第225話 危険地帯
ロザの大森林での生活三日目。
昨日の成果は上々で、オークキングと人型兎のオンガニールに加えて、帰り道で有毒植物をしこたま採取した。
レイゼン草とリザーフの実を中心に採取しつつ、新たに俺の中で重要となった魔力を底上げするキノコ、エッグマッシュも大量に採取することができた。
ゴーレムの爺さんが言っていたように俺には魔法の才が皆無なようで、魔法を使う際は常人以上に魔力を消費する。
【アンチマジック】でミエルの魔法を打ち消す際も、ごっそりと魔力が抜け出る感覚があった。
一対一なら今の魔力量でも十分だろうが、多対一や連戦を想定すると今の魔力量では物足らないことが分かったからな。
では物足らないことが分かったからな。
これからは魔力も程々に上昇させていきたいと考えている。
――と、魔力量については置いておいて、とりあえず昨日は半日以上も採取だけに時間を費やしたお陰でかなりの量の有毒植物を採取できた。
正直なことを言うと、もう少し採取しておきたいところだが……。
今日はロザの大森林の新たな場所を探索していくつもりでいる。
ロザの大森林に足を運んでから、どこから探索するかをずっと考えていたのだが、今日向かう場所はロザの大森林の東。
ヘンジャクが近づいてはいけない危険な場所と言っていた沼地のエリアだ。
俺も慣れるまでは近づくつもりは一切なかったのだが、今回の探索にはスノーがいない。
三日目にして既にスノーがいないことへの不便さを痛感しているところだが、唯一スノーがいない方が動きやすいのがロザの森の沼地エリア。
俺は【毒無効】に【外皮強化】と、一人ならば比較的安全に探索できるスキルを保有している。
沼地に生息すると言っていたレックスビルも、【外皮強化】を発動していれば怖くないだろうし、もしもの際は【要塞】で更に皮膚を強固にすることもできる。
【変色】【隠密】【消音歩行】のコンボで気配を断つことも可能だし、有事の際は【自己再生】で自己治療も可能。
沼地エリアはスノーを連れてでは決して行く気にはなれなかったが、一人だからこそ行ける場所とも言える。
もちろん奥深くまでは行くつもりはないが、どれほど危険な場所なのかこの目で見て、何か良そうなものがあれば採取したいと思っている。
沼地にのみ生える植物なんてのが存在していてもおかしくないからな。
俺は入念に準備と確認を行ってから、ロザの大森林の東へ向けて歩を進めた。
拠点を出てから約五時間ほど東に進み、ようやくロザの大森林の沼地エリアに入った。
道中は特に問題なく進んで来れたのだが、ヘンジャクの警告通り足元が泥濘始めてからは異質な空気が漂っている。
まだ沼地の入り口ということもあり少し歩きにくい程度だが、危険な魔物の一匹に挙げていたレックスビルの姿も既に確認でき、沼地に足を踏み入れた俺に群がるように寄ってきた。
目に入るだけでも十匹はおり、泥の下にもまだまだ潜んでいると思うとゾッとするな。
とりあえず寄ってきたレックスビルを一匹捕まえてから泥濘を一度脱し、簡単なテストを行うことにした。
捕まえた十数センチはくだらない巨大な蛭の魔物を腕に乗せ、【外皮強化】だけ発動させる。
これで皮膚を食い破られたら、沼地エリアを進むには【要塞】のスキルも必須となるのだがはたしてどうだろうか。
レックスビルは俺の腕に吸い付くような形で張り付くと、必死に腕を食い破ろうと噛んでいるのが分かる。
【外皮強化】を発動した状態でも若干の痛みを感じるくらいだし、【外皮強化】を発動していなければ一瞬で食い破られていると思う。
ただ、今のところは【外皮強化】さえ発動していれば、蛭の噛みつきに皮膚が負けることはなさそうだ。
とりあえずは【要塞】はなしでも大丈夫そうだし、【外皮強化】のみだけで沼地エリアを進んで行きたいと思う。
腕に噛みつかせたレックスビルを握り潰してから、俺は再び沼地エリアへと入り直して前へと進む。
しばらく進むと地面は水によって一切見えなくなり、濁った水で覆われた完全な沼地へと変貌した。
その沼地からは幾多もの樹木や植物が生えており、この異質な環境が影響しているのか明らかに植物の性質が変わったのが分かる。
今のところの水の高さは膝下ぐらいで、足元が泥なこともあって歩きにくさを感じるぐらいの深さ。
ただ、まだこの水量だからか、ヘンジャクが言っていた肉食の水中生物の気配は一切感じられない。
それでも小さな生物はうじゃうじゃとおり、沼地の入口から襲ってきたレックスビルに加えて、小さな蜘蛛のような虫に大きな蚊のような魔物。
後は牙の鋭い小魚に変な貝のようなのも足元に寄ってきては、レックスビル同様に噛みついてきている。
俺と比較したら圧倒的に小さい生物なのに、それでも構わずに攻撃を仕掛けてくる魔物や生物の数々。
正直もう引き返したくなってきているが、もう少しだけ先が見たいという欲の方がギリギリ強いため、俺は攻撃してくる小さい生物達を全て無視して先へと進んで行く。
水の深さが太腿辺りまで達したところで、俺の索敵スキルに引っかかる魔物が一気に増えてきた。
それと同時に魔物や生物の死骸も多く見受けられ、激しい弱肉強食の世界が広がっているのを感じる。
……これ以上先に進むのは本当に危険かもしれないな。
俺を追うように頭上を飛んでいる鳥に、俺と並走する形で沼地を進む足の長い鳥の魔物。
水の中には脛を噛みついたまま離れない魚もいるし、俺を転ばそうと足元に絡みついてくる触手のような感触もある。
流石に【外皮強化】をしてガードしていようとも、転んで水の中に顔をつけたら目やら耳、口というありとあらゆる穴から体内に入り込んでくるのは目に見えているし、ずっと心臓を締め付けられるような恐怖をじわじわと与えられ続けている感覚だ。
前方からは強い生命反応が複数も感じられるし、戦闘中となればより転ぶリスクは各段に上がる。
――そして、何よりも怖いのは電気を帯びているという魔物の存在。
裏の目標としてこの電気を帯びた魔物を捕まえ、オンガニールの宿主にしてやろうと考えていたのだが、この状態で電撃を浴びたら一瞬で死地へと追い込まれる。
沼地で前かがみとなり手を突っ込む勇気もないし、何の成果も得られていないが……ここが引き際。
東エリアの探索はここまでとして、命の危険に晒される前に引き返そうか。
沼地から抜けるまで絶対に気を抜かず、俺は一歩一歩慎重に拠点を目指して歩を進めた。
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