第196話 初めての教会
「色々な情報ありがとう。金貨三枚分以上の価値があった」
「こっちこそ、こんなマイナーな情報を買ってくれてありがとよ。若い小僧がスキルの実の情報だけを求めてやってきたと思っておったから、最初は全く乗り気ではなかったが……。意外や意外に、話が分かる奴で儂も楽しかったぞ」
「そう思ってくれたなら良かった。また情報があったら売ってくれ」
「ロザの大森林については、全ての情報を売ったつもりだから……グロッタの森について知りたい情報があったら訪ねてくるといい。グロッタの森なら、全てについてを知っておると言っても過言ではないからな」
「分かった。グロッタの森に行くことがあれば、また情報を買いにくる。その時はよろしく頼む」
ヘンジャクに礼を伝えてから、俺はヘンジャクの家を後にした。
グロッタの森は完全にノーマークだったが、ヘンジャクの情報を聞いて良さそうだと思えたら、一度行ってみるのも悪くないかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は一度『ゴラッシュ』へと戻った。
話が予想以上に長引いたため、『ゴラッシュ』についたのが昼過ぎ。
スノーに昼飯を与えつつ、俺も昼飯代わりにロザの大森林で採ってきた有毒植物を食べてから、再び『ゴラッシュ』を出てメインストリートへと戻ってきた。
もう少しで日も落ちてきてしまうため、早いところ今日中にやらなければいけないことを済ませる。
最優先は教会へ行き、能力判別及び植物の識別。
そして時間があまったのであれば、ケヴィンの武器屋に行ってスノーの装備を受け取りに行きたい。
先ほど危険な魔物として教えてもらった、レックスビルやメディスンアリ対策の装備も追加で作ってもらいたいし、ケヴィンの武器屋には今日中に行っておきたいが……。
時間的に考えるとかなり厳しいんだよな。
武器屋に行きたいだけじゃなく、情報の整理や地図の制作にも全く手が及んでいないし、ゴーレムの爺さんに魔法も教わりたい。
とにかくやらなければいけないことに対して、時間が足らなすぎる。
もう一日休暇にしてもいいぐらいだが、金銭面の問題もあるからな。
ヘスターも今回の指導に関しては金を払って教えてもらっているみたいだし、宝箱で小銭を稼いだラルフ以外はカツカツなはず。
なんなら、ダンジョンでの費用を考えるとラルフだって金には困っている可能性もあるしな。
となれば、必然的に依頼をこなして金を稼がなくてはいけない訳で……。
自分のことだけに時間を充てたい場面ではあるが、グッと堪えて金を稼ぐことにも注力する。
とりあえず、なんとか今日中にケヴィンの武器屋だけでも行くために、俺は急いで教会へと向かったのだった。
メインストリートから少し離れた場所に位置する、ノーファストの教会にも引けを取らない立派な教会。
エデストルにやってきてから一ヶ月くらいは経つが、教会には初めて訪問する。
能力判別というものに手を出してからは、教会には入り浸るように通っていたため、もっと早くに訪れても良かったぐらいだが……。
ロザの大森林に潜るまでは、自分でも分かるくらいに能力の成長が皆無だったからな。
教会に訪れる理由なんて能力判別しかないし、挨拶のために金貨一枚使うのは気が引けたため、今日まで訪れることはなかったという訳だ。
そんなことを考えつつ、俺は教会の装飾の施された大きな扉を押し開ける。
外観同様、内装も凝られており、神秘的な風景が眼前に広がっていた。
光の差し込み加減とかを見ても、本当に神様がいそうな雰囲気が漂っている。
レアルザッド、ノーファスト、エデストル。
三つの街で訪れた教会が、神秘的で煌びやかな教会だったことから、オックスターのあの教会が異質だということが現実味を帯びてきた。
息も絶え絶えに能力判別をする神父を思い出し、少し思い出し笑いをしつつも俺はシスターの下へと歩く。
講壇で何かを読み上げている神父ではなく、暇そうにしているシスターに声を掛け、能力判別はどこで行えるのかを聞き出すことにした。
「すまんがちょっといいか?」
「はい、大丈夫ですよ。なんでしょうか?」
「能力判別をしてもらいたいんだが、どこでやってもらえるんだ?」
「能力判別ですか。……ご案内しますので、私についてきてください」
透き通った綺麗な声、そして朗らかな笑顔を俺に向けつつ、わざわざ案内をしてくれると進言してくれたシスター。
ギルドの受付嬢も似たような感じだが、シスターにはマニュアル的な作られた感じがなく、本心から優しく接しようとしてくれているような感覚がある。
俺の前を先導するシスターに好印象を覚えながら、案内されたとある一室へと入った。
これまでの能力判別部屋では、群を抜いて綺麗な部屋だ。
流石はダンジョンの街とも呼ばれているだけあり、能力判別をする冒険者が多数いるのだろう。
この部屋が頻繁に使われているのが、見てすぐに分かった。
「こちらの部屋で能力判別を行います。座ってお待ちください」
「案内ありがとう。助かった」
シスターはぺこりと頭を下げてから部屋を立ち去り、俺は向かい側から誰かが現れるのを待つ。
俺が部屋に入ってから数分が経過し、ようやく向こう側の扉が開いて先ほどとは違うシスターが中へと入ってきた。
年齢のいった婆さんのシスター。
ただ聖職だからか、妙に雰囲気があってオーラのようなものを感じる気がする。
「お待たせしました。能力判別でよろしいですかな?」
「ああ。能力判別を頼みたい」
「一回の判別で金貨一枚をもらいます。冒険者カードとともにお渡しくだされ」
俺はホルダーから冒険者カードと金貨一枚を手渡し、能力判別が行われるのを待つ。
婆さんだから、能力判別の負担で倒れたりしないかが少し不安に思いつつ、身動き一つも取らずに座り続けた。
「それでは始めさせて頂きますよ。――終わりました。冒険者カードを確認してくだされ」
「ありがとう。助かった」
レアルザッドの神父と同じくらい平然と、能力判別をやってのけた婆さんシスター。
こうなってくると、オックスターの神父のポンコツ説が濃厚になってきた訳だが……。
今はそんなことよりも、能力の確認の方が先決だ。
俺は早速、受け取った冒険者カードを確認してみることにした。