第275話 フェシリア
冒険者ギルドを出て、ミエルのことを探しに行こうかと思った矢先、後ろから誰かに声を掛けられた。
振り返ってみるとフェシリアの姿があり、どうやら俺を追いかけて冒険者ギルドを出てきた様子。
「フェシリアか。どうした? ……って、そういえば報酬の金を渡すのを忘れていたな」
ヴィンセントの対応に気を取られすぎて、フェシリアに報酬の金を渡すのを忘れていた。
洞窟内では白金貨一枚相当のポーションを使ってくれたし、金貨十枚なんて拍子抜けされるかもしれないが、報酬は報酬だしキッチリと渡しておこう。
「別に報酬はいらないのですけど……一応受け取っておきます」
「あと、見舞いにも来てくれたんだってな。わざわざ来てくれてありがとう」
「洞窟内の魔物を余裕を持って倒していたクリスが、どうして倒れたのかが気になって伺っただけですので。ミエルさんと違って私は何も持っていきませんでしたし、お気になさらず」
理由はいまいち分からないが、まぁ気にしないでと言っている訳だし気にしなくていいか。
それにしても、ミエルは何かしら物を持ってきてくれたんだな。
……こういう場合って、何かお返しの物でも送らないといけないのか?
「……それよりもなのですが、スキルの実を食べたのですよね? そのせいで倒れたのだとヘスターさんから聞きました」
「まぁそうだな。スキルの実を食べて体調を完全に崩した」
「やはりそうだったのですね。お見舞いに伺った時もそのことを聞きたかったのですが、意識を失っていて聞けませんでしたので教えて頂けませんか?」
スキルの実を食べてどうなったのかを聞くために、フェシリアは俺を追いかけて来たってことか。
スキルの実についてはあまり大勢の人に公言したくないが、フェシリアには世話になったし知る権利を持つ人物。
下手に隠すことはせずに、話せる箇所は偽りなく全て話そうか。
「スキルの実は、正真正銘本物のスキルの実だった。その副作用でぶっ倒れたが、俺にはキッチリ特殊スキルが付与されている」
「やっぱり本物のスキルの実だったんですね。スキルの能力はどんなものだったんだったんでしょうか」
「特殊スキルの能力については答えられない。これはラルフとヘスターにしか伝えるつもりがない情報だ」
「当然といえば当然のことですが……ケチですね」
「何と思われようと、答えられないものは答えられない」
「それでは別の質問をします。スキルの実を食べたら死ぬという噂については本当なのですか? 食べて、生きているクリスにこんなことを聞くのは少々おかしいとは思いますけど」
これについては何て答えるのが正解なのか分からないな。
恐らくスキルの実は猛毒を持っていて、俺は【毒無効】のスキルを持っていたから死なずに済んだのだろうが……あくまでも推測でしかない。
仮に【痛覚遮断】のスキルを会得していなければ、俺はあのまま衰弱して死んでいただろうし、あの眠ることすらできない痛みが食べたら死ぬと言われていた所以かもしれない。
どちらにせよ、食べたら死ぬという話は本当だったに変わりはないか。
「食べたら死ぬってのは本当だと思う。スキルの実の副作用に対抗するスキルを保有していたから俺は生きているが、常人が食べたら即死もあり得ると俺は思っている」
「スキルの実の副作用に対抗するスキルですか……。そちらも気になるのですが教えてはもらえませんよね?」
「無理だな」
即答すると、フェシリアは口を尖らせて拗ねたような表情を見せた。
洞窟に入る前までは無表情で何を考えているか分からなかったが、随分と表情豊かになった気がする。
……いや、俺がフェシリアの細かな表情の変化を見抜けるようになっただけか。
「話はこんなものか? まだ質問があるなら聞いてやるけど」
「いえ、もう質問はございません。呼び止めてしまってすいませんでした」
「俺の説明不足だったから気にしなくていい。……そうだ。俺からも一つ質問していいか?」
「私に質問ですか? お答えできる質問なら答えますけど、質問とはなんでしょうか?」
「その髪型についてだ。探索に行ったときは変な巻き髪だっただろ? 一つのトレードマークみたいなものだと思っていたが、今日会ったらバッサリと切られていたから気になった」
「そんなことですか。――どうでしょうか? 短い髪も似合っていますでしょう」
「知らん。理由がないなら別にいい」
クルリと優雅に一周回り、茶化すようにそう言ったフェシリア。
何か理由でもあるのかと思って聞いたが、特に理由がなさそうだな。
俺はフェシリアに背を向け、立ち去ろうとしたのだが――。
「自分の不甲斐なさを痛感したからですよ。ヒヒイロカネランクに上がって調子に乗っていたのを自覚させられましたから。毎日キチンとお手入れをしていた大事な髪でしたが、戒めのつもりで切らせて頂きました」
「そうだったのか。……悪いな。危険な場所へ無理やり連れて行った俺達のせいだろ」
「確かにクリスのせいではありますが、自らを見つめ直すいい機会でしたので謝らなくて結構です。スキルの実を食べて強くなったであろうクリスに負けないよう、私も鍛錬を行うつもりですので……また機会があれば一緒に探検しましょう」
「ああ。ロザの大森林はまだ東側しか探索していないし、いつか他の場所を探索する時は誘わせてもらう」
「…………探索はロザの大森林以外でお願いします」
決め顔から一転、俺の案を渋い顔で却下してきたフェシリアと軽く笑い合ってから、俺は片手を上げて別れを告げた。
出会った当初からスカしていたし、ヒヒイロカネランクと考えると少々拍子抜けさせられたが、やはりメンタル面も含めてトップクラスの冒険者なだけある。
俺もフェシリアに差をつけられないよう、特殊スキルをキッチリと自分のモノにできるようにし……。
いつかまたパーティを組む時があった際に、不甲斐ないと思われないよう頑張らなくてはいけないな。
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