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【完結】追放された名家の長男 ~馬鹿にされたハズレスキルで最強へと昇り詰める~  作者: 岡本剛也
5章

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第234話 証明


 バルバッド山でプラチナランクの依頼を二つこなし、エデストルへと戻ってきた。

 大分ヘトヘトな状態だが、これからミエルとの待ち合わせ場所へ向かないといけない。

 俺は冒険者ギルドで依頼達成報告、ラルフとヘスターはスノーを『ゴラッシュ』へと送り届けてから、再び商業通りで合流した。


「依頼の達成報告は無事に済ませることができた。スノーも問題なさそうか?」

「ああ! 疲れてたみたいで、体をタオルで拭いたらすぐに眠っちまったよ」

「なら問題ないな。……というか、二人も別についてこなくていいんだぞ。顔合わせは終わったし、話し合いのためだけに三人全員で向かう必要はないからな」

「私はまだ向こうを完全に信用し切った訳ではありませんので。何か変なことが起こらないようにの監視の意味も込め、私はついていきますよ」

「俺は面白そうだからついていくぜ! 部屋で一人で待ってても何も面白くないからな!」

「まぁ、ついていきたいって言うなら止めるつもりはないけど。……それじゃ、裏路地に向かうか」


 合流してから軽い雑談を挟みつつ、ミエルの待つ裏路地へと向かった。

 人気が少なく密会には適した場所だと思うが、何度訪れてもこの怪しい雰囲気には軽く呑まれてしまうな。


 裏路地に足を踏み入れた瞬間に索敵スキルを全て発動させ、最大限の警戒をしながら奥へと進んで行く。

 奥からは人の気配がしており、どうやら一人ではなく三人の反応がある。

 

 ミエルなのか、それとも裏路地にたむろしているチンピラか。

 ……いや、この反応の強さはチンピラじゃないな。


 一人は膨大な魔力を保有しており、恐らくこの気配はミエルのもの。

 あとの二人は魔力に関してはそこそこだが、非常に強い生命反応を持っている。


 ミエルと――王女とその騎士ってことか。

 連れてくるなら事前に伝えておけと言いたくなるが、グッと言葉を呑みこみ三人の下へと歩いて向かう。


 まず目に入ってきたのは、非常に居心地の悪そうにしているミエルの姿。

 向こうも俺の姿が目に入ったのか、嬉しそうに笑顔を見せてきた。

 ……前回話していた内容に嘘はなく、ミエルは本当に王女達が嫌いなんだな。


「待たせて悪かったな。先ほど依頼から帰ってきたから少し遅れた」

「私達も今着いたところだから気にしなくていいわよ。それよりも、あんたの要望通り王女様をお連れしたわ。後は勝手に自分で会話して頂戴」

 

 ミエルはそう言うと、俺の肩を軽く叩いてから少し離れた位置へと去って行った。

 せめて自己紹介くらい促してから去ってほしかったが、場を設けてくれただけで十分だしそこまでは強要できない。

 俺は先ほどまでミエルが座っていた場所まで歩き、如何にも機嫌が悪そうな王女に声を掛ける。


「わざわざこんなところに呼び出してすまなかった。ミエルから聞いていると思うが、俺はクリスという者だ」


 自己紹介をしたのだが王女からの返答はなく、俺を頭から足の先まで嬲るように見たあと、隣に立っている騎士に顎で何らかの指示を出した。


「……貴様は本当にクラウスの兄なのか? そのことを証明できなければ話すつもりはないとおっしゃられている」

「証明? どうすれば信じてもらえるんだ?」

「そんなものは貴様が自分で考えろ。一分だけ待ってやる。その間に証明できなければ、貴様と会うことは二度とない」


 高価そうな鎧を身に着けた背の高い騎士は高圧的にそう言うと、指で数を数え始めた。

 態度も口調もムカつくが、俺がお願いしてここに来てもらった立場だからな。

 俺も態度は悪いし言い返したい気持ちをグッと堪え、まずはどう証明するかを考える。


 ……クラウスの生年月日、生まれ育った街、両親の名前。

 俺がクラウスについて知り得る情報はその程度。

 どの情報も俺に当てはまるため知っているだけで、それ以外の知識はないんだよな。


 そもそも家族といっても会話もなかったし、俺は親父に朝から晩まで付きっ切りで指導。

 そこにいなかったクラウスのことはほとんど知らない。

 ――だからこそ何故あそこまで憎まれていて、更には殺されかけたのかすら俺には分からないのだ。


「クラウスの生年月日、育った街、両親の名前なら知っている」

「その程度の情報なら情報屋で手に入る。何の証明にもならない。本当に家族なら、家族しか知り得ない情報を持っているだろ?」


 淡々とノーと突き返してくる騎士と、その後ろで俺をゴミを見る目で見てくる王女。

 無駄に顔が整っているだけに、余計に腹が立ってくる。

 ミエルがこの二人を嫌っている理由も、このほんの僅かな時間だけだが痛いほど理解した。


 ――っと、この二人についての悪口を考えている場合じゃない。

 あと数十秒の間に証明する方法を見つけないと、王女の協力を得ることができなくなる。


 無理なら無理でもいいかと思い始めているが、王女の協力を得られるのは今後を左右するほど大きい事案。

 やれるだけのことはするべきだな。


 クラウスについての情報はほとんど知らないため、俺がスパーリング家の者だという証明をする方が早いかもしれない。

 冒険者カードは、『クリス』のみで登録しているから駄目。

 血液でも調べてもらえれば簡単に証明できるだろうが、それもこの場では無理。


 家を出る際に家から持ち出したものはほとんどなく、盗んできた物も売ってしまったから……ん? ちょっと待て。

 俺は鞄の中を漁り、一つの懐中時計を取り出した。


 これは金目の物と思って家から盗んだ、親父が大切にしていた物。

 予想以上に買取金額が安く、『七福屋』で売るに売れずに今の今までなんとなく持っていた時計だ。


 これで俺がスパーリング家の者という証明になるのかは分からないが、今俺が証明できる唯一の手段はこの懐中時計しかない。

 俺は親父の懐中時計を手に取り、王女との間に立ち塞がっている騎士に手渡した。


「これは俺の親父でもあり、クラウスの親父でもある人物が大切にしていた品だ。この懐中時計が証明になるか分からないが、一応調べてみてくれ。クラウスが似たような時計を身に着けていた可能性もある」

「……分かった。シャーロット様と少し話をしてくる」


 初めてまともな反応を見せた騎士は、俺が手渡した懐中時計を持って王女の下へと向かった。

 それからしばらくの間懐中時計について話をしていたようで、結論が出たのか騎士は俺の下へと戻ってきた。


「どこでこの懐中時計を手に入れたか分からないが、確かにスパーリング家の物だと断定できた。ミエルの話も合わせて考え、貴様がクラウスの兄だという話を信じよう」


 この騎士はどこまでも上から目線だが、とりあえず証明にはなったようだ。

 俺から渡しておいてアレだが、懐中時計のどの部分でその結論に至ったか分からんな。


 家紋が入っている訳でもないし、俺から言わせてもらえば秒針も既に止まっている壊れた時計。

 同じ物をクラウスが持っていたのか、或いはこの懐中時計に何かしらのギミックがあるのか。

 ……考えても分からないし、証明はできたのだから考えなくてもいいか。


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― 新着の感想 ―
そうだよクリス、他の人から見たらこう見えているんだよ。これをきっかけに少しは変わると嬉しいね。
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