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第281話 同じ感性

 

 ヘンジャクは前回も出してくれた美味いお茶を淹れてくれた。

 向かい合って美味いお茶を飲みながら、早速話を始める。


「まずは薬草を届けてくれてありがとう。さっきも言ったが本当に助かった」

「別に気にせんでいい。ロザの大森林の話を聞きたかったから、クリスには回復してもらわんといけなかったからな」

「理由はどうあれ助かったことには変わりない。……それで、俺が倒れたことは誰から聞いたんだ?」

「『ガッドフォーラ』の婆さんだよ。何か良い植物があれば届けてやってくれとお願いされたんだわ」


 『ガッドフォーラ』ということは、トリシャから聞いたのか。 

 俺もヘンジャクのことはトリシャから聞いたし、ヘンジャクから植物を仕入れているとも言っていた。

 ボルスさんからトリシャへと伝わり、トリシャからヘンジャクに伝わったって流れのようだな。


「そうだったのか。トリシャにも今度礼を言いにいかないといけないな」

「そうだな。礼は儂じゃなくて、トリシャに言うといい。それよりも、早くロザの大森林について聞かせてくれ。一体何の発見があったんだ?」


 本当に揃いも揃って、俺の情報目当ての奴ばかりだな。

 損得関係なしにちゃんと心配してくれてんのは、恐らくボルスさんぐらいだろう。

 まぁ俺としても、利益目的の方が分かりやすいし嫌ではないけどな。


「分かってるから慌てるな。まずは……ロザの大森林に入った時のことから軽く説明するとしようか」

「随分と長くなりそうだが、貴重な話とあれば儂は大歓迎だ」


 年甲斐もなく目を輝かせているヘンジャクに、俺は初めてロザの大森林に入った時からの話を聞かせた。

 重要な部分に絞って伝えたため、分かりにくい話ではあったろうが……ヘンジャクは食い入るように俺の話を黙って聞いていた。


「――とまぁ、俺が倒れるに至ったまでの経緯はこんな感じだな。大分端折ったから分かりづらかっただろ」

「いいや、情報がまとまっていて分かりやすかったぞ。特に東エリアの探索の話は最高だな。儂はもう行く力も年齢的にも厳しいが、久しぶりに……夢を見れた気分だ」


 しみじみとそう呟いたヘンジャクを見て、事細かに話して良かったと思えた。

 俺も植物を採取するから分かるが、森という場所には憑りつかれるほどの言い知れぬ魅力が存在する。


 ヘンジャクも俺と同じように、森の魅力に憑りつかれた人間の一人であることは出会った時から分かっていたからな。

 森や植物については、唯一俺と話が合う人物と言っても過言ではない。


「そう感じてもらえたなら話した甲斐もある。それで、今の話を踏まえて一つ見せたいものがある」

「見たいものがある? ま、まさか……」

「期待通りの品だといいんだがな」


 俺は先ほどヴィンセントに見せたスキルの実を取り出し、わなわなと震えているヘンジャクに見せた。

 同じ感性を持つヘンジャクなら、スキルの実は死ぬまでに一度は見たかったはず。

 

 本当はスキルの試し撃ちを行う前に食べようかとも考えていたが、ヴィンセントの反応が微妙だったこともあってヘンジャクに見せることに決めた。

 予想通り――いや予想以上に驚いた反応を見せたヘンジャクを見て、俺も思わず口角が上がる。


「正真正銘本物のスキルの実だ。食べたら死ぬって話は本当だから気をつけて見てくれ」

「こ、これが本物のスキルの実なのか。ただの噂話だと思っておったが、本当に実在したとは……」

「それでなんだが、スキルの実を見せた礼として一つ教えてほしいことがある。これと似た実をどこかで見た記憶はないか? これまで、スキルの実とは知らずにスルーしていたって可能性があるだろ?」

「いや、こんな変な形状の実は見たこともない。仮に見かけていたら、スキルの実と知らずとも採取しとるわ。それよりも、もっと近くで見せてくれ!」


 ロザの大森林の奥地に行かずとも手に入るなら手に入れたいと思ったが、流石にスキルの実がほいほい生えている訳もないか。

 俺の質問を適当に流したヘンジャクは、食い入るようにスキルの実をあらゆる角度から凝視している。


 それからしばらくの間スキルの実を自由に見せてやった後、俺はスキルの実を鞄の中へと戻した。

 ヘンジャクは物欲しそうに見ているが、流石にスキルの実を譲ることは出来ない。


「それじゃ話も終えたし、スキルの実も見せた。やることやったから帰らせてもらうぞ」

「なんだ。もう帰ってしまうのか」

「もう夜も遅いしな。もう一つ寄らなければいけない場所もある……というか、さっきは舌打ちをしてまで帰らせようとしていたよな」

「そんな昔のことは覚えておらん。またスキルの実を持って遊びに来るといい。いつでも歓迎するからな」


 本当に現金な爺さんだな。

 ただスキルの実はすぐに使う予定だし、もう大手を振って歓迎されることはないはず。


「それじゃ、また何かあった時によろしく頼む」

「こちらこそよろしく頼むぞ」


 ヘンジャクに別れの挨拶を告げ、俺はヘンジャクの家を後にした。

 予定していたよりも長居してしまったが、ボルスさんの宿屋は知っているし仮にもう寝ていたとしても歓迎してくれるはず。

 鈍った体を戻す特訓の約束だけ取り付けて――体もしんどいし、さっさと『ゴラッシュ』へと帰るとしようか。

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