第283話 今後の方針
能力判別の後、お決まりとなっている北の平原にて【広範化】の試し撃ちを行ったのだが……。
色々なことを試しても何の変化も反応もなく、ただ無駄に時間を浪費してしまった。
どんなスキルなのか全く分からずモヤモヤした気持ちを残したままだが、夕方からラルフ、ヘスターと話し合いの予定があるため、途中で切り上げて『ゴラッシュ』へと帰宅。
家に着いたタイミングでは誰も戻っていなかったのだが、帰宅してシャワーを浴び終えたタイミングで二人とスノーが帰ってきた。
「すいません。冒険者ギルドが混んでいて報告に時間がかかり、少し遅くなってしまいました」
「俺もさっき帰ってきたばかりだから気にしないでいい。それより依頼の方は大丈夫だったか?」
「もちろん! クリス抜きでも、プラチナランクの依頼を楽々こなせるようになってるからな!」
「ラルフは偉そうにしてますけど、スノーが凄く頑張ってくれているんです。スノーが殺し損ねた魔物を私が仕留めているだけで、本当に楽に依頼はこなせてますよ」
「そうか。スノーが頑張ってくれてるんだな」
「アウッ!」
寄ってきたスノーを撫でながら、俺の代わりを果たしてくれていることを褒めまくる。
話し合いが終わったら、好物のメロンと良い肉を買って労ってあげるとしよう。
「スノーだけじゃなく、俺だって敵の攻撃防いで頑張っただろうが!」
「はいはい。それよりも早く話し合いを始めましょう。帰るのが少し遅れてしまいましたしね」
「そうだな。シャワーとかは浴びなくていいのか?」
「そこまで汚れていないし後で良いぜ!」
「私も話し合いの後で大丈夫です」
「そうか。なら、話し合いを始めるとするか」
テーブルの椅子に囲むように座り、話し合いを行える体勢を整える。
北の平原からの帰りに買ったお菓子を真ん中に置いてから、まずは俺から話を振ることにした。
「それじゃ早速だが、明日からの動きについてを決めたいと思う。二人が依頼をこなしてくれていたからお金にはそこそこ余裕があるが、これからどうやって動きたいとかあるか?」
「私はもう少し依頼を行ってお金を稼ぎたいと思ってますね。ロザの大森林でかなり使ってしまいましたし、余裕があるといっても少し心配です」
「俺は新たに動き出していいと思ってるぜ! スキルの実って戦果を挙げたんだし、もうそこまで地に足を着ける必要はないだろ!」
早速意見が分かれたか。
どっちの意見も分かるが、俺の気持ちとしてはラルフ派の意見だな。
王女との約束を取り付け、スキルの実が手に入ったことで準備はほぼ整ったといっても過言ではない。
そのこともあって浮足立っているのかもしれないが、早く事を進めたい気持ちにでいっぱいになっている。
「ラルフの意見も分かりますけど、クリスさんも病み上がりですし依頼で諸々を慣れさせるっていうのは大事だと思います。スキルの実から得たスキルの能力も見ていませんし、依頼の魔物相手に動きを合わせたいですから」
「……まぁそう言われるとぐうの音も出ねぇけどよ! クリスはどう思ってるんだ?」
「俺も心情的にはラルフと同じ意見ではあるが、ヘスターの言っていることが尤もだな。金を稼ぎつつ、パーティでの連携を慣れさせることのできる依頼をこなすのがベストな選択だろう」
ということで、明日からは俺も加わっての依頼となりそうだな。
スキルの実を取るという目的を達成したし、王都へ向かう最終準備を整えたいところだが何をするにしても金は必要となる。
今日食べたスキルの実の影響もあるだろうし、しばらくは依頼をこなしつつ連携確認を行うがベスト。
「数週間の動きはそれで間違いないと思いますが、お金を貯め終えたらどうしますか? クリスさんもラルフも、新たに動き出したいってことは何かやりたいことがあったんですよね?」
「俺はダンジョン攻略だ! クラウスは五十階層を突破したって話だし、今の力量を確かめるためにも最適だと思ったんだよ!」
「……ラルフに悪いがダンジョン攻略はないな。個人的には凄く興味はあるが、ダンジョンは特殊な環境すぎる部分が大きい。今更潜る価値を見出せないし、腕試しだけで五十階層の攻略は時間の無駄だ」
「えーっ! せっかく楽しみにしてたのに潜らないのかよ! エデストルと言ったらダンジョンだろうが!」
「全てが終わって気が向いたら来ようぜ。ダンジョンは五十階層以降も階層が続いているんだろ? 焦って攻略しないでも楽しめそうだしな」
「……そういうことならまぁいいか! 約束したぞ。絶対だからな!」
俺がクラウスと戦って生きていたらの話だが、ダンジョンを攻略してみたい気持ちはあるからな。
【月影の牙】と争うのも面白そうだし、全ての荷が下りたらダンジョン攻略は行ってみたい。
「ダンジョン攻略は却下ということは、クリスさんは何をしようとしているんですか?」
「そうそう! 他に何かやりたいことがあるんだろ?」
「エデストルに来て最初に依頼をこなした場所だよ。俺は来る前からずっと気になってたんだ」
二人はピンと来ていないのか、首を傾げて考え込んでいる。
エデストルに来てから濃かったし、覚えていなくても仕方ないと言えば仕方ないが……この二人を見たらボルスさんは悲しむだろうな。
「バルバット山だよ。ボルスさんと来ただろ?」
俺が伝えると、やっと思い出したのか二人は拳で手を叩いて顔を上げた。