第246話 殲滅
スノーの氷の牙も練度が高まっており、相当な強度を誇っているのが分かる。
そんな牙を自由に出したり消したりできるのだから、このことを知らない者からすれば防ぎようがないよな。
一瞬にして首を飛ばされた人型兎を見ながら、俺はそんなことを考える。
――っと、スノーの戦闘ぶりに感心している場合ではなく、注意をこっちに向け切るためにもド派手に暴れないといけない。
すぐに思考を切り替えて、俺達が今殺した人型兎の声を聞きつけ、急いで駆けつけて来ている他の人型兎に意識を向ける。
巣に残っている内の半数以上……十数匹の人型兎が、一気にこちらに向かってきているのが見えた。
さっきは数も四匹と少なく、人型兎が油断していたから瞬殺できたが、十匹近い数となるとそうはいかなくなってくる。
どう立ち回ろうか考えていると、転がっている仲間の死体を見て、怒り狂ったように雄たけびをあげだした人型兎。
最初の一匹が発した雄たけびに呼応するように全員が雄たけびを上げ始め、森の中に響き渡るほどの凄まじい声量となっている。
この雄たけびは怒りを表すと共に、相手を怯ませる的な意味合いが大きいんだろうが……残念ながら俺もスノーもこの程度の威圧で動じることはない。
逆にヘスターやラルフへの合図となったとポジティブに捉え、俺は笑みを浮かべながら迫り来る人型兎の群れに剣を向けた。
二人が合流するまで耐え凌ぐのが俺とスノーの役目な訳だし、ここまで誂え向きの状況ならボルス流の戦い方を試させてもらうか。
指導を受けてからすぐにロザの大森林の探索となったため、十分に落とし込む時間が取れなかった。
真剣に命を取りに来ている人型兎たちには悪いが、俺の実験台となってもらうとするか。
スノーには待機の合図を送り、俺は雄たけびを上げながら近づいてくる人型兎にゆっくりと近づいていく。
――まずは現在の状況の把握からだ。
襲ってきているのは合計で十一匹。七匹が拳で四匹が剣を手にしている。
見た目や動きに違和感がある人型兎はいないため、十一匹全てが今殺した四匹の人型兎と同種と見ていい。
能力値で表すなら、敏捷性は200から250。
力はせいぜい100がいいとこで、耐久力に至ってはオーク以下だな。
【脚力強化】のせいで間合いに関しては広いが、そのことを理解していれば何も怖くない。
個体差は多少あるものの、迫ってきている人型兎を見て冷静に分析した俺は攻撃を受ける準備に移る。
十一匹と数で圧倒していようが、全員が近距離武器な上に七匹が拳という超至近距離でしか戦えない状態。
囲まれないように立ち回れば――俺と正対できるのはせいぜい三匹が限度。
更に、俺の下に一番最初に到達した人型兎は大振りの一撃で仕留めようと動いており、とにかく隙だらけなのだが――この場面では俺から攻撃したら駄目。
この大振りの人型兎は仲間の攻撃スペースも消しており、更にギリギリまで引き付けてから躱すことで……。
雪崩込むように迫ってきていた仲間に拳が衝突。
一人相手に無策で十人も突っ込んでくれば、そりゃあ味方同士の攻撃も当たるわな。
俺はとにかく頭を回転させ、目の前の十一匹の動きに加えて周囲の情報も叩き込んでいく。
少し特殊な地形も利用しつつ、とにかく常に俺が優位に立てる位置に移動しながら攻撃を避けることだけに専念する。
人型兎たちは面白いように味方同士で傷つけ合っていて、脇目も振らずに俺だけに焦点を合わせているせいで数的有利を全く活かせていない。
戦闘において攻撃しないという選択が、これほどまでに有効だとは正直思っていなかった。
ラルフも攻撃を受けるだけでなく、避けることでのタンク役もできるのでは……?
十一匹の人型兎を相手取りながら、そんなことも考えられる余裕をもって戦っていると、タイミングよくラルフの姿が見えた。
その後ろにはもちろんヘスターの姿もあり、この場所に来る前に既に何匹かの人型兎を屠っている様子。
……ということは、この十一匹を倒せば巣にいる人型兎の殲滅はほぼ完了ってことか。
俺は後ろで待機してもらっていたスノーに合図を送り、ラルフとヘスターの奇襲が決まるようにサポートに徹させる。
元々、避けまくる俺にムキになっていたところにスノーが動いたことで、人型兎たちの注意は完全に前方にいる俺とスノーに釘付けとなった。
俺達にも仲間がいて、後ろで控えているはずの仲間が既にやられているなんて頭の片隅にもないのだろう。
気合いを入れるかのように無駄に叫んではいるが……俺とスノー。
どちらに攻撃を加えようか迷いが生じたようで、その迷いから一瞬動きを止めたところに――ヘスターの強烈な魔法が放たれた。
「【フレイムトルメンタ】」
背後からの魔法の強襲により、半数である六匹の人型兎が炎の渦に飲み込まれた。
理解の範疇にないことが起こると体が固まってしまうのか、またしても何が起こったのか理解できていない様子で人型兎たちは体を硬直させた。
「スノー、左の二匹を頼む。ラルフはそっちに近い一匹を頼んだ」
急な魔法による攻撃に対し呆気に取られている隙に、俺はスノーとラルフに指示を飛ばして攻撃を開始。
避ける俺に攻撃を加えようと無駄に動き回り、仲間同士で攻撃を与え合っていた五匹の人型兎は、この場から逃げる体力は残されていないようで未だに目を見開きながら固まっている。
最後の抵抗で、握っている剣を俺に向けようとしてきてはいたが……。
人型兎が剣を構えるよりも早く、俺は心臓部に剣を突き刺し、隣に立っていた一匹の頭も刎ね飛ばした。
それからスノーが左の二匹を瞬殺。
ラルフが正面にいた人型兎を袈裟斬ったところで、相手取っていた計十一匹の人型兎は一瞬にして全滅。
俺達は傷一つ負うことなく、人型兎の巣の制圧に成功したのだった。
お読み頂きありがとうございます!
ここまでで少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価を頂けますと、作者のモチベーションが爆上がりします!
お手数お掛けしますが、ご協力頂けると幸いです。