第273話 療養
あの後、フラフラになりながらもなんとか教会から帰宅することができたが、まともに動けるようになるまで二週間以上も寝込んでしまった。
疲労が溜まりに溜まった状態で無理をしてスキルの実を食べた反動で高熱を出した上、スキルの実のせいで口内と喉と腹を痛めて、まともに眠ることすらできずに一週間を過ごしていた。
回復魔法も回復ポーションも効かなかったようで本当に死を覚悟したが、死の瀬戸際でなんとか眠りながらスキルを発動させる術を会得。
【痛覚遮断】を発動しつつ、眠ることでようやくまともに寝ることができ、更に一週間体を休めたことでようやく体を動かせるぐらいまで回復することができた。
「クリス、やっと復活したな! 一時は本当に死んじまうのかと思ったぞ!」
「俺も死を覚悟した。……迷惑かけてすまなかったな」
「迷惑なんて思っていませんので気にしないでください。回復してくれて本当に良かったです!」
二人は付きっ切りで俺の看病してくれ、容体が安定してからは依頼をこなして俺の分まで金を稼いでいてくれた。
ロザの大森林も俺のためだけの探索だったし、この一ヶ月近くは二人におんぶにだっこ状態だったな。
この借りはいつか返すとして、倒れている間にできていなかったことを今日から行うつもりでいる。
何よりも気になっているのは、スキルの実で会得した特殊スキルについて。
生死を狭間を彷徨っている間、俺は冒険者カードの特殊スキル欄を見て生きる活力に変えていた。
あの地獄のような日々を生き永らえたのは、特殊スキルの性能を知らずには死ねないという探求心からだろう。
当初の想定ではどの実も同じ効能だと思っていたが、三つの実からそれぞれ違う特殊スキルを会得できたという嬉しい誤算があったのも大きい。
現在俺の持っている特殊スキルは、【毒無効】も含めて計四つ。
ヴィンセントに見せるスキルの実も数えると、五つの特殊スキルを得られることになる。
すぐに新たに会得した三つの特殊スキルを自分のモノにできるようにするため、容体が安定してからは布団で横になって会得した特殊スキルについてを考察していたのだが――どれもスキル名だけでは想像し切れなかった。
最初に手に入れた【自爆撃】は、“自爆”とついていることから自らの命と引き換えに発動する一撃限りのスキルのような気もするし、爆発系の攻撃スキルの可能性もある。
【硬質化】は他二つと違って想像しやすく、【外皮強化】の上位互換のようなものだと思っている。
【外皮強化】【要塞】【鉄壁】と組み合わせれば、より強力な攻撃を受けることができるはず。
最後の【黒霧】に至っては……正直、スキル名からでは何の想像もつかない。
唯一思いつくのは、体から黒い霧を噴出させて目晦ましとして使うスキル――ぐらいだが、この程度なら煙玉で代用できるし、もし仮にこの能力だとしたら特殊スキルとしては微妙すぎる能力。
――とまぁ、色々考えたが実際に試してみるのが手っ取り早い。
早くエデストルの外へと行き、特殊スキルの試し撃ちといきたいところだが……。
「昨日、ヴィンセントさんから連絡合って、今日ダンジョン街へと来てほしいってさ! クリスも行けるよな?」
「フェシリアには世話になったし、やっぱり行かないと駄目だよな」
「当たり前だろ! フェシリアさんとミエルも、クリスの見舞いに来てくれたんたぞ!」
「ボルスさんとフィリップさんも、元気になったら顔を見せてほしいと言ってましたよ。あと、ヘンジャクって人も特別な薬草を届けてくれたんです。……思えば、その薬草を使った辺りから症状が治まった気がしますね」
意識が朦朧としていたからほとんど覚えていないが、色々な人が来てくれていたようだ。
寝ながらのスキル発動を行えるようになったのは自力だが、そのスキルを発動させる体力を補えたのはヘンジャクが届けてくれた薬草のお陰みたいだな。
今すぐにでもスキルを試したいところではあるが、スキルの試し撃ちは後回しにして、今日は元気になったことの報告とロザの大森林探索のお礼参りをしようか。
「それなら挨拶をして回らないと駄目そうだな。まずはダンジョン街に行って、【月影の牙】のところへ赴く。ついでにミエルがいたら会って、その後はゴーレムの爺さんのところだな」
「俺はヴィンセントさんのとこへ行くのに同行するぜ!」
「それは助かる。俺はヴィンセントが苦手だからな」
「私はスノーと一緒にお留守番しつつ、フィリップさんのところへは一緒に行きます」
「分かった。ダンジョン街へ行ってくるから、ヘスターは戻ってくるまで待っていてくれ」
こうしてまずはラルフと共にダンジョン街へと向かうことになった。
二週間ぶりの外出に変な緊張感がありつつ、『ゴラッシュ』を後にする。
「クリス、実際に外を歩いてみて違和感とかはないか?」
「体が鈍っているのを感じはあるが、その点以外は特に問題ないな」
「二週間も寝てたらそりゃそうか! 依頼とかこなす前に、まずは体の鈍りをどうにかしないといけなそうだな!」
「ボルスさんのとこに行くときに軽く約束を取り付けてくるつもりだ。手合わせしつつ体を元に戻していく」
「おっ、それ面白そうだな! 俺もボルスさんと手合わせしてぇわ!」
ラルフとそんな会話をしつつ、俺達はダンジョン街へ向けて歩を進めたのだった。