第219話 今後の動き
「パーティメンバーの紹介はこの辺にして、本題に入らせてもらう。次にミエル達が王都に戻るのはいつなんだ? その時に収集してもらいたい情報がある」
「さあ、私には分からない。パーティのことは全て王女の言いなりだからね。まぁでも、前回のダンジョン攻略は失敗しちゃったし、クラウスの達成した五十階層を攻略するまで諦めないと思うわ」
「となると、しばらくは王都に戻らないということか」
「そういうことになるわね。もしかしたら、ダンジョン攻略に飽きてすぐに戻る可能性もあるけれど。……あの馬鹿王女、ダンジョン内でずっとグチグチうるさかったから」
ダンジョン内での出来事を思い出したのか、舌打ちしながら毒を吐いたミエル。
こいつは本当に口が悪いな。
「九割方は戻らないって認識でいいんだろ。しばらくは王都での情報収集は不可能って訳か……」
そうなると、今ミエルにできることはほぼほぼない。
現状ミエルが持っている情報は全て聞いたし、新たに情報を集められないとなると待機が妥当ってところかな。
俺としても、何者にも邪魔されずに自身の強化に時間を割きたいだけだし、ミエルが脅威じゃなくなったという点だけでも大分動きやすくなった。
敵となりうる奴がエデストルに来た時の報告だけを約束させ、王都に帰還するまでミエルは放置でいいか。
――俺は一瞬そう結論付けたのだが、ミエルのパーティメンバーである王女。
話によればクラウスをよく思っていないようだし、直接関わりを持つのはアリかもしれない。
面倒ごとに発展するかもしれないのは懸念点だが、王女しか知り得ない情報を持っている可能性も高い。
「しばらくは私にできることはないと思うわよ。王都に戻ったらキッチリと仕事はするから、エデストルでは極力関わらないよう――」
「なぁミエル。王女を俺に紹介することは可能か?」
「は? まさか王女を狙ってる訳? やめといた方がいいわよ。腕っぷしだけは強い堅物の側近がいるから。狙ったら確実に殺されるわ」
「勘違いするな。クラウスを狙うに当たって、協力関係もしくは友好関係を築けないかを尋ねているだけだ」
「まず無理だと思うわ。あの馬鹿王女は庶民に興味がないし、話を聞いてもらうことすらできないはずよ」
何か取っ掛かりがなければ話すら聞いてくれないって訳か。
……俺に王女が興味を持ちそうなものがあるとすれば、【剣神】の兄ということだけ。
復讐相手の肩書に頼るってのはなるべくしたくないのが本音だが、使えるものは全て使わなければクラウスには辿り着けない。
それが例えクラウス自身のことだったとしてもな。
「王女は、俺がクラウスの兄というのを伝えても取り合わないと思うか?」
「その情報を伝えれば、話くらいは聞く気になると思うけど……リスクがあるわよ? 馬鹿王女はクラウスを嫌っているってさっき言ったけど、あくまで普段の態度を見ての私の主観でしかないし、本当は裏で繋がっている可能性もある。嫌っているという態度は、私を監視しやすくするための演技かもしれないしね」
「王女とクラウスが裏で繋がっている? その推測はどれくらいの確率だと思っているんだ?」
「そんなのほぼほぼゼロよ。私は本気で嫌っていると思うし、裏で繋がっているとは思えない。ただ、確率はないとは言い切れないってだけ」
「なら伝えてくれて構わない。ミエルと手を組んだ時点で危ない橋を渡る覚悟はできている」
今更その程度のリスクで怖じ気づく気はない。
もし仮に王女とクラウスが手を組んでいて、俺の情報を流されたとしてもやりようはいくらでもあるしな。
「分かったわ。そういうことなら、私の方であんたのことを伝えておく。クラウスの兄という情報を教えた上で断ってくる可能性もあるし、王女からクラウスに情報が渡ったとしても私のせいにはしないでよね」
「ああ、約束する。ただ王女からではなく、お前が情報を漏らしたと分かれば……容赦はしないからな」
「だから、私は裏切るつもりはないって言ってるでしょ! ネックレスだって早く返してもらいたいし協力するわ」
これだけ釘を刺しておけば大丈夫だろう。
あとは王女が話に乗ってくるかどうかだが、正直なところ分からない。
ミエルの口ぶりから考えるなら、話に乗ってくるような人物ではないと思ってしまうが、駄目だったら駄目で別に構わない。
クラウスと裏で繋がっていない限り、俺へのデメリットはないに等しいからな。
「分かった。王女への橋渡しは頼んだぞ。……それで、次に連絡取る日はどうする? 王女への返答も早めに聞きたいが、ダンジョンに潜るとなったら連絡取れないだろ」
「次は私の方から連絡を入れるわ。王女に何を付き合わされるか分からないし、こっちの都合に合わせてもらうわよ」
「構わない」
「連絡手段はそうね。私が直接足を運ぶわ。宿泊している宿屋を教えてくれるかしら?」
「宿屋じゃなくて、『マジックケイブ』っていう店にしてくれ。……ヘスター構わないよな?」
「はい。確実にフィリップさんはいると思いますし、次行ったときに事情を説明しておきます」
「分かったわ。王女との返答や王都に戻る日が決まった時等の、あんたに連絡を取りたい時はそのお店を訪ねるわね」
「ああ。よろしく頼んだ」
こうして、ミエルとの話し合いが終わった。
今日に限ってはあまり成果を得られなかったが、王女へのアポイントとヘスター、ラルフと顔合わせできただけで十分だろう。
座ったままのミエルを置いて、俺達は裏路地から去りかけたその時――。
ミエルは何かを伝え忘れていたのか、素っ頓狂な声を上げてから俺達を呼び止めた。
お読み頂きありがとうございます!
ここまでで少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価を頂けますと、作者のモチベーションが爆上がりします!
お手数お掛けしますが、ご協力頂けると幸いです。