第260話 タコの魔物
まずはタコの魔物の攻撃に慣れることから始める。
軽くステップを踏みつつ中間距離に位置取り、攻撃を誘うようにノーガードで煽っていく。
腕の一、二本を斬り落とすことができれば、より有利に戦うことができるだろうがそう上手くいくとは思えないからな。
六本の腕による攻撃に慣れることだけに集中していこうか。
いつ攻撃を受けてもおかしくない距離で、まず動いたのは――フェシリアだった。
先ほど躱された魔法と同じ【ライトニングボルト】を放ったようだが、これまた悠々と回避され、その回避行動と共に俺への攻撃を行ってきたタコの魔物。
体は左に流れつつ、右の二本の鎌のような腕で上下から斬りにかかってきた。
狙いは正確かつ慎重。急所ではなく、ガードの意識が薄くなりがちな左の太腿を狙ってきている。
そんなダメージ狙いの攻撃を俺は右足に重心を置き、高速で半回転することで回避。
タコの魔物目線では、俺が一瞬で離れたように見えただろう。
上手く回避した俺に更なる追撃を仕掛けてきたが、六本の腕による攻撃を全てギリギリで見切りながら回避していく。
顔前で右腕を振った後、左腕で下半身を狙うといった視界を遮りながらの攻撃も仕掛けてきているが、肩の僅かな動きから攻撃予測を行うことも可能ということに気づいたため、危なげなく回避することができている。
六本の腕による変幻自在な攻撃を行えるという最大の強みが、人型のせいで腕の動きが読みやすくなっている弱点となった。
体もタコのままだと動き難いだろうし、速度自体も遅いままだったろうが……俺としてはやりにくかっただろうな。
不意をついての水球も口に負荷が加わるため読みやすいし、蹴りについては腕と連動できないようで単調になりがち。
拘束攻撃も一定の距離を保っている限り脅威ではないし……戦闘開始からまだ十分も経っていないが、大体の動きが読めるようになってきた。
もちろん、俺が攻撃を仕掛けないという前提があるからこそなんだが、それでもこの短時間で攻撃を捌き切れるようになったのは大きい。
ボルス流の戦い方が身についてきた証だし、戦闘中での逃げるという行為に抵抗がなくなったことでもある。
タコの魔物は俺をどうにかして殺そうと躍起になっているし、避けタンクとしての役割が十分に担えているため、後はフェシリアが仕留めてくれるのを待つだけなのだが……。
フェシリアの攻撃もあまり当たっておらず、【ライトニングボルト】が一度だけ掠っただけ。
俺はスキルをフル発動させているため、持久戦となったらこちらが圧倒的に不利なのは言わずもがな。
早く仕留めてもらいたいんだが、このままでは倒す目途が立つように思えない。
「フェシリア、早く仕留めろ! 強烈な一撃だけじゃなくて、威力が弱くとも速度の速い魔法で当てることに集中してくれ」
「……っ! 言われなくても分かってます! 【サンダーバレット】」
攻撃を避けること以外に思考を使いたくないのだが、埒が明かないため仕方なく指示を飛ばすと、フェシリアはようやく攻撃手段を切り替えて速い魔法を使用してくれた。
フェシリアの手から放たれた【サンダーバレット】は、目にもとまらぬ速さで俺の真横を通り過ぎ、タコの魔物の腕にぶち当たる。
躱す隙も与えぬ、不可避の一撃。
魔法が直撃した腕が使用不可になるほどの一撃ではないとはいえ、この魔法が使えるならもっと早くから使えと文句を言いたくなるが……。
不毛な言い争いになることは想像つくため、ここはグッと堪えてタンク役に徹する。
完璧に一発ぶち当ててからのフェシリアは人が変わったように動きが良くなり、様々な種類の魔法を最初に当てた腕に集中して当て続け、タコの魔物の動きも庇うような動きに変化していった。
右腕の一本だけが白く変色し、まともに動かなくなったことで俺も攻撃を更に避けやすくなり――攻撃を行える隙を見つけられるほどの余裕を持てている。
避けに徹するか、攻撃を行うかの択でかなり迷ったが、右腕の一本を使用不可にするまでで二十分かかっている今の状態。
タコの魔物を屠るまでの時間を逆算し、攻撃に加わった方が良いと判断した俺は慎重に慎重を重ねつつ、フェシリアの邪魔にならないタイミングでタコの魔物を斬りつけていった。
慎重に慎重を重ねた攻撃だったが、攻撃をしたことでフェシリアに向きかけていた注意も再び俺に向いたのが分かる。
フェシリアは【サンダーバレット】。俺は避けタンクを行いつつ、申し訳程度の斬りつけ攻撃。
高い生命力に何をしてくるか分からない異形の魔物相手に対し、俺とフェシリアが一方的に戦闘を進め、一本の腕を斬り飛ばしたことを皮切りにタコの魔物を圧倒し始めていった。
そして六本もあった腕はとうとう一本のみとなり、水球を使うという余裕さえなくなっている様子。
ただ、戦闘を開始してから一時間ほど経過しているため、俺の足も震えているほど疲労がきているが……。
あとは最初に散々狙っていた、高火力魔法をぶち当てるだけの状態。
一本の腕を振り回しているタコの魔物を相手取り、俺は絶好機を探りバランスを崩れた瞬間を見て一気にその場から避ける。
そして俺が離れた瞬間を見計らい、魔力を溜めに溜めていたフェシリアの魔法が解き放たれた。
「【ライトニングライジング】」
洞窟内に響き渡るような轟音と共に、目が眩むほどの輝きを放った魔法がタコの魔物に直撃した。
しばらくの間視界がホワイトアウトしていたが、徐々に正常な視界へと戻り、俺はタコの魔物の様子を確認しに向かったが……。
タコの魔物がいたらしき場所は広範囲に黒ずんでいるだけで、魔物なんて存在していなかったと錯覚してしまうほど消し炭となっていたのだった。
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