第285話 スキル紹介
「本番はここからだ。二つ目のスキル【黒霧】。ラルフ、窓を開けてくれ」
「窓……? 分かった!」
部屋の中で使うかどうか迷ったが、一回くらいなら大丈夫だろう。
室内で使った時の感覚も掴みたいし、効果を試すという観点からも使用するべきだ。
「このスキルは真っ黒な霧を周囲に放出するスキル。とりあえずこのスキルの感覚を味わってほしい」
「真っ黒な霧ですか? いまいち想像がつかないのですが……分かりました。使ってみてください」
「それじゃいくぞ。【黒霧】」
合図も兼ねて、しっかりと口に出してスキルを発動させた。
俺の言葉と共に一気に周囲に黒い霧が放出され、部屋一体が一瞬にして暗闇に包まれる。
「な、なんだこれ! 本当に何も見えねぇぞ! 窓がどこかも分からねぇ!」
「声は聞こえるんですね。……でも、一センチ前も見えないので本当に何が起こっているのか分からないです」
「ヘスター。炎属性の魔法で照らそうとしてみてくれ」
「分かりました。【ファイア】――!? 火の光も見えないんですか?」
「やっぱり見えないよな。【黒霧】は視界が完全に遮られるスキルなんだ」
「戦闘中にこんな暗闇に包まれたら本気で恐ろしいぞ! もう効果は分かったから早くスキルを解除してくれ!」
「解除したいのも山々だが、このスキルは解除できない。風に乗って外に出るのを待つしかないんだ」
「なんだそれ! とんだ欠陥スキルじゃねぇか!」
ピーピーと喚くラルフの言葉を流しつつ、開けた窓から【黒霧】が出ていくのを待っていると、約三十分ほどでようやく周囲が見えるぐらいまで霧が流れ出た。
やはり室内だと風通りが悪いせいで、【黒霧】の持続時間が相当伸びる。
窓を開けていなければ【黒霧】状態をずっと維持できるだろうし、これぐらいの風量ならば追加で【黒霧】を放つことで真っ暗なままを維持できそうだ。
今が夜じゃなければ外で大騒ぎになっていそうだが、部屋で試すことができたのは良かったな。
「ようやく部屋の中を見渡せるぐらいにまで収まりましたね。クリスさん自身も見えないんですよね?」
「ああ。俺も見えないが、他のスキルのお陰で精度高く動くことはできる」
「それなら相当に強力なスキルではないでしょうか? タイミング次第では敵を一掃できますよ」
「そうかぁ? 俺には何が良いスキルのかさっぱりだったけどな!」
「ヘスターの言う通り強力なスキルだが、一つ弱点があるんだ。あの窓の外に向かって【ウインドアロー】を撃ってくれ」
「分かりました。【ウインドアロー】」
ヘスターが窓の外に向かって【ウインドアロー】を放つと、部屋の中に残っていた【黒霧】は全て風魔法に乗って外へと出て行った。
既に収まりかけていたとはいえ、【ウインドアロー】の下級魔法でも全て飛ばされてしまうのはやはり欠点と言わざる負えない。
「……なるほど。風に弱いんですね!」
「そういうことだ。屋外で使うとなると、風が吹く度に飛ばされてしまう」
「それは確かに欠点ですが……私一つ作戦を思いつきましたよ。【黒霧】を風魔法に留めて、遠い位置にいる敵にぶつけるとかできそうじゃないですか?」
「その使い方はできそうだな。今度外で試してみるか」
「上手く合わせるまでに時間はかかりそうですが、使えるようになれば良い飛び道具になりますよ」
ヘスターの案により、早速良い作戦が思いついた。
確かに【ウインドボール】か何かに留めることができれば、相手にのみ【黒霧】を浴びせることができる。
使いどころは限られてくるだろうが、強力な合わせ技と呼べるな。
「おーい、俺を除け者にするなよ! 【黒霧】はもう分かったから次のスキル紹介に移ってくれ!」
「ピンとこなかったからって急かすな。……次は【広範化】ってスキルだ。正直俺でもどんなスキルなのか何も分かっていない」
「なんじゃそりゃ! そんなスキルあるのかよ!」
「俺に対しては一切効果が感じられなかったからな。とりあえず使うから、何か変化があったら教えてくれ」
【広範化】もスキル効果が分かっていないため、部屋の中で使うのは少し怖いが……。
色々試して攻撃系に作用することはなかったし、恐らく大丈夫なはずだ。
「それじゃ使うぞ。【広範化】」
俺がスキルを発動させてから、三人で顔を見合わせ沈黙の時間が流れた。
さっきは部屋が真っ暗になり、【ファイア】ですら見えない黒い霧を放出。
その大きな変化の反動から、少し気まずい空気となっている。
「……なーんも変化がないぞ! 本当にスキルを使ったのか?」
「少し待て。ここから色々と試していくんだよ。まずは――【聴覚強化】」
新たに【聴覚強化】のスキルを発動させ、二人の反応を伺ってみる。
これでスキルの効果が二人に乗るようなことがあれば、【広範化】は化け物スキルで確定するのだが……。
「変化ないな! 一体なんなんだそのスキル!」
「私も変化はありませんね。何も変わりないです」
流石にスキルが乗ることはないか。
攻撃や魔法の広範化でもなく、スキルの効果を広範化させる訳でもない。
残すことはもうほとんどないのだが、あるとすればアイテムの使用ぐらいか。
仮に使用したアイテムの効果を周囲の人間にも与えるスキルであれば、とてつもないスキルであるんだが実際に試してみないとな。
「ラルフ。自分の腕を軽く斬ってくれないか」
「俺の腕を? 何をさせる気だよ!」
「いいから早くしてくれ」
疑念の目を向けながらも、剣を抜いて軽く腕を斬ってくれたラルフ。
俺も軽く自分の腕を斬りつけてから、すぐに回復ポーションを飲み干した。
もちろんのこと、一瞬にして俺の軽い斬り傷は塞がっていったのだが……問題はラルフの方。
斬っていた右腕を見てみると――ラルフの腕の傷も塞がり始めている。
「おっ? なんだこれ! 傷が塞がっていってるぞ!」
「これで分かった。【広範化】のスキル効果は一定の範囲にいる人物に、自分が受けたアイテムの効果を付与させる効果。――凄まじいスキルかもしれない!」
俺は一人でガッツポーズを決めたのだが、二人はあまり理解が追い付いていない様子。
強さの理由も説明するとして、【広範化】のスキルの検証をもう少し行っていくか。