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第233話 訪問者


 エデストルへ戻った日から五日が経過した。

 魔法に関する助力を仰ぎつつ、俺達は水生魔物の討伐依頼を受けるという方針で動いていたのだが……。


 『ロザの大森林の探索の協力依頼 中級以上の氷属性魔法使える方のみ』という内容で出した依頼は未だに無風状態で、頼みの綱としていたゴーレムの爺さんの方も協力者ゼロで空振り。

 流石にゴーレムの爺さんの方は、中級以上の氷属性魔法を使える知り合いは十数名いて紹介はしてもらったのだが、ロザの大森林の探索がネックなのか誰も協力してくれないのだ。


 水生魔物の方も今のところ進展はない。

 エデストル近くに川はあるものの、当たり前だが水中に潜む魔物による被害はほとんどないようで、水生魔物の討伐依頼は全く出されないのだ。


 出ていたとしても、グルタルサーモンやマーブリンイールといった美味とされる魔物の捕獲依頼だけ。

 はぐれ牛鳥と同じくモノを渡すことで初めて達成となるため、もちろんのことその死体をオンガニールに利用することはできない。


 グルタルサーモンやマーブリンイールを狙いつつ、他の水生魔物の討伐を行うことも考えたのだが、それを行うのであれば依頼関係なしにオンガニール用の水生魔物の討伐に当たった方が手っ取り早いという結論に至った。

 そんなこんなでロザの大森林の探索のために動いてはいるものの、五日前から何の進展もないまま普通の依頼をこなして今日を迎えているという状態。


 今日も変わらず普通の依頼をこなす一日を送る――部屋を出る前まではそう思っていたのだが、珍しい来客が俺達の部屋を訪ねてきた。


「ん? ドアをノックされてないか? クリス、誰か知り合い呼んだのか?」

「俺は呼んでいないが、二人も呼んでないってことか?」

「私は呼んでませんね。こんな時間に一体誰でしょうか」


 俺は即座に【生命感知】と【魔力感知】を発動させ、訪ねてきた人物を感知したのだが……。

 心当たりのありすぎる魔力のお陰で、誰なのかがすぐに分かった。

 俺は即座に扉を開け、訪ねてきた人物を部屋へと招き入れた。


「ゴーレムの爺さん。朝にわざわざ来るなんてどうしたんだ?」

「用件の前にまずは中に入れとくれ。ここまで歩いたから久々に疲れたわい」


 ゴーレムの爺さんは出迎えた俺を押しのけるように部屋の中へと入ると、そのまま驚く二人を無視して椅子に座った。

 色々と突っ込みたくなるが……何よりも気になるのは訪ねてきた理由。


「この爺さんって、オックスターで出会ったゴーレムの爺さんか?」

「フィリップさん!? どうしてわざわざここまで!?」

「はぁはぁ……。ちょっと体が落ち着くまで待っておれ」

「ほら、水でも飲んで落ち着け」


 急かしたくなる気持ちをグッと抑え、俺は息を切らしている爺さんに水を渡した。

 椅子に座りながら水を飲んだことで、ようやく呼吸が整ったらしく顔を上げた。


「ふぅー。やっぱりずっと籠っておらず、たまには運動はせんといかんな」

「落ち着いたなら、前置きはいいから早く本題に入れ」

「分かっておる。そう急かすな。……儂はヘスターに頼まれておったことを伝えにきたんじゃよ。わざわざ来てやったんじゃから感謝せえ」

「ありがとうございます。……えーっと、私が頼んだことですか?」


 思い当たる節がないのか、それともありすぎるのか小首を傾げているヘスター。

 ヘスターが頼んでいそうなことといえば、氷魔法の使い手のことぐらいだろうが……。

 爺さんは、ロザの大森林の探索を手伝ってくれそうな人材を見つけてくれたのだろうか。


「ヘスターが頼んだことって、氷属性の魔法を扱える人探しのことか?」

「確かにそれも頼まれておったが違うわい。儂の店に尋ねてくると言っていた変な女のことじゃ! ミエルと名乗った女じゃよ」

「あっ! 依頼をこなす期間はお店に行けないので、ミエルさんが尋ねてきたら教えてくださいと確かにお願いしてました! その報告のためにわざわざフィリップさんが来てくれたんですか?」

「ミエルとやらが店の開いていない早朝に尋ねてきおったからのう。誰もおらんかったし、仕方なく儂が伝えに来てやったのじゃ」

「そうだったんですね。フィリップさん、本当にありがとうございます!」


 どうやらミエルが改めて『マジックケイヴ』を訪ねてきたらしい。

 ゴーレムの爺さんは、そのことを伝えにわざわざここまで来てくれたのか。

 もう少しで依頼をこなしに出るところだったし、すれ違いにならなくてひとまず良かったな。


「わざわざありがとな。それでミエルはなんて言っていたんだ?」

「今日の夜にいつもの場所に来てほしい――とのことじゃ。要件はこれだけじゃから儂はもう帰るぞい。……ったく、老人を伝書鳩として使うなんてとんでもない奴らじゃのう」

「また改めてお礼に行きます! フィリップさん、わざわざ来て頂きありがとうございました!」

「本当に助かった。俺もいつか礼を言いに行くよ」


 椅子に座ったことで体力が回復した様子の爺さんは、ぶつくさと文句を漏らしながら早々に部屋から出て行った。

 俺とヘスターがそれぞれ礼を伝え、爺さんが帰っていくのを見送る。


 色々と都合がいいため、『マジックケイヴ』を経由してミエルとやり取りを取り付けていたが……。

 まさかゴーレムの爺さんが伝えに来てくれるとは思わなかったな。


 俺のお願いじゃ絶対に足を運びはしなかっただろうし、わざわざ来てくれたのはヘスターのお願いだからだろうか。

 ヘスターは爺さんを師として慕っているようだし、この行動から爺さんもヘスターを可愛がっているのが分かる。


「フィリップさんが来てくれたのは予想外でしたね! 訪ねてきたら使いを出してほしいとお願いをしたのですが、まさか直々に足を運んでくれるとは思っていなかったので未だに驚いてますよ」

「俺も驚いている。あの偏屈な爺さんがわざわざ来たんだから、ヘスターは相当好かれているんだな」

「二人ともちょい待て! ゴーレムの爺さんのことはそこまでにして、ミエルのことについて話そうぜ! 今日の夜、いつもの場所でってどこだか分かるのか?」


 ミエルとはまだ二回しか会っていないが、二回とも同じ場所で会っている。

 いつもの場所と呼んでいいのか分からないが、まぁあの裏路地のことだろう。


「前回、二人とも顔を合わさせたあの路地裏だと思う。それにしても今日の夜か……。ゴーレムの爺さんが伝えに来てくれなければ、確実に会えなかったな」

「ですね。もっと期間に猶予を持たせてほしかったですが、何か近々にした理由でもあるんですかね?」

「考えても分からんな。今日会ってみれば分かるだろう」

「だな! んじゃ、夜までは予定通りに依頼をこなしに行こうぜ!」


 ラルフのその声をきっかけに、俺達は改めて部屋を出て冒険者ギルドへと向かった。

 何はともあれ、まずは依頼をいつも通りこなしてからだな。



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