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第210話 特殊な魔法


 初めて魔法を使うことのできた日から、丸二日が経過した。

 無理が祟ったせいか久しぶりに体調を崩し、この二日間は何もできずにただ寝込んでいた。


 スノーは予想通りダンジョンで大活躍だったらしく、この二日間もスノーはラルフと共にダンジョン攻略。

 そんなこともあり、俺は一人寂しく宿屋で体調の回復を図っていた。

 

 意図していなかったが久しぶりのしっかりとした休養を取った甲斐もあり、二日目の昼くらいには普通に動けるくらいまでは回復。

 ロザの大森林の情報の精査や地図の大まかな部分だけを制作をし、他にも放った【ファイアーボール】の感覚を確かめたり、ヘスターに買った魔導書を改めて読んだりもした。


 休養に加えてある程度の情報の整理もできたし、自由に使える二週間の内の二日をほとんど何もせずに使ってしまった感は否めないが、成果がゼロではなかっただけマシと言える。

 そして今日から、再びゴーレムの爺さんの店である『マジックケイヴ』へ行き、魔法の本格的な指導をしてもらうつもりだ。


 満身創痍になりながらも賭けには勝ったため、指導費がタダなこの手を生かさない手はない。

 【ファイアボール】は使えるようになったとは言いつつも、まだまだ無駄が多すぎるから他の魔法の指導も受けておきたい。


 ゴーレムの爺さんの最後に言った一言も気になるし、残り十一日の内の九日は魔法の修行にあてるつもり。

 そうと決まれば、早速『マジックケイヴ』へ向かうとするか。



 準備を整えてから『ゴラッシュ』を後にし、『マジックケイヴ』へと辿り着いた。

 この無駄に広い店を見た瞬間、魔力切れのあの感覚がフラッシュバックし、体が若干の拒否反応を示したが……その拒否反応を無理やり抑え込み、店の扉を開けた。


 ちなみにだが、ヘスターは特殊スキルである【魔力回復】のお陰で一度も魔力切れを起こしたことがないらしい。

 魔力切れを起こさずに済むし、同時に魔法の試行回数も増やせる最高のスキル。


 更にヘスター本人も魔法の才があり、魔法習得の速度が尋常ではないことから、本当に魔法使いとして才が図抜けているのだと、魔法を使えるようになって改めて感じた。

 俺はヘスターの才能に軽い嫉妬を覚えながら、『マジックケイヴ』の店内をそのまま通過し、ゴーレムの爺さんの作業部屋へと直行。


 一応ノックをしてから中に入ると、ゴーレムの爺さんが先日のように作業をしていた。

 後ろから覗き込むように確認してみると、ヘスターから買い取ったであろうデッドリッチーの宝玉を、わき目も振らずにただひたすらに磨き上げている。

 その必死すぎる光景に引きつつも、俺の存在にまだ気づいていないゴーレムの爺さんに声を掛けた。


「おい、無視するなよ」

「んあ? なんじゃクリスか。やっと回復したようじゃのう」


 ようやく俺に気づいたようだが、手は止めるつもりはないのか必死に磨き続けている。

 非常に会話がしづらいが……まぁいいか。


「ああ。だから、また魔法を教わりにきた。いくら教わっても金がかからないしな」

「教わりに来たのなら、早速色々な魔法を教えてやろう――と言いたいところじゃが、お主は基本的に【ファイアーボール】しか使えんよ」

「…………は? それはどういう意味だ」

「そのまんまの意味じゃ。お主の得意属性は火属性。簡単に説明すると、お主の魔力は火に変換しやすいって訳じゃな」

「でも、他の属性の魔法が使えないって訳ではないんだろ?」

「理論上はそうじゃな。現にワシの得意属性は水じゃが、四元素全ての属性を上級まで扱うことができておる」

「だったら俺だって――」

「もう忘れたのか? お主は得意な火属性魔法ですら、あのざまだったんじゃよ? 今の魔力量じゃ他の属性をまともに扱えることはない。魔力切れを味わいたくないのなら早々に諦めるがいい」


 しっかりと説明されたことで、自分でもかなり納得してしまった。

 確かに火属性初級魔法の【ファイアーボール】ですら、とんでもない量の魔力を消費することでなんとか放つことができた。


 得意ではない属性の魔法を使うとなれば、正直どれほどの魔力を擁するのか想像もつかない。

 それでもやらずに諦めるのは違うと思わないでもないが……ゴーレムの爺さんがぼそりと言った“魔力切れ”という言葉に、その気持ちも俺の中で相当萎えてしまっている。


「…………火属性の中級魔法も無理なのか?」

「ふぉーほっほ。初級魔法を扱えないのに、中級魔法なんぞ扱える訳がない。ド素人の発想は本当に面白いのう」


 いっそ気持ちがいいほど馬鹿にしてくるゴーレムの爺さん。

 他の初級魔法も無理。得意である火属性の中級魔法も無理。


 ……本当に俺が習得できる魔法は一つもないのか。

 だとするならば、今日来たのは完全に無駄足だし、賭けの指導費をタダにするという約束も無駄。

 俺にやれる魔法関連の修練は、【ファイアーボール】の練度を上げるだけってことか。


「じゃあ、爺さんが俺に教えられることはもう何もないってことか?」

「いやいや、そんなことはない。同じ火属性初級魔法の【ファイアアロー】なら使えるだろし、【ファイアボール】だけを切り取っても教えることはまだまだあるからのう。それと……」


 ゴーレムの爺さんはそこまで言い、言葉を詰まらせた。

 その煮え切らない態度にモヤモヤしていると、一生懸命宝玉を磨いていた手を止め、今日初めて俺の方をしっかりと向いた。


「一つだけ使える魔法を知っておる。まぁ魔法と呼べるかは怪しいところじゃが、試してみる価値はあると思うぞい」

「俺が火属性の初級魔法以外で唯一使える魔法で、魔法と呼べるか怪しい魔法。……未完成の魔法か?」

「いや、決して未完成ではないが、扱うのが非常に難しい魔法ってところじゃな。魔法名は【アンチマジック】。ワシも理論上可能ということを証明しただけで、実際に成功したことはない」


 急にとんでもないことを言い始めたな。

 上級魔法まで使えるゴーレムの爺さんでも成功したことがないのに、初級魔法を先日初めて使えた俺が扱えるようになるのか?


 仕返しに変なことをさせようと企んでいるのではと勘繰ってしまうが、前回の帰り際も試したいことがあると言っていたのを思い出した。

 珍しく真剣な表情だったし、その時もこの提案をしようとしていたのは容易に想像がつく。


「爺さんには扱えなく、俺には使用できる魔法ってことなのか?」

「極論を言ってしまえばそうじゃな。魔法に触れてこなかった人物且つ、集中力と洞察力がある人物が好ましい。お主は魔法の才は皆無じゃが、この二つの条件にはバッチリと当てはまるからのう。試してみたいということなら、ワシが教えてやってもいいぞ」


 どういう魔法かも分からないし、習得できるかどうかも曖昧な魔法に時間を費やすのはどうかとも思ってしまうが、俺が火属性の初級魔法以外で使うことのできる唯一の魔法ということなら、習得してみる価値はあると思う。

 偏屈な爺さんだが、魔法に関してはピカイチのものを持っているということは、前回自分の体を操られた時に身を持って理解したからな。


「やることが多いから、その魔法の習得に全力を尽くせはしないが……やれるだけはやってみたい。俺にその【アンチマジック】とやらを教えてくれ」

「習得する気があるというなら良かったわい。早速、修練部屋で【アンチマジック】の練習じゃな」

「ん? 【ファイアボール】や【ファイアアロー】の練習が先じゃないのか?」

「ワシの話を聞いておったか? 魔法に慣れていなければいないほど好ましいのじゃ。下手に魔法を扱えるようになったら駄目なんじゃよ。黙ってついておれ」


 即座に駄目出しを受け、俺は黙ってゴーレムの爺さんの後をついて修練部屋へと向かった。


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