第252話 異色のメンバー
フェシリアの協力を得られた日の二日後。
とうとう今日から、本格的なロザの大森林の探索が始まる。
この探索にてスキルの実を発見することができれば、俺の準備はほぼほぼ整ったと言っても過言ではない。
既に王女であるシャーロットの助力も得られているため、バルバッド山で初代勇者の装備を探した後に王都へと戻り――クラウスとの決戦に臨むつもりでいる。
殺されかけながらも家を飛び出し、ペイシャの森へと逃げ込んだ時に心に誓ったクラウスへの復讐。
【農民】の俺が【剣神】のクラウスの域に到達するまで、どれほど長い年月がかかろうともやり遂げる覚悟でいたが、自分の予想をも遥かに上回る速度でここまで成長してきた。
後はスキルの実を手にし、【剣神】に匹敵するスキルを手にするだけ。
……とは言っても、スキルの実が実際にあるのかはまだ不明だし、存在したとしてもスキル自体が微妙であればまだまだ時間はかかるんだけどな。
気合いを入れるあまり、俺が未来のことまで想像していると、準備が整った様子の二人が声を掛けてきた。
「クリス! ぼーっと突っ立ってどうしたんだよ。俺達は準備できたぜ?」
「クリスさんも準備が整っているのであれば、ロザの大森林へと向かいましょう」
「アウッ!」
「……ああ。向かうとするか」
俺は頬を思い切り叩いて気合いを入れてから、ラルフ、ヘスター、スノーと共にエデストルの門を目指し、『ゴラッシュ』を後にした。
二人との待ち合わせ場所である、エデストルの街の門を抜けたところでしばらく待っていると――先に姿を表したのはミエルだった。
いつもの黒いローブに両手杖。それから小さなリュックを背負っている。
「やっぱ来てくれたか。今回はよろしく頼む」
「行かなきゃ後で何されるか分からないから、仕方なく来ただけよ」
ぷいっとそっぽを向き、冷たくそう言ってきたのだが、理由はどうあれ来てくれたのはありがたい限りだ。
勝手にミエルは来るものと判断していたが、一方的な勧誘だったし来ない可能性も十分にあった訳だしな。
「なぁ、それよりそんだけの荷物で大丈夫なのかよ! 森の中には店なんかないんだぜ?」
「必要最低限のものしか持ってきていないから、あんたたちの物資を貰うわよ。それぐらいは優遇してもらうから」
「それは大丈夫だ。俺はかなり余分に持ってきたからな」
「そんじゃ大丈夫か! 森に入るような装備じゃないと思ったけど、クリスは予測済みだったって訳だもんな!」
「……それより、出発しないわけ? もう揃ったんでしょ?」
「いや、後もう一人だけ来る。そろそろ来ると思うんだが——と、噂をすれば来たみたいだ」
ダンジョンのある方角から歩いてきたのは、ミエルとは正反対の派手な赤いローブを身に纏った金髪ロールのフェシリア。
前回会った時は持っていなかった、青い魔石がはめ込まれた杖を手にしており、ミエル同様にそれ以外はかなりの軽装となっている。
「あっ、フェシリアさんも来たぜ! ヴィンセントさんも行けたら行くって言ってたんだけど、やっぱ来たのはフェシリアさんだけか……」
ヴィンセントはそんなことをラルフに言っていたのか。
ラルフは残念そうにしているが、俺はヴィンセントが苦手なためありがたい。
フェシリアを説得してくれたし、恩人であることには間違いないんだがな。
「どうも。私で最後でしょうか?」
「ああ、フェシリアで全員揃ったことになる」
「……やはりその態度でくるんですね」
「基本、俺は誰に対してもこの態度だから諦めてくれ」
嫌そうな顔をしているフェシリアを無視し、俺はパーティメンバーの紹介から始めた。
ミエルはスノー以外知っているだろうが、フェシリアはヘスターのことを知らないからな。
それよりも……何やらミエルはさっきからずっとスノーのことを見ているが、何か気になることでもあるのだろうか。
「スノーに何か引っかかるか?」
「い、いえ。魔物がいるとは思っていなかったからビックリしただけよ。そ、それより、そっちの人は誰なの?」
「俺が説明するより、お互いに自己紹介した方が早いだろ。ミエルから頼む」
ミエルはダンジョンに潜っているし、フェシリアのことを知っていると思ったが、エデストルに訪れたばかりということもあって知らないのか。
……というか、王女の相手をしていて他人を気にするどころの騒ぎじゃないのかもしれない。
「私はミエル・クリフォード・エテックス。王都の学校からダンジョンを攻略しにエデストルに来たのだけど……。今回は訳あってこの探索に参加することになったの。よろしくお願いするわ」
「ミエルさんについては存じ上げています。王女と一緒のパーティを組んでいる新進気鋭の冒険者ですよね。……私は【月影の牙】のフェシリアと申します。どうぞ、短い間ですがよろしくお願いします」
にっこりと微笑み、ミエルに挨拶したフェシリア。
ミエルはというと、流石に【月影の牙】の名は知っていたのか、わなわなと震えながら驚いた表情を見せていた。
それからそそくさと俺の下へ駆け寄り、耳元で周囲に聞こえないよう話しかけてきた。
「【月影の牙】ってヒヒイロカネランクの冒険者パーティよね!? クリス、よくこんな大物冒険者の協力を得られたわね」
「ラルフの伝手でちょっとな。それよりも挨拶も済んだことだし、早速出発しても構わないか?」
「私は構いません」
「わ、私も大丈夫よ」
「それじゃ、ロザの大森林に向かうとするか」
かなり変わったメンバーだが、全員実力者なため余計な心配はいらないはず。
ロザの大森林に入る前に注意喚起を促すとして……まずはロザの大森林に辿り着くことを目指すか。
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