだが、ここに来る前に俺が森で暮らしていたことは話したよな?」
「ああ。食べれそうな物は全て食べ、なんとか生き長らえてたって話だよな?」
「そうだ。そこに至るまでの経緯を今から話す」
それから俺は、二人に俺が家を追い出されるまでの話を事細かに聞かせた。
生まれてからずっと厳しく指導され、『天恵の儀』で父親から失望、罵倒。
そして、【剣神】を授かったクラウスに逆恨みされて殺されかけた話。
「なるほどな。それで、盗みを働いてからペイシャの森に逃げたのか」
「ああ。小さい時に親に捨てられたお前らに比べれば、俺の動機なんて小さく見えるかもしれないが、たまたま転んでいなければあの時殺されていた。その時のことを考えると、俺はどうしてもクラウスを許すことは出来ない」
「私は……本当に両親との記憶がありませんので、両親に対する感情すら持ち合わせていません。クリスさんの感情は分かりませんが、確かに殺されかけた相手に復讐したいと思う気持ちは正しいのかもしれません」
「話を聞いて俺は納得したな。俺の場合はもういないが、義父は本気で殺してやろうと思っていたし」
「ラルフは、足の怪我も義父のせいだもんね」
「……まぁ俺の話はいいや。とりあえず動機については納得できたかな。殺しを手伝う気は更々ないけど」
「それで構わない。パーティを組んだ以上、殺し以外の手伝いはしてもらうけどな」
とりあえず理解してもらうことができたのは良かった。
この条件さえ吞み込んでくれれば、俺はこいつらとパーティを組むメリットが生まれる。
「ああ、なるほど。全て納得いった。夜な夜な弄ってた枯草は弟を殺すための毒だったんだな」
「いや? あれは本当に俺が食べるためのものだ。数百年に一度の逸材と言われている【剣神】を毒殺できるとは思ってないし、たとえできたとしてもそんな殺し方は選ばない」
「じゃあ、あの枯草は本当になんなんだよ!」
「あの枯草は、潜在能力を引き上げる効能を持つ毒草だよ。あれを食うことによって、俺の肉体は徐々にだが強くなっていることに気が付いた」
「そんな植物が存在するのか……? 聞いたことねぇぞ」
「そりゃ毒草を食える人間じゃなければ、発見することが出来ないからな。植物の効能に気づいているのは、過言ではなく全世界で俺ぐらいだろ」
「スケールがデカすぎてついていけねぇよ」
「まあ、いずれ分かればいい。それより二人の目的を話せ」
話はようやく戻り、二人の目的を聞き出す。
俺のクラウスへの復讐を手伝わせるのであれば、この二人の目的も手伝うのが筋だ。
「私は魔法使いになって、ラルフとクリスさんの役に立つのが目的です。……これじゃ駄目ですかね?」
「ヘスターが良いならいいんじゃないか? とりあえずは今のところ目的って感じだな。ラルフは?」
「俺は…………。俺は、誰もが認める最強の冒険者になりたい!」
「ふっ、ラルフらしくていいな」
「馬鹿にすんな!」
「馬鹿にしてねぇよ。……でも、そうなると俺と同じ目的ってことでいいのか?」
「…………は?」
「俺の弟のクラウスは、世間が言うには数百年ぶりに現れた逸材だ。今でこそまだ名前は轟いていないが、すぐに頭角を現してくるだろう。勇者、英雄と祭り上げられるのが目に見えている」
「クリスは自分の弟が最強の英雄になると思ってるのか。恨んでいる割には、随分と買っているんだな」
「まぁ確かに、そうなってほしいっていう願望は強いかもしれないな。これから復讐するって相手だ。そこらのB級冒険者じゃやりがいがない」
「なんだ。やっぱ願望かよ」
確かにやるからには、クラウスには頂点まで上ってくれなきゃ困る。
俺が身命を賭して復讐をするんだからな。
「俺の願望はあるが、長い歴史の中で五人しか発現していない【剣神】を授かり、これから王都で最高峰の指導をされるのは間違いない。クラウスが何もしない選択を取らない限りは、高確率で頂点に近づく存在になるだろうよ」
「それじゃあ……俺もクリスの弟を超えるのが目的ってことになるのか?」
「あいつが頂点に上り詰めたのなら、そうなるだろうな」
「クリスさんは弟さんへの復讐。ラルフはクリスさんの弟を超える力をつける。そして私は二人の目的を達成させる。全員の目的が一致したってことでいいんですかね?」
回りまわってという感じだが、ヘスターの言う通り三人の目的は合致した。
まともに歩くことすらままならない【聖騎士】に、魔法の使えない【魔法使い】。
そして毒だけは効かない【農民】という、現状では考えうる最弱のパーティだが……狙うは数百年に一人の英雄。
傍から見たら無謀としかいえないことだが、俺は落ちこぼれの大逆襲って感じで嫌いじゃない。
どちらにせよ、やれるかどうかじゃなくやるしかないのだ。
「そうだな。俺に合わせてもらった感じはするが、三人の目的が一致した。このパーティの最終目標は【剣神】であるクラウスを超えること。異論はないか?」
「ない!」
「私もないです!」
――こうして変な繋がりによる、最弱パーティが生まれたのであった。
お読み頂き、本当にありがとうございます!
少しでも「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ
読者様の応援が作者の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!