第242話 期待外れ
白い花から予想だにしていなかったスキルが会得でき、かなりの期待感を持って異形の植物も鑑定を行ったのだが……結果はまさかの能力変化なし。
期待していなかった植物が良い結果を残し、期待していた植物が空振りに終わる。
まぁ、あるあると言えばあるあるなんだが、今回はいつも以上に期待が大きかったためショックもでかい。
とは言っても、使える時間は限られているし落ち込んでいる時間は一分もない。
霧に紛れていた花からスキルが取れたという良い成果だけを胸に刻み、ポーションを受け取りに『ガッドフォーラ』へ向かうとしようか。
教会を出てから商業通りを抜け、閑散としている街のはずれにある『ガッドフォーラ』の店へと辿り着いた。
前回からかなり期間が空いてしまったし、金は事前に払っているとはいえ大量のポーションを長期間預かってもらっている状態。
何か文句を言われるだろうなと覚悟しつつ、俺は扉を押し開けて店の中へと入った。
「いらっしゃい。ゆっくり見て――って、クリスじゃないかい! ずーっとポーションを取りに来ないから死んだのかと思ったよ!」
「取りに来れずすまないな。ずっと忙しくて営業時間中に訪ねることができなかった」
「そうだったのかい。ボルスの奴にも言伝を頼んだんだがね……。とりあえず無事で良かった。ポーションの方は全て出来上がっているよ」
トリシャはそう言うと、店の奥からポーションの入った籠を持ってきてくれた。
数にして二十五本。
約束通り、金貨五枚で二十五本ものジンピーポーションを生成してくれた。
シャンテルが生成してくれたポーションよりも色味は優しいが、臭いがこの距離からでも届くくらいのキツい臭いを発している。
二十五本という数も影響しているだろうが、蓋をしていてもこの臭いってのは凄いな。
「キッチリ二十五本。確かに確認した」
「全く同じポーションとは言えないものの、性能に関しては同じものに仕上がっていると思うよ。臭いだけがどうしても抑えらなかったけどねぇ」
「これぐらいの臭いなら全然許容範囲だ。本当に助かった」
「こちらこそ大口の依頼を貰って助かったよ。……それにしても、このポーションを作った人物はかなりの腕を持っているね。どこで出会った錬金術師なんだい?」
錬金術師という役職に出会ったのがシャンテルが初めてだったし、腕に関してはあまり意識していなかったが、歴の長そうなトリシャから見てもシャンテルの腕は立つと感じるのか。
シャンテルは年齢も俺達と同じくらいで若いし、あんな性格だったから全然意識していなかったが……もしかしたら天才の部類なのかもしれないな。
「オックスターって街だ。ノーファストの隣街——ってそんなことより、追加でまた依頼したいんだが大丈夫か?」
シャンテルについて話そうとも思ったが、すぐに俺に時間がないことを思い出し本題へと戻した。
「追加で依頼? またこの毒ポーションの生成依頼かい?」
「ああ。材料は既に用意してある。今回も二十五本の生成をお願いしていいか?」
「こちらとしちゃ、願ってもない話だけど……。一体これだけの毒ポーションを何に使うのさ。まさかテロを起こす気じゃないだろうね」
「そんなことはしない。決して他人に使うことはないと約束する。それよりも額は金貨五枚でいいか?」
婆さんシスター同様、訳の分からない行動を取っている俺に疑念を抱いているトリシャを安心させるために約束しつつ、俺は鞄から金貨を五枚取り出そうとしたのだが……。
トリシャはそんな俺を片手を突き出して制止してきた。
「そんなにお金はいらないよ。作り方は既に理解したし、金貨三枚で構わない」
「え? そんなに安くていいのか?」
「大口の依頼だし、それぐらいは割り引かせてもらうさ。材料も持ってきてくれてる訳だしねぇ」
「そういうことなら、お言葉に甘えてその額でお願いしたい」
金がいくらあっても足らない現状で、トリシャからのその提案は本当にありがたい。
俺は素直にその提案を呑ませてもらい、金貨三枚と大量のジンピーの葉をトリシャに渡した。
「はい。確かに金貨三枚と材料を頂いたよ。今度はもう少し早く訪ねてきておくれよ?」
「ああ。一ヶ月以内にはまた来させてもらう」
俺は大量のジンピーのポーションを鞄に詰めてから、トリシャとそんな約束を交わし、『ガッドフォーラ』を後にした。
依頼した側なのに、受け取るまでに時間がかかってしまったし怒られるかとも思ったが……優しく出迎えてくれて良かった。
少し晴れやかな気分で店の外に出ると、既に日が落ちかけており空が橙色に染まっている。
教会も行ったし『ガッドフォーラ』にも行けた。
この分なら、ケヴィンの武器屋にも間に合いそうではあるが、ケヴィンの武器屋に行って今日は終了しそうだな。
宿屋に帰ってから、なんとかロザの大森林についての情報をまとめることができないか――。
道中で必死にスケジュールについて頭を悩ませながら、剣の手入れを行ってもらうためケヴィンの武器屋へと向かったのだった。
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