第253話 スノーの評価
五人にスノーを加えたメンバーで歩き始め、会話もほどほどに盛り上がりつつロザの大森林へと辿り着くことができた。
道中での魔物処理はいつもの如くスノーが担当したため、ミエルとフェシリアの二人の実力についてはまだ見ることができていない。
スノーを休ませ、二人に戦うところを見せてもらうことも考えたのだが……。
二人を連れてきた目的は、あくまで水没林や霧の森で足場を作ってもらうこと。
【魔力回復】のスキルを保有しているヘスターが特別なだけで、魔力は睡眠を取らなければ回復しない有限なもののため、できる限り力は温存してもらう方向に決めた。
ロザの大森林に入ってからも俺とラルフが主に雑魚狩りを行い、足場作りに役立たない俺達で護衛をしていくつもり。
「スノーさん……でしたっけ? ラルフと一緒にいるところを数回お見掛けしたことがありましたが、凄く優秀な子ですね。まず頭が良いですし、索敵能力に狩りの能力も申し分ありません」
「確かに優秀だね。見た目もモフモフで可愛いし、魔物も意外とありかもしれないと思った」
「ええ、スノーは優秀なんです! これでも、まだ本来の実力三割程度しか見せてませんからね」
フェシリア、ミエルからのスノー対する思わぬ高評価に、ヘスターが自慢気にそう答えた。
ラルフも鼻の穴が広がっているし、実力者に褒められて鼻が高いといった感じだろう。
「索敵能力に関しては、本当にびっくりするほど広いからな。ロザの大森林内での索敵は、まずスノーに任せておけば間違いないから安心していい。ただ、索敵能力に引っかからない小さい魔物にだけは十分に注意してくれよ」
「小さい魔物? ゴブリンとかコボルトのこと?」
「違う。もっと小さい魔物で……猛毒を持つ虫型の魔物や、皮膚を食い破って体内に卵を産み付けてくるような魔物もいる。麻痺させられていつの間にか体内に潜り込まれてた――なんてことも多々あるらしいからな」
「これから森に入るのですもんね。ダンジョンで変な魔物に慣れてはいますけど、気を付けさせてもらいます」
「……虫」
前回、ラルフとヘスターに散々した注意をミエルとフェシリアにも促す。
フェシリアは飄々とした様子だが、ミエルは虫の魔物が苦手なのか整った顔が大崩れしているほど、表情を歪みきらせていた。
「ミエルは虫の魔物が苦手なのか? 顔が凄いことになってるぞ」
「虫の魔物というより、虫全般が苦手。できることならば森なんかに入りたくないのよ」
「虫が苦手なのに来てくれたのか! 最初は敵として認識してたけど、ミエルは意外と良い奴だよな!」
「あんたらのリーダーが無理やり連れてきたんでしょ! 善意で来たわけじゃないわよ!」
「平気で人を殺そうとする奴が良い奴はありえない。とにかく虫が苦手だろうが気をつけろよ」
ラルフの発言にしっかりと訂正をいれておき、いよいよロザの大森林へと足を踏み入れた。
まず目指すのはオークの拠点。今日はそこで一泊し、森に慣れてもらうと共に動きについての説明も行う。
二人の実力も見れたらいいのだが、そこの部分に関してはあまり期待しておかないでおこう。
ここまで先導してくれたスノーに代わり、俺が先頭に立って索敵を行いつつオークの拠点へ向けて歩を進めた。
「よーし、到着! ここが俺達の拠点だぜ!」
「……意外とちゃんとした拠点なんですね。ただ、ロザの大森林の中に拠点なんか作っていいのですか?」
「いいかどうかは知らん。駄目だったとしてもバレなきゃいいんだよ」
変な角度の心配をしてきたフェシリアの言葉を一蹴し、寝泊まりする建物へと案内する。
ヘスター、ミエル、フェシリアの三人には、前回ラルフとヘスターで建てた建物に寝泊まりしてもらい、俺とラルフは俺が建てたお粗末な家で寝泊まりする予定。
三人に対して家が二つ。
癖のある人ばかりだし、文句が出なければいいが……その辺りはヘスターが上手くやってくれるはずだ。
「建物内に荷物を置き終えたら、周囲を歩きつつ森に慣れてもらいたい。その後、拠点内で明日の動きについても確認するからそのつもりでいてくれ」
「え? 今日はここに辿り着いただけで終わりなの?」
「そのつもりだが、何か問題あるのか?」
「大アリよ! 私、そんなゆったりとしたスケジュールで動くつもりはないから。さっさと目的地に行って、さっさと目的を達成して帰りたいの」
「私もミエルさんの意見に賛成です。森に慣れさせるという行為は、常人を連れてきた場合ならば正解だと思いますが……私はヒヒイロカネ冒険者です。無駄な行為ですので、早急に目的地まで連れて行ってください」
「その行為が危険に晒す行為だとしても、意見を変えるつもりはないのか?」
「「ない」」
オークの拠点で休む気満々だったのだが、ミエルとフェシリアに詰められた。
そもそも二人共に探索自体に乗り気じゃないし、反対意見も出るかもしれないとは想定していたが……。
まさかここまで断固として拒否されるとは思っていなかった。
一人はヒヒイロカネ冒険者。片一方は英雄の卵と、実力は十分だろうけど俺は仮にも命を預かっている立場。
できる限り慎重に事を進めていきたかったが、二人ともに意見を曲げるつもりがないのであれば、こっちが折れるしかないか。
「……分かった。ラルフ、ヘスター。予定変更だ。このまま東の拠点まで行くぞ」
「え? せっかく拠点作ったのに休まねぇのかよ!」
「この二人がどうしても先に進みたいって言うんだから仕方ないだろ。日が暮れない内に拠点まで辿り着くよう急いで向かうぞ」
休みかけていた二人を止め、荷物を担ぎ直してから人型兎の巣を改良した東の拠点へと向かうことになった。
スノーは広範囲の索敵をお願いし、雑魚狩りは俺とラルフで行う布陣で急いで向かうとしようか。