第277話 高魔力弾
「フィリップさん。クリスさんを連れてきました」
「おお、ちょっと待っとくれ。もうちょっとで作業が終わるからのう」
部屋の外で少し待たされ、部屋から立ち込める煙が収まった後、ゴーレムの爺さんの入室許可が出た。
ヘスターに続くように中へと入ったが、煙が立ち込めていなくとも非常に変な臭いで充満している。
「相変わらず臭いな。この部屋は」
「会って第一声がそれかい。まぁ元気そうで何よりじゃな」
「心配かけて悪かったな。ポーションも助かった」
「別に構わんよ。お主が心配で――というよりかは、スキルの実が気になるから恩を売っておいただけじゃから」
悪い笑みを浮かべ、堂々とそんなことを言ってきたゴーレムの爺さん。
薄々勘付いてはいたが……フェシリア、ミエルに続いて爺さんも利益目的だったか。
「別に特段教えることはないぞ。スキルの実を食ったら死にかけるほど辛いってだけだ」
「そんなもん先々週のお主を見れば一発で分かることじゃ! そんな情報ではなく……ほれ。本当にスキルは手に入ったのかのう?」
「さて、どうだろうな。まずは俺の質問を答えてくれたら教えてやるよ」
「ワシに質問? なんじゃそれは」
「高濃度の魔力について少し聞きたい。【アンチマジック】は妨害としてしか使えないが、より魔力を込めれば攻撃として利用できるものなのか?」
ロザの大森林からの帰路についてる時から気になっていたのは、ヘラクベルクが放ってきた高魔力弾。
桁外れの魔力からなる一発だったが、俺も使えるようになるのであれば使ってみたいと密かに思っていた。
魔法、魔力に知識に長けている爺さんなら、何かしら情報を貰えると思っていたのだが……。
「高魔力を込めれば、そりゃ十二分に攻撃としても利用できる。……ただし、燃費が悪すぎて実戦として使うのは不向きじゃな。それに何度も言うが、お主は魔力を扱う才がない。不可能ではないが決して勧めることはしない――どうするかはお主が決めることじゃが、ワシからのせめてもの忠告じゃのう」
「そうか。ロザの大森林で戦った魔物が使ってきたから、もしかしたら俺でも使えるかと思ったが……そう甘くはないってことだな」
「人類の進化の一つが魔法じゃからな。魔力を込めて放つだけで強いなら、誰も魔法なんか使わんわい」
言われてみれば至極真っ当な意見だな。
だからこそ、俺も【アンチマジック】を使えるように努力した訳だし、そんな甘い話はないのが現実。
「さてと、質問に答えたから次はワシの質問に答えてもらうぞい。スキルの実について色々と聞かせてくれ!」
「分かったよ。爺さんには色々と世話になっているしな」
それから俺は、ゴーレムの爺さんにもスキルの実についてを色々と話した。
内容的にはフェシリアに話した内容と同じだが、より詳細な情報を求めてくるため内容以上に時間がかかった気がする。
魔法のこと以外では興味を示さないイメージがあったが、流石にスキルの実となると興味あるようだ。
ここからヘンジャクのところにも行く予定だが、同じような会話をしなきゃならないとなるとちょっと面倒な気分になってきたな。
「――とまぁ、俺から話せる内容はこんなものだな」
「ふぉっふぉ! 十分すぎるほど良い情報を聞くことができたわい。お主の話を聞いて、色々と試したいことができたからもう帰ってよいぞ」
「散々質問しておいてそれかよ。本当に自己中心的な爺さんだな」
「なんとでも言うといい。ヘスターは修練部屋を使うんじゃったか?」
「はい。今日も貸して頂きます」
「今日は指導できないが、勝手に使ってよいぞ。――それじゃ二人ともまた今度な」
椅子からポンッと立ち上がると、俺とヘスターの背中を押して部屋から追い出したゴーレムの爺さん。
これ以上話すこともないし構わないが、雑な追い出され方が少々ムカつくな。
「それでは私は魔法の練習をしますのでここに残ります。クリスさんはこれからどうするんですか?」
「俺は色々と知り合いのところを回るつもりだ。その後は新しく得たスキルの試し撃ちにいく」
「新しいスキルの試し撃ち……楽しそうですね。スキルについて何か分かりましたら、是非私にも教えて頂けると嬉しいです」
「もちろん。正確な情報が分かり次第、ヘスターとラルフには共有するつもりでいる」
そんな会話をしてから、俺はヘスターとも『マジックケイヴ』で別れた。
今日は色々な人会って人疲れしたが、ヘンジャクとボルスさんには会わないといけない。
どこかで昼飯でも食べてから、まずはヘンジャクのところに行ってみるとするか。
ロザの大森林の情報の礼に、俺が仕入れた情報をあげるとしよう。
それから商業通りで昼飯を食べてから、俺はヘンジャクとボルスさんのところに向かったのだが……二人とも留守。
完全な無駄足となってしまった上に、一気にやることがなくなってしまった。
恐らくヘンジャクは植物採取に、ボルスは依頼をこなしているだろうから夜には戻ってくるはず。
この場合どうするかだが……別日に改めてってのはなんとなく嫌だ。
気持ち的にお礼参りは今日中に済ませてしまいたいし、二人が帰ってくるのを待つつもりでいる。
それまでの時間だが――先にスキルの試し撃ちから行うとするか。
北の平原へ赴き、スキルを試している内に日も暮れるはず。
これまで散々スキルの実について話してきたし、俺の気分的にも早く特殊スキルを試したい気持ちで一杯になっている。
そんなワクワク気分を抑えられず、俺は走りに近い早足で北の平原へ向けて歩を進めたのだった。