第193話 ポーション製作の依頼
ロザの大森林から帰還し、報告会を行った日の翌日。
やることが溜まりに溜まっているため、今日は休養日とさせてもらい、一人エデストルの街へと出てきていた。
ちなみにヘスターはゴーレムの爺さんのところへ行き、ラルフはダンジョンへと潜っている。
スノーがいると入れない場所もあるため、スノーは宿屋で留守番。
というかロザの大森林での疲れもあったのか、スノーは珍しくついてこようとしてこなかったため、体を休めてもらうという意味でも留守番が正解だと思う。
俺は休養日といってもやることが山ほどあるため、ゆっくりはしていられない。
早速、錬金術師の店『ガッドフォーラ』から行こうか。
ロザの大森林で採取してきたジンピーの葉と、シャンテル作のジンピーのポーションを持って、俺はボルスに紹介してもらった『ガッドフォーラ』へとやってきた。
『ガッドフォーラ』でやることといえば、もちろんジンピーのポーションの生成依頼。
前回訪れた時は、ポーションの生成はできると言っていたため、おそらくジンピーのポーションを作ってくれると思う。
懸念点は毒のポーションの作成依頼ということで、怪しまれないかどうかだが……多分、大丈夫だろう。
「いらっしゃい。……おや、ボルスと一緒に来た子じゃないか。早速、来てくれたのかい」
店に入るなり、帳場から声を掛けてくれた店主のトリシャ。
……それと、俺が入る前までトリシャと会話をしていたであろう女が、俺の方を見ている。
金髪の色白で如何にも体が弱そうな女。
ただ、そんな見た目とは裏腹に、どことなく強者の圧のようなものを感じる。
【魔力感知】。――やっぱり、保有している魔力量がヘスター並みに多い。
こんな見た目だが、冒険者且つ魔法使いかもしれないな。
「ああ。この間話した、ポーションの作成依頼をしに来た」
「おおー。トリシャさん、仕事の依頼なんて珍しいね」
「ボルスにしては、珍しく仕事をしてくれたよ。……それで、ポーションって何のポーションを作りたいんだい?」
微笑を浮かべている女と軽い会話をしつつ、そう話を振ってきたトリシャ。
なんて説明しようか迷ったが、口で説明するよりも実物を見てもらった方が手っ取り早いだろう。
「このポーションと同じようなものを作ってほしい。詳しい材料は分からないが、一番の元となっている材料はある」
「どれどれ……んっ!? これって毒ポーションかい?」
「見ただけで分かるのか? その通り、毒のポーションだ」
手渡したポーションを灯りに透かすように見たトリシャは、すぐに毒のポーションだということを看破した。
錬金術師としての歴も長そうだし、見ただけである程度の見当がつくのかもしれない。
「ポーション生成の依頼自体珍しいのに、更に毒のポーションの依頼とはね……。いや、毒のポーションだからこその依頼なのかね」
「そうだ。どこを探しても、目当ての毒のポーションなんて売っていないからな」
「そういうことなら納得だねぇ。毒のポーションが欲しい理由については、聞かないから安心しとくれ」
「別に話しても俺は構わないけどな」
「私が嫌なんだよ。それじゃ、少しここで待ってておくれ。少しだけポーションを詳しく見てくるからね」
シャンテル同様、俺が毒のポーションを悪用するかもしれないとでも思っているのだろうか。
ポーションを持って奥へと行ったトリシャを見送っていると、隣から強い視線を感じる。
……無視しようと思っていたのだが、ついその視線が気になり目を向けてしまった。
トリシャと話していた金髪の女は、俺と目が合うなりにっこりと微笑んだ。
「ねね。君って、クリス君だよね?」
「…………なんで俺の名前を知っているんだ?」
「さて、なんででしょうか」
人差し指を立て、質問に質問を返してきた金髪の女。
敵意はないから追手ではないだろうし、さっきのトリシャとの会話から考えると……。
「ボルスの知り合いか?」
「おっ、正解! よく分かったね。私はボルスと同じパーティのルパートって言います。ボルスからクリス君については色々と聞いてるよ。一緒にパーティを組んでくれてありがとね」
ボルスの知り合いだとは想像できたが、この金髪の女が大病を患っていると言っていたルパートだったのか。
てっきり男だと思っていたため、予想外だったな。
「へー、お前がルパートなのか。外に出歩いているってことは、重い病とやらは治ったのか?」
「んー。完治はしていないけど、良くなったって感じだね。今日もここに薬を貰いに来てたんだよ。まさか、クリス君と出会えると思ってなかったからラッキーだ」
「完治はしてないのか。見た限りでは元気そうだし、てっきり治ってるのかと思った」
「まぁ、治ってると思ってもらっても差支えはないけどね。実際に明日からはパーティに復帰するしさ」
「そうなのか。それじゃ、明日はボルスと会うってことか。よろしく伝えておいてくれ」
「うん。クリス君と出会ったことは、話のタネにさせてもらうよ」
そう言って、楽しそうに笑ったルパート。
俺は続けて、ボルスについての話を聞こうとしたのだが……丁度、そのタイミングでトリシャが奥から戻ってきてしまった。
「おんや、楽しそうに話しているね。仲良くなったのかい?」
「少し話した程度だけど……ボルスの言っていた通り、面白い子だから気にいっちゃった! ……それじゃ、薬を貰ったことだしそろそろ帰るよ。クリス君、またどこかで会ったらよろしくね」
「ああ。こっちこそよろしく頼む」
手を振って店を出て行ったルパートを見送り、その後トリシャとポーションについての話を詰めた。
結論から言って、ジンピーのポーションについての作成は可能とのことで、見本となるポーションもあることから、値段も大分抑えられるそうだ。
実際に作ってみないと分からないらしいが、現段階で考えている一本当たりの金額は銀貨二枚。
値段も安いとはいえないが許容範囲内だし、この分で進むのであればジンピーのポーションについては大丈夫だと思う。
ひとまず大量のジンピーの葉と金貨五枚を手渡し、ポーションの生成を頼んだ。
しばらくしたら取りに来いとのことだから、次のロザの大森林の探索後辺りに新たなジンピーと金を持って、受け取りにこようと思っている。