第245話 人型兎
数にしてザッと二十匹ほど。
人型兎が亜人ではないかが少し気になるところだが、威圧するかのように巣の入口に並べられている殺したであろう人間の頭蓋骨を見る限り、この人型兎たちは魔物という認識で良さそうだ。
そんな人型兎なのだが、少し気になったのがオンガニールの宿主になっていた魔物とは若干姿が異なっていること。
オンガニールの人型兎は、傷だらけの体で筋肉量も凄まじかったのだが、この巣にいる人型兎は普通の体型をしている。
まぁ普通といっても、オンガニールの人型兎と比べてって感じだが……見る限りではそこまでの強さを感じない。
殺傷能力の高そうなメリケンサックのような武器も身につけていないしな。
あの人型兎は、オークで言うところのオークキングみたいな存在だったのかもしれない。
巣にいる人型兎を見ながらそんなことを思いつつ、俺はみんなに報告するため一度人型兎の巣から静かに離れた。
「おお、クリス! どうだったんだ? 魔物の巣の方はよ!」
「良い感じに拠点にできそうな巣があった。人間に近い体型をした兎のような魔物の巣だ」
「人間に近い形? しかも兎って……可愛い感じの魔物か?」
「いや。オークよりは酷くはないが、普通に魔物って感じの風体だな。巣の入口には人間の頭蓋骨らしきものも並べられてあるし、少なくとも亜人って感じではない」
「そうか……。人に近しいのは正直やる気が失せるけど、人間を敵視している魔物なら構わずやれるな!」
ラルフも俺と同様に一瞬躊躇いを見せたが、見た情報をそのままに伝えるとやる気を見せた。
俺達は、王都の闇市場で奴隷として扱われている獣人を一度見ているからな。
俺も普通の人間ならば殺すのは躊躇うが、極悪人や俺を殺そうとしてくる人間なら容赦なく殺すことができる。
問答無用で敵視してくる魔物ならば、尚のこと一切の抵抗なく殺せる。
「クリスさん。戦うということでしたら、より詳しい情報を教えてください」
「数は合計で二十匹前後。強さはオークよりかは強い生命反応を持っていたが、図抜けて強い魔物ではない。俺とスノー、ラルフとヘスターで二手に分かれて、挟むような形で一気に殲滅を図るつもりでいる」
「オークよりは強いって感じの魔物か。まぁ、クリスがいけるって判断したなら大丈夫だろーよ! それで作戦の決行はいつにするんだ?」
……決行日か。
俺は今日のつもりでいたが、確かに日は既に落ちかけ始めている。
少しでも手こずれば日が落ち、オークの拠点に戻れなくなるからな。
ただ、あの程度の強さなら手こずることなく殲滅することができるはずだ。
「今日やってしまおうか。明日は拠点作りに専念したいしな」
「了解! サクッと倒して、日が落ちてしまう前に拠点に帰ろうぜ!」
「大まかな指示はお願いしますね。私とラルフは作戦通りに動きますので」
「ああ。ひとまず俺の後をついてきてくれ。くれぐれも警戒は怠らないようにな」
二人に軽く指示を出してから、俺はスノーと横並びで東北東の人型兎の巣を目指し、慎重に歩を進めていく。
それから俺達は人型兎たちに気づかれる様子もなく、先ほど俺が監視した木の裏まで辿り着き、ここからがいよいよ戦闘の準備へと移る。
「二人はここで待機していてくれ。俺とスノーはここから反対側に回って、一気に攻撃を仕掛ける。人型兎が俺達の攻め込んだ方角に気を取られるのが分かったら、二人も一気に攻め込んでくれ」
「分かった! しばらく待機しておいて、クリスとスノーが攻撃したのを確認してから、俺達も攻撃すればいいんだな?」
「ああ、そういうことだ。よろしく頼んだぞ。……それじゃスノー行くか。気配を消して、俺の後をついてきてくれ」
ラルフとヘスターをその場に残してから、俺は隠密スキルを使って気配を断ち、スノーは野生で身につけた技術で気配を消しながら反対側へと回った。
人型兎が【聴覚強化】のスキルを保持していることは知っているため、いつバレても大丈夫なように動きながらも戦闘態勢を整えていたのだが、俺もスノーも待機しているラルフとヘスターもバレることはなく、作戦通りの位置に辿り着くことができた。
「警戒している様子は一切なし。……スノー、準備はいいか?」
「アウッ」
「よし、じゃあ行くぞ。――俺に合わせて動いてくれ」
スノーの頭を軽く撫でてから、俺は剣を抜いて一気に巣へと向かっていく。
巣の周辺で何らかの作業を行っていた人型兎たちは、急に現れた俺とスノーに驚いた様子を見せつつも、すぐに仲間へ合図を送ると戦闘の構えを見せた。
巣の入口に付近にいて、近づく俺達に即座に反応を見せた人型兎は計四匹で、武器は剣と拳が半々。
構えている様子を見る限り、人型兎たちは中々の風格があり様になっている。
【脚力強化】も持っている可能性を考えると、間合いは想定よりも広いと思っていた方がいい。
頭の中で人型兎の情報を軽くまとめつつ、スノーに合図を出すと同時に俺は一気に剣を持つ人型兎に斬りかかった。
予想通り、俺が剣を振り上げた瞬間に【脚力強化】を使用した様子を見せ、人型兎はすれ違い様に俺を斬り裂く……居合斬りのようなものを行ってきたが、この速度なら完全に不意を突かれていたとしても防げるぐらいの速度。
今回に関しては警戒していたということもあり、俺はその居合斬りを完璧に対応。
斬りかかってきた人型兎の一撃を躱しつつ、首に一太刀お見舞いしてやった。
居合斬りを仕掛けてきた人型兎の頭は綺麗に空を舞い、胴体部分は勢いそのままに地面を転ぶように倒れる。
俺とスノーを囲んだことで、余裕そうな表情を浮かべていた残された三匹の人型兎だったが……。
一瞬の内に首を飛ばされた仲間の姿を見て、時が止まったかと錯覚するほど三匹が凍り付いたのが分かった。
普段は魔物のことなんて少しも理解できないが、三匹の人型兎から焦りと動揺、それから恐怖という負の感情が激しく渦巻いているのが手に取るように分かる。
嗜虐心がくすぐられ、俺は少し遊んでやろうかとも頭を過ったのだが……。
スノーが戦闘中に動きを止めるような敵の隙を見逃すはずもなく、一瞬にして殺された仲間を見て固まっていた三匹の人型兎も、スノーによって一瞬して首を刎ねられたのだった。