第217話 事後報告
今日は色々なことがありすぎて、体が悲鳴を上げているが……。
ラルフとヘスターに、ミエルのことだけでも伝えておかなければならない。
誰にもつけられていないことを入念に確認してから、俺は部屋の中に入った。
ミエルにかなりの時間を使わされたため、正確な時間は分からないけどかなり遅い時間なはず。
二人を叩き起こす覚悟をしていたのだが、部屋の明かりはついているためどうやら起きているようだ。
「クリスさん、遅かったですね! フィリップさんはとっくの昔に帰ったと言っていたので、本当に心配しました!」
「遅すぎんだろ! 俺達、探しに行ったんだぞ? こんな時間までどこで何してたんだ!」
「心配かけたのはすまなかった。ちょっとした事件に巻き込まれてな……。時間も遅いが、少し話に付き合ってもらってもいいか?」
「事件……ですか? やっぱり何かに巻き込まれていたんですね!」
「明日からの依頼は最悪引き伸ばせばいいし、しっかりと何があったのか話してくれ!」
「分かった。俺が『マジックケイヴ』を出てから何があったのかを全て話す」
こうして、ラルフとヘスターにミエルに襲撃されたこと、そしてミエルを協力者として引き入れたことを全て説明した。
二人に何の相談もなく勝手に実行した訳だし、反対意見も出されるとも思ったが、意外にも二人は黙って俺の話を最後まで聞いてくれた。
「――という訳だ。俺の今の説明で理解できたか?」
「理解はできたが、ミエルって奴は本当に大丈夫なのかよ。クリスの判断に異を唱える訳じゃないけど、担保として預かったのは小汚いネックレスだけなんだろ?」
「ネックレスはあくまで保険だ。ちゃんと面と向かって話して大丈夫だと思ったから、協力者になることを了承した。それにネックレスだって、ミエルにとっては相当大事なものなはず。……ラルフ、ちょっと試してみるか?」
「試すって何をだよ!」
「そうだな。ラルフが隠していることがないかを調べる」
「隠し事なんてしてないし、そんなのどうやって調べるんだよ!」
「ラルフはただ俺の質問を聞いて黙っているだけでいい」
俺はそう説明してから、【聴覚強化】と【知覚強化】のスキルを発動させた。
それから平常時の心拍音を聞いたのち、早速ラルフへの質問を開始する。
「ラルフは俺とヘスターに隠し事があるか?」
俺がそう尋ねた瞬間、ラルフの心臓の鼓動が急激に早くなった。
俺の質問に対しての驚きの可能性もあるけど、この心拍音は隠し事がある動揺だな。
「やっぱりあるのか」
「ねぇよ! 俺は何も隠してない!」
「じゃあ、何を隠しているかを探るぞ。……ダンジョンについて。……恋愛について。……食について。……金銭について。――金銭についてか」
「ちょ、ちょっと待った!! もう分かったから止めにしよう! 小汚いネックレスが重要ってことは理解したから、話の続きをしてくれ!」
「ラルフ。後で話があるので聞かせてくださいね」
ヘスターのそんな冷たい声に背筋をピンと伸ばしたラルフ。
ダンジョンについてにも反応を見せたから、ラルフはダンジョンでの金銭関連で何か隠しているはず。
詳しいことを聞き出すのはヘスターに任せるとして、本題に戻るとするか。
「今やってみて分かったと思うが、ネックレスが担保として成立しているはずだから大丈夫なはずだ」
「確かに信憑性はある……。クリスをレアルザッドで襲った人物っていう部分での不安は拭えないけど、協力者として動いてくれるならこれ以上の適任はいないんじゃないか?」
「私も同感ですね。エデストルでも動きやすくなりますし、ミエルという人物を協力者にしたことに対しての不満はありません」
どうやら二人共納得してくれたみたいだ。
リスクがある上での行動だったが、理解を示してくれてよかった。
「それにしても、ミエルって人がいきなり後をつけてくるとはな! 王女のパーティがダンジョンから出たって情報はまだ出回ってなかったはずだけど」
「本人の話によれば、ついさっき出たばかりと言っていた。ラルフがダンジョンから戻ってきた後に、ダンジョンから出てきたんじゃないのか?」
「なるほど。それでエデストルの街に行ったら、たまたまクリスの姿を見かけて尾行したって訳か! そんな偶然すぎるタイミングで見つかるとは、クリスもついてなかったな!」
「結果として協力者にすることができた訳だし、あながち運が悪かったとも言い切れない。まぁ魔法の練習後だったから、そこだけは本気で勘弁して欲しかったが」
先ほどミエルから奪った上級ポーションを飲んだが、それでもまだ頭が痛いし疲労感も凄まじい。
早いところ体を休めないと、体調が大崩れしてしまうのではと思うほどの疲労度合いだ。
「そういえば、フィリップさんの下で習っていた魔法はどうだったんですか? 無事に習得できましたか?」
「ああ。魔法の方は無事に習得できた。ヘスターに今度見せるから楽しみにしておいてくれ」
「クリスさんもとうとう魔法をマスターしたんですね! 楽しみにしておきます!」
「初級魔法一つと、魔法と呼べるのか怪しい魔法を一つの計二つだけだがな。……と、話が長くなってしまったが俺からの報告は以上だ。何か質問とかはあるか? なければもう休みたい」
「俺はない! 詳しく説明してくれたし、クリスの行動にも納得できた!」
「私もありませんね」
「そうか。それなら……もう夜が明けてしまっているが、寝るとしようか。今日の依頼は悪いが延期としてくれ」
「了解! クリスは休んでいてくれ。俺とヘスターは軽い依頼があれば受けてくる」
「ああ、頼んだ」
伝えることは全て伝えたし、長い話し合いもようやく終わった。
俺は肩をくるくると回してストレッチしながら、重い体をなんとか動かしてシャワーだけ浴びる。
それから布団に倒れるように横になると、目を瞑った瞬間に深い眠りへとついたのだった。
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