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第25話 返済


 ヘドロスライムの討伐から、約一ヶ月が経過した。

 ヘドロスライムの失敗から学んで依頼をしっかり選んだこともあり、ブロンズランクのクエストでも苦戦することなく、順調にこなせていっている。


 一日のルーティンとしては、朝に依頼を吟味して受注。

 すぐに指定された場所に向かい、遅くとも昼過ぎぐらいには討伐を完了し、夕方には依頼完了報告と翌日の準備が終わっているという感じだ。


 余った時間は剣を振ったり、薬屋や治療師ギルドで植物に関する知識を深めたりと、かなり有意義な日々を送れている。

 お金も一日最低で銀貨四枚は稼げ、多い日には銀貨八枚を稼げたということもあって、生活費を差っ引いて金貨を十二枚ほど貯めることができた。

 

 一ヶ月間休みなく働いていたとはいえ、正直ここまで稼げるとは思っていなかったな。

 命の危険と隣り合わせの職業だし、怪我を負っても自己負担なため、リスクを考えればもしかしたら安い報酬なのかもしれないが、今の俺にとっては有難すぎるほどに高収入だと思ってしまう。


 兎にも角にも、これで『七福屋』に金を支払うことも出来るし、しばらくの間は冒険者業を休んで有毒植物の識別に打ち込むことができる。

 とりあえず今日は、これから『七福屋』へと行ってから、保存しておいた有毒植物の半分を食し、教会で一ヶ月ぶりの能力判別を行おうと思う。

 今日の予定をザッとおさらいしたところで、俺は宿屋を後にし『七福屋』へと向かった。


 最初に訪れた時は治安が悪く見え、物騒に思えた裏通りももう慣れ、軽い足取りで『七福屋』へと向かう。

 『七福屋』には度々訪れており、店主のおじいさんとはかなり仲良くなった。


「おお、クリスじゃないか。今日も武器を見に来たのかい?」

「いや、今日は本の金を支払いにきた。随分と待たせてしまってすまなかったな」

「もう支払えるのか? 別に貯まってからすぐに払えとは言っておらんし、払える分だけをちまちまと払ってくれればええよ」

「冒険者業の方が順調で、余裕を持って支払えるから大丈夫だ。本当に助かった」


 俺は頭を深々と下げてから、おじいさんに金貨三枚を手渡す。

 あのタイミングで本を手に入れていなければ、『植物学者オットーの放浪記』を購入していた可能性は限りなく低かっただろうし、購入していなければ有毒植物についての気づきもなかった。


 自分に可能性を見い出せず、ただ生きるためだけに冒険者をやり、ひっそりと死んでいったと思う。

 逃げられるのも覚悟の上で、俺に後払いで売ってくれた店主のおじいさんには頭が上がらない。


「そうかい。それなら受け取らせてもらうよ。ありがとうね」

「礼を言うのは俺の方だ。ありがとう」

「それで、本はどうじゃった? 興味深い内容だったろう」

「……ああ。興味深いという言葉だけで片付けられないほど、今までの人生の中で一番有意義な情報だった」

「ふぉっふぉっふぉ。そこまで役に立ったのなら、本の作者も浮かばれておるだろう」


 おじいさんはまるで自らが書いたものかのように、自慢げにそして嬉しそうに笑った。


「それで、今日は本の支払いに来てくれただけなのか?」

「いや、実はもう一つ聞きたいことがある。この店に魔導書は置いていないか?」

「魔導書……。確かまだあったはずじゃが、ちょっとそこで待っていてくれ」


 おじいさんはそういうと、店頭ではなく店の奥に向かい、探し始めた様子。

 ヘスター用に魔導書が置いてないか聞いてみたのだが、あの様子だともしかしたらこの店に置いているのかもしれない。


「おおっ! やっぱりあったわい。ほれ、かなり古い物だが魔導書じゃ」

「これが魔導書なのか。やはり普通の本とは違って、見るからに豪華な装飾が施されているんだな」


 おじいさんが持ってきた本は、古さを窺えるものの金やら銀やらで装飾されており、ただの本とは違うのが一目で分かった。

 値段次第で買っても良いと考えていたが、これはまだ手が出せない逸品に感じる。


「何せ魔導書だからのう。ヘスターからどうしても取り置きして欲しいって頼まれたもんで、店の奥に仕舞っといたまんまじゃったわ」

「ヘスターに頼まれて――か。ヘスターには後払いを提案しなかったのか?」

「ふぉっふぉっふぉ。前も言ったと思うが、お主なら大丈夫と判断して提案したのじゃよ。ヘスターに渡したらそれこそ逃げられるわい」

「知り合って長いと勝手に思っていたが、随分と信用ないんだな」

「知り合って長いからこそだのう。とまぁ、ヘスターのことは置いておいて買ってくれるんかい?」

「値段はいくらなんだ?」

「白金貨二枚ってところじゃな」


 その馬鹿げた値段に思わず笑ってしまう。

 金貨一枚もする能力判断に、ポンポンと金を使っている俺が言うのもアレだが、流石に高すぎる。

 

 白金貨一枚で金貨十枚だから、俺が二ヵ月間休まずに冒険者として働いてようやく買える値段だ。

 それも中古品で、裏通りに流れている汚れた物でこの値段だからな。

 綺麗な物ならどれぐらいするのか、正直想像もつかない。


「流石に手が出ないな。高いとは想像していたが、こんなに高いとは思ってもみなかった」

「ワシも買い取るかどうか、一日悩んだくらいじゃからな。結局売れ残っとる訳だし、まあ裏通りに来る人は買わんわな」

「もしかしたら買いに来るかもしれないから、その時はよろしく頼む」

「購入の意思があるんか? 値段が値段じゃから、前金はいくらか貰いたいが……お主ならまた後払いでもええぞ」

「いいのか!? ……いや、でもな」


 白金貨二枚の物を後払いで良いという魅力的な提案に、俺は思わず食いつきかけたが、流石に値段が値段だ。

 後払いは言わば借金だし、魔導書の用途はヘスターに魔法を覚えさせるため。


 今は魔法の使えない魔法使いという長所が皆無な状態だが、魔法さえ覚えられればある程度の活躍はできると踏んでいた。

 ゴブリンを余裕で狩れるようになれればパーティを組む訳だし、一刻も早く魔法を覚えて一人前になってもらうのは、俺にとっても大きなプラスになる。

 

 ……ただ、だからといって俺がヘスターのため、借金を負うのはあり得ないな。

 俺は他人を簡単に信用しないと決めているし、魔法を覚えた瞬間に逃げられる可能性も考えたら大きな借金はできない。


「本当にありがたい提案だが、今回は額が額だけに遠慮させてもらう」

「そうかい、それは残念だのう。まあ、いつでも言ってくれれば売るからの」

「ああ。感謝する」


 こうして俺はおじいさんとの雑談を終え、『七福屋』を後にした。

 俺はヘスターの方が先にものになると思っていたが、怪我の具合によってはラルフの方が早くものになるかもしれない。


 パーティを組むと決まったら、まず先にラルフを治療師ギルドに行かせると決め、俺は『シャングリラホテル』へと戻ったのだった。


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