第218話 顔合わせ
目が覚めると既に日が落ち始めていた。
寝たのが夜明けだったから、随分と長いこと眠ってしまったようだ。
ラルフとヘスター、それからスノーの姿は部屋になく、昨日の言葉通り依頼にいったのかもしれない。
凝り固まった体をほぐしながら、体の調子を確認するが――うん。
まだ若干の疲労感は残っているものの、体調を崩しているとかはなさそうだ。
完全回復のためにもう少しだけ眠りたいところだが、今日の夜はミエルとの話し合いがある。
二人が戻ってくるのを待っている間に、いつでも出られるように準備を整えておくか。
眠気覚ましにシャワーを浴び、着替えを済ませたところで二人が戻ってきた。
やはり依頼をこなしに行っていたようで、いつもは飛び掛かってくるスノーも尻尾を振るだけでかなりお疲れ気味の様子。
「お、クリス起きたのか」
「ああ、流石に起きた。まだ若干だが体が重いし寝足らないけどな。そっちはどうだったんだ?」
「私達は依頼をこなしてきました。クリスさんがいなくて不安だったたので、受けたのはゴールドランクの依頼ですけどね」
「ダンジョンに引き続き、スノーが大活躍だったぜ! 俺とヘスターはほとんど何もしてない!」
「ですね! スノーだけで依頼が片付いてしまいました。索敵能力も高いですし、本当に優秀な子です!」
ワシワシと二人に撫でられ、嬉しそうに鼻を鳴らしたスノー。
推奨討伐ランクがプラチナの魔物と比べても、明らかにスノーの方が動きが良いもんな。
体も相当大きくなったし、ゴールドランクの魔物くらいなら一捻りだろう。
「スノー、俺の代わりにありがとな。今度、良い肉を買ってきてやる」
「アウッ!」
言葉の意味が分かったのか、今度は嬉しそうに飛び掛かってきたスノー。
俺はそんなスノーを撫でながら、ラルフとヘスターにこれからのことについてを話す。
「依頼終わりで疲れているところ悪いが……二人にちょっと話がある」
「話? ミエル関係の話か?」
「そうだ。昨日伝え忘れていたんだが、今日もう一度ミエルと話す予定となっているんだ。俺はこれからその待ち合わせ場所に行くんだが、二人はどうする? ついてきてもついてこなくても構わない」
「もちろん行きます。どんな人なのか一目見たいと思ってましたから」
「俺も行くぜ! 話には口出しする気ないが、ヘスター同様に一目は見ておきたい」
「そういうことなら一緒に行こうか。スノーは悪いが待っていてくれ」
こうして帰ってきたばかりの二人を連れ、俺達はミエルとの待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせ場所は昨日ミエルを拘束した、人気のない裏路地。
時間指定は特にしておらず、夜に集合とだけ伝えてある。
まだ日が落ちて間もないため、いない可能性が高いと思っていたのだが……。
路地裏で一人暇そうに地面を弄ってるミエルの姿が見えた。
「あいつが例のミエルって女か?」
「ああ。あいつがミエルだ」
「変装の達人と聞いていましたが……あれは本来の姿なんでしょうか?」
「そうだ。あれは変装をしていないミエル本来の姿。性別、年齢、背丈まで変えることができるから、ミエルが許可してくれたら後で見せてもらうといい」
「変装するとこ見れんのか。そりゃ楽しみだな! ……てかよ、想像と違ってめちゃくちゃ可愛い子だな! クリス、あの子を思い切りぶん殴ったのか?」
「もちろん。ミエルの方から襲ってきたからな。女だろうが手加減をするつもりはない」
「間違ってないんだろうけど……そのブレのなさはある意味凄いな」
ラルフが俺を変な目で見ているのを無視し、ミエルに向かって歩く。
索敵系スキルを全て発動させて、周囲に隠れている奴がいないかの確認も同時に行っているが、少なくとも俺の索敵範囲内には誰もいない。
約束通り、ミエルは一人でやってきたようだ。
「待たせたな」
「やっときたわね。……後ろ二人はあんたのお仲間さん?」
「そうだ。こっちがヘスターでこっちがラルフ。ミエルとの協力関係を結ぶに当たって、お互いの顔を知っておいた方がいいと思って連れてきた」
「俺がラルフだ! クリスから全ての話は聞いた。敵だったみたいだけど協力者になってくれるなら、これからはよろしく頼む!」
「私はヘスターです。あなたに関してはまだ半信半疑ってところですが、その見極めも行っていきますのでどうぞよろしくお願いします」
「知っていると思うけど私はミエル。あんたらのリーダーに嵌められて、居場所を失った元エリートよ。今はこの国の王女と一緒にパーティを組んでいるわ。もう歯向かう気持ちは微塵もないから、そんなに警戒しないで頂戴」
自らを元エリートと名乗ったそんな自己紹介の後、ミエルはラルフ、そしてヘスターと握手を交わした。
言葉の端々に毒があるし、歯向かう気持ちはないと口では言っているものの、未だに根に持っているのは明白。
ミエルと会う時は、常に警戒を怠らないようにしないといけないな。
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