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第22話 勧誘


 ペイシャの森での成果があったことで気分も良くなり、露店で三人分の串焼きを買ってから、一週間ぶりの宿屋へと戻ってきた。

 部屋の扉を開けると、ラルフとヘスターが座って話し込んでいて、俺の顔を見るなりラルフが凄い剣幕で突っかかってきた。


「おいっ! 何の連絡もなく、一週間も戻らないとかおかしいだろ!」

「……? ヘスターに伝えておいたはずだが」

「ヘスターからは聞いたが、俺には何も言っていかなかっただろ! それにヘスターが起きてなかったら、何も言わずに行くつもりだったんだろ?」

「戻ってきたんだからいいだろ。疲れてるから、まずは座らせてくれ」


 顔の真ん前で怒るラルフを押してどかし、俺は床に座り込む。

 

「それで何処に行ってたんだ? ……まさか、この部屋を出るとか言い出さないよな!?」

「言わねぇよ。とりあえずこれでも食って落ち着け」


 俺は来る前に買った串焼きを俺の分だけ取ってから、ラルフに串焼きの入った袋を投げ渡す。

 ろくな物を食っていなかったのか、串焼きを見るなり目を輝かせ、さっきまでの怒りはどこへやら串焼きを貪り食い始めた。


「クリスさん。ありがとうございます」

「気にするな。冒険者で稼げるようになったら、俺にも何か奢ってくれ」

「ぞんで! どごにいっでだんだ?」

「飲み込んでからにしろよ。汚ねぇな」

「そんで、どこに行ってたんだよ」


 俺の行動がそんなに気になるのか、串焼きで誤魔化しても尚、質問を続けてくるラルフ。

 説明するのが面倒だし、植物の精査に入りたいから放っておいてほしいんだが、説明しないとずっと聞いてきそうだからな。


「ペイシャの森って場所だ。俺が身を隠してた森の話をしただろ? あの森に行ってたんだよ」

「へー、森か……森なら良かった。で、その森でまた一週間も過ごしてたのか。なんでまた今更?」

「ちょっと気になることがあってな。それよりお前達、冒険者の方はどうなんだ?」


 話を逸らすべく二人の進捗についてを聞いたのだが、串焼きを食って笑顔になっていた表情が一気にどんよりと曇り始めた。

 これは、もっと面倒くさい方向に逸らしてしまったかもしれない。


「全然駄目だ。なんとか毎日五匹のゴブリンを狩って銀貨一枚を稼いでいるが、ここの宿屋代で銅貨四枚。飯代で銅貨六枚消えるから、その日暮らしで八方塞がりになってる。どっちかが怪我を負ったり、ゴブリンを五匹狩れなかった時点で食っていけなくなる」

「そうか。苦労してるみたいだな。頑張れよ」

「…………なあ、俺達と――」

「嫌だ。無理だ。そんな余裕はない」

「おい! まだ全部言ってないだろうが!」


 表情や雰囲気、俺がいなくなったと知って異様に焦っていたことから、今ラルフが言わんとすることをなんとなく察し、即座に断りを入れた。

 恐らく、“俺達と一緒にパーティを組んでくれ”とかそんなのだろう。


「俺達と一緒にパーティを組んでくれ」


 俺が予想していた言葉を一言一句外さずに言ってきたため、思わず鼻で笑ってしまう。

 そんな俺の態度にムカッときたのか、また突っかかろうとしてきたが、ラルフはグッと拳を握り締めて堪えた。


「返事は変わらない。無理だ。俺にそんな余裕はない」

「嘘をつくな! 一週間も冒険者業をやらずに生活できているし、俺達に串焼きを奢る余裕もあるだろ? 助けてくれ!」

「それは俺が頑張った成果だろ。奢って貰っといてそんな物言いなら返してもらうぞ」

「…………そ、それはすまなかった」


 本当に返せる余裕がないようで、いつもとは違いすぐにしおらしくなったラルフ。

 確かに、二人で日が昇ってから落ちるまでゴブリンを追い続け、貰える対価は銀貨一枚のみ。


 分配して一日一人銅貨五枚と考えると、少しでも歯車が狂った時点で飢え死には免れないだろうな。

 既に一緒に暮らしている仲だし、同情しないといえば嘘になるが……俺も誰かを助けていられるほど余裕がある訳ではない。

 利用価値があるのだとすれば、考えないこともないんだがな。


「なぁ、お前達の『天恵の儀』の結果はどうだったんだ?」

「『天恵の儀』の結果? そんなの教えられる訳ないだろ。奥の手を晒すってことだぞ」

「別にいいだろ。俺だってお前らに教えたし、仮に殺すつもりなら寝ている時にいつでも殺せる」

「私は適性職業が【魔法使い】で、スキルは【魔力回復】でした」

「おいっ、ヘスター!」

「クリスさんになら喋っても大丈夫だよ」


 ヘスターの適性職業は【魔法使い】なのか。

 基本戦闘職の一つで、基本戦闘職の中では一番珍しい職業だ。


 ただ、適性職業が魔法使いと出ても、魔法使いになるのは相当大変だったはず。

 魔力を自由に扱う魔力操作を完璧に行わなくてはならず、更に魔法を唱えられるようになるには、魔術学校に通うか、魔導書を手に入れて独学で身に着けなければならない。


 魔導書によっては古代文字を読めなければいけない場合もあるし、基礎魔術の魔導書に関しては市場に流通してはいるものの、『植物学者オットーの放浪記』とは比べ物にならないほど高額。

 それに魔術学校に通えるのは、一流の貴族か『天恵の儀』で上級魔法職を授かったもののみだ。

 一般的に基本戦闘職の中では、一番のハズレ職といわれている職業だな。


「【魔法使い】か……。【農民】の俺よりかは全然マシだが、不遇職を授かったんだな」

「そうですね。でも、伸びしろは大きいと思ってます。盗みを始めたのも魔導書を買うためで、私はまだ魔法使いを諦めてないです」

「――ああ。それで、『七福屋』で俺が本を見ていた時、文字を読めるかどうか尋ねたのか」

「か、かなり前のことなのに覚えていたんですね」

「気になるくらいキリが悪かったからな」

「すいません。今になってのお願いになりますが……。もし万が一、私が魔導書を手に入れることが出来たら、文字を教えてくれませんか?」

「ああ。構わない」

「ありがとうございます!」


 確かに不遇職と言われているが、魔法を身に着けることさえ出来れば、【魔法使い】は上級戦闘職とも引けを取らない。

 ヘスターはもしかすれば、今後化ける可能性があるかもしれないな。


「それで、ラルフの『天恵の儀』の結果はどうだったんだ?」

「俺は教えないって言ってるだろ」

「ラルフは適性職業が【聖騎士】です。スキルは【神撃】、【神の加護】、【守護者の咆哮】」

「おいっ、何勝手に話してんだ! ヘスター!」

「【聖騎士】だと……? なんで【聖騎士】でこんなとこにいるんだ?」


 上級戦闘職の【聖騎士】。

 『天恵の儀』で【聖騎士】と出た時点で、王直属の近衛兵団に入隊することができ、授かった時点で勝ち組が確定する戦闘職だ。


 近衛兵にならずとも、冒険者になればトップクランから即勧誘され、トップクランに加入しなくとも勝手に人が集まってくる。

 どう考えても【聖騎士】が、除け者が集まる裏通りで盗人をする人生にはなり得ないはずなのだが。


「ラルフは小さい時に大怪我を負ったんです。その時の膝の怪我で、今も痛みでまともに動けないんですよ」

「……色々と繋がってきた。だから盗みの際はヘスターが実行犯で、ラルフが廃屋で待機していた訳か。短剣を抜こうとした際の動きも、滑らかなのに異様にバランスが悪かったのは、膝をかばっていたからだな」

「くそっ、ヘスターのせいで全部バレちまった」

「【天恵の儀】で戦闘職を授かったもの同士のパーティで、ゴブリンに躓いているのなんてお前達ぐらいだろうよ。よくもまぁ、ここまで不運が重なったな」

「不運なのはとっくに受け入れている。生まれてすぐに親からも見捨てられ、俺達は本当に運がない者同士、二人一役で生きてきたんだからな」


 ラルフはいつになく、弱々しく吐き捨てるようにそう呟いた。 

 確かに小さい頃に負った膝の怪我により、体を自在に動かすことができないのは、この厳しい世の中を生きていく上で大変なのは俺でも分かる。


 俺は十六となるこの年まで不自由なく生きてこられたし、五体満足で剣術に算術に読み書きまで習った。

 二人にあーだこーだと言える立場では、決してないのだろうが――。


「ラルフは、膝さえ良くなれば全てが好転するんだろ?」

「ああ。だが、町医者に診てもらったが完治不可と明言された。俺は一生このまま動けずに終わる」

「町医者に言われた程度で諦めたのか?」

「最初は諦めなかったさ! 『天恵の儀』を受けるずっと前から、俺は足を治す方法を探し続けていた。……だけど、治す方法なんてなかったんだ!」

「親に捨てられ、金も知識も人脈もない子供が、なんで治す方法なんてないと断言できるのか俺には分からない」

「そ、それは……」

「とりあえず、ラルフもヘスターも素質はあると見た。『天恵の儀』によって親から見捨てられた俺が、『天恵の儀』の結果で判断するのもちゃんちゃらおかしいが、俺はお前達二人とパーティを組んでも良いと思った」


 俺に言われた言葉に引っかかっているのか、ラルフは苦い顔をしたまま。

 逆にヘスターは嬉しそうに表情を明るくさせた。


「ただ、今のままじゃ組む気にはならない。さっきも言ったが、俺もやらなければいけないことがあるからな。そんな中で、ゴブリンすらまともに狩れない奴らにかまける時間はない」

「……どっちなんだよ」

「最低限、ゴブリンを楽に狩れるぐらいの強さを身につけられれば、パーティを組んでも良いと言ってるんだよ」

「ゴブリンをまともに狩れないから、パーティを組んでくれってお願いしたんだろうが! それじゃ本末転倒じゃ――」

「分かりました! 私とラルフで、ゴブリンを楽に狩れるようにします!」

「おいっ! ヘスター!」

「決まりだな。二人がゴブリンを楽に狩れるようになったら、しっかりとしたパーティについての話をしよう」


 二人を憐れに思い、擁護してやる気は更々ない。

 俺もまだルーキーから抜けたばかりのブロンズ冒険者で、クラウスを超えるための努力を惜しむ暇もないからな。


 ただ、二人に見えた一筋の可能性。

 その可能性に賭けて、パーティを組むのはアリだと俺は思った。

 ……もちろんクラウスを超えるために。


 俺は二人に背を向けて、自分の作業へと戻る。

 レアルザッドに戻ってきたばかりだが、やらなければいけない作業は山ほどある。


 話し合いで消費した時間を取り戻すため、まずは乾燥させた有毒植物の仕分けから始めたのだった。



お読み頂きありがとうございます!

この小説を読んで、「面白そう」「続きが気になる」と少しでも感じましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ

読者様の応援が私の何よりのモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いいたします!

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読みやすく、おもしろい 心を抉る表現があまりひどくないのも嬉しい
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