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第266話 戦闘狂


 動きは素早くも、型通りに攻撃してくるヘラクベルグの拳を綺麗に避けていく。

 体の僅かな重心移動、足の置き方、上体の向きと傾け方。

 

 ほぼノーモーションで拳を放ってくるとはいえ、注視して観察すると見えてくるものがある。

 攻撃のリズムを作るこのジャブのような攻撃を完璧に躱すことで、強烈な回し蹴りや突き刺すような前蹴りも余裕をもって躱せる。

 この回し蹴り、前蹴り、後ろ回し蹴りといった、蹴りを躱したタイミングが攻撃を放つ好機なのだが、今回に限っては俺が攻撃せずとも――。

 

「【ヘイルクーゲル】」

「【イグニスアロー】」


 後衛の三人から速度重視の攻撃が飛んでくる。

 ヘスターは炎、ミエルは氷、フェシリアは雷と属性を打ち分けているようで、一属性に絞らないことで耐性を付けづらくさせ、より大きなダメージを与えているようだ。


 完璧な攻守のバランスが形成されていて、数的有利のこの状況を最大限に活かすことができている。

 あとはラルフが戻ってくれば、ヘラクベルグが何をしてこようと抑え込めるのだが……。

 ラルフが前線へと戻ってくるよりも先に、ヘラクベルグはこの不利な状況を打破するためか、何やら妙な動きを見せてきた。


 デカくゴツい図体には似つかわしくないコンパクトな今までの構えを解き、膝を曲げて低く構えて力を込め出したヘラクベルグ。

 膨大な魔力が両手に込められていくのが分かり、俺はすぐに射線を空けるために移動したのだが、魔法による妨害よりも先に魔力が溜め終わってしまった。


 可視化されるほどの魔力が両の拳に集まり、嫌な予感をビシビシと感じる。

 このまま貯めた魔力で魔法を放ってくれればいいのだが、これまでのヘラクベルグを見る限り魔法を使うとは思えない。


 となってくると、考えられるのは出会いがしらで放ってきた斬撃魔力複合攻撃のような強烈な一撃。

 額から生えている角ではなく、手に溜めたということは斬撃ではなく打撃ってことか?


 必死に思考を巡らせるが、どう動いていくるのかが予測できない。

 ちらりと後ろを見てみると、ヘラクベルグの様子が変わってことでラルフがヘスター達の背後から向かってきてはいるが、多分間に合わないだろう。


 そう判断した俺は索敵スキルを一時解除し、【外皮強化】【要塞】【鉄壁】【痛覚遮断】【自己再生】を発動させて防御寄りのスキルに切り替えた。

 更に、既に発動させていた【戦いの舞】【能力解放】の出力も防御に全振りし、ヘラクベルグの一撃に備える。


 つい先ほどまでヘラクベルグの攻撃を読み切り楽々と回避し、魔法による波状攻撃で圧倒していたはずだが、一瞬で危機に追いやられているこの状況。

 圧倒したまま終わりたかったという気持ちが半分、遠い位置からでも嫌だと思わせるほどの期待通り、底力を見せてきた嬉しさ半分。


 口外はできないなんとも複雑な心境だな。

 タコの魔物の時もそうだったが、強い相手との戦いに楽しむ傾向が最近ある気がする。

 魔力を溜め込んだヘラクベルグを見ながら、そんなことが頭を過りつつ――俺は強烈な一撃に備えて久しぶりの盾を構えた。


 そして、俺が盾を構えたと同時に地面を思い切り蹴り出し、突っ込んできたヘラクベルグ。

 打撃は予想通りだが、拳を振るって溜めた魔力を飛ばすのではなく、接近して直接魔力を込めた拳で殴ってくる感じか。


 できることなら拳を受けずに躱したいが、今のヘラクベルグは魔物らしい獣のような動き。

 完璧な回避は難しいだろう。

 

 盾を構えつつ両目でギリギリまで動きを見切り、ジャストガード狙いに切り替えるが――ヘラクベルグは俺の考えを読んでいたかのように、両手同時に使った攻撃を繰り出してきた。

 顔面を狙った左ストレート。そして、その左ストレートを囮に使った右ボディを放ってきている。

 

 込められている魔力の割合で言うと、左手が二割で右手が八割。

 左ストレートは避けて、右ボディの攻撃を盾で防ぐか?

 ……いや、それではボディへの攻撃を受け切ることができない可能性がある。


 顔面への攻撃は完全に捨て、俺は殺しにかかってきているボディへの一撃を完全に防ぐことに決めた。

 顔へと迫り来る拳のポイントを僅かにずらしながら受け、同時に放たれたボディへの攻撃に全てを注ぐ。


 【痛覚遮断】のお陰で痛みはないものの、拳が顔面に直撃したことで酷い眩暈に襲われながら、俺は下から突き上げるようなヘラクベルグの攻撃を防いだ。

 抉り取られるようなとてつもない衝撃により一瞬体が浮きあがったが、魔力を込められた拳による攻撃は封殺。


「【アイスクライオニシス】」

「【ライトニングボルト】」

「【フレイムバースト】」


 俺が攻撃を受け切ったと同時に、強烈な攻撃の隙をついた威力重視の三人の魔法がヘラクベルクを襲った。

 眩暈による吐き気に襲われながらも、その間に遅れて駆けつけたラルフと入れ替わる形で俺はなんとか前線を離脱した。


「クリス、遅れてすまねぇ! あとは任せてくれ!」

「スノーの攻撃も上手く活かせ。一気に削りきれるはずだ。任せたぞ」


 千鳥足になりながらも、なんとかヘスター達の後ろに転がる形で倒れ込んだ。

 流れる血によって右目の視界は完全に塞がっており、左目のみ且つぼやける視界で戦況を最後まで見守る。


 魔力を込めた一撃の隙を突いた強烈な魔法が三発とも直撃したことで、ヘラクベルグの体はボロボロの状態だが最後の最後まで油断はできない。

 助太刀できないもどかしさを感じつつも見守っていたのだが――ここまでずっと控えていたスノーがラルフとの連携で大暴れ。

 傷つき魔力も失った状態の体では、体力万全のスノーの素早い動きについていけないようで、俺が前線から離脱してから僅か数分ほどでヘラクベルグはスノーに首を刎ねられ絶命したのだった。


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