第243話 下見
昨日は半日使って様々な店を回り、なんとか全ての用事を済ませることができた。
営業時間ギリギリだったけど、剣の手入れもしっかりしてもらったし大満足な一日を過ごせた。
――そして、今日からはいよいよパーティ全員でのロザの大森林の探索を行う。
来週のミエルを加えての本格的な探索の予習的な意味合いだが、南エリアの東に拠点を作らないといけないし、まだもう一人が見つかっていないため三日間の探索でき切り上げて、残りの四日間は人探しに注力しないといけない。
ボルスさん、ルーファスとの手合わせで掴んだ感覚を離さないよう、自分の中に落とし込む作業にも没頭したいところでもあるが……。
ミエルをわざわざ連れ出したのに、人手不足で探索不可だったら計り知れない時間と労力の無駄のため、何がなんでもロザの大森林の探索に連れていける人物を探し出す。
ゴーレムの爺さんも探してくれてはいるみたいだが、『マジックケイヴ』にはあまり期待ができないかもしれない。
手詰まり感は否めないところだが、少し当たってみたい人物がいる。
駄目元だが、戻ってきたら会いに行ってみるとして――何よりもまずは、今回の探索を成功させることを考えなくてはいけないな。
「クリス! 準備はできたか? もう出発しようぜ!」
「俺はとっくの昔に準備できてるんだよ。ラルフのトイレ待ちだろうが」
「全員準備できたのなら向かいましょう。クリスさん、案内お願いしてもいいですか?」
「ああ。まぁ案内って言っても一本道だけどな」
出発前にトイレに駆け込んだラルフが戻ってきたため、いよいよロザの大森林へと足を運ぶ。
俺は既に何度も行っているため不安はないが、ラルフとヘスターを連れていくため軽く緊張している。
俺がスキルを大量に保有しているため、あまり危険を感じなかったレックスビルやメディスンアリは二人にとっては脅威となる。
この二種類の魔物に関しては、俺の索敵スキルに引っかからないため十分に注意しなければならない。
既に散々注意をしてはいるが、念のためもう一度注意喚起を行ってから……俺達はロザの大森林へ向けて歩を進めた。
「着いたぞ。ここがロザの大森林だ」
「マジで広くて深い森だな! カーライルの森とは比べ物にならないのが、入口を見ただけで分かる」
「ゾクッとするような怖さがあります。……クリスさんはよく一人でこの森を探索できましたね」
「大量のスキルお陰で、俺一人のが安全なのは安全だからな。エデストルを出る前にも注意したが――」
「もう分かってるっつうの! 蛭と蟻の魔物には注意しろってことだろ? 流石に忘れてねぇからよ!」
「それだけ危険だって話だ。いつどこで襲ってくるか分からないから、本当に注意してくれ。――それじゃ、森の中に入るとするか」
いつものように俺とスノーで索敵を行い、周囲への注意を図りながら慎重に進んで行く。
南エリアの南は森の入口に近いということもあり、他のエリアよりも魔物も少なく危険な生物も生息していない。
更に今回は慎重に進んだということもあり、魔物にすら遭遇することなく俺が作った拠点へと辿り着いた。
二人も関心した様子で元オークの拠点を見ているが、建物の大多数はオークの臭いが染みついているせいで使用不可状態だし、あまり期待はしないでほしいところ。
「すげぇ良い拠点じゃん! 期待すんなって言ってたけど、カーライルの森の拠点なんかより立派だぞ!」
「ですね! 私ももっと酷い場所を想像していましたが、柵でしっかりと囲われていますし十分すぎますよ」
「勝手に期待値を上げるなよ。何が駄目なのかは入って見ればすぐに分かるから」
口で説明するよりも実際に体感してもらった方が早いため、早速二人を拠点の中へと招き入れた。
スノーはというとオークの酷い臭いのことは知っているし、嗅覚が俺達よりも何十倍も効くこともあってか俺達にはついてこず、俺が作ってあげたスノー用の家に一目散に入っていった。
「うげぇ! なんじゃこの臭い!」
「そうだ。この臭いが理由で建物の大半は使えない。この拠点が見掛け倒しってのは分かってくれたか? まずは二人の寝床となる建物作りから始めるぞ。ここが終わったら東側の拠点作りもあるから、速度重視で作っていくからな!」
ラルフは適当な家へと入ると顔を酷く歪めて大袈裟に叫び、ヘスターに至っては建物に入る前から臭いに察知したのか中にすら入らない。
この拠点の欠点を理解してもらったところで、まずは寝床となる建物作りから始める。
ミエルともう一人のために少し大きめに作るとして……まずは材料集めから行っていこうか。