第192話 ギャンブル性
「そういうことか。ラルフはレア度の高い宝箱を手に入れたって訳だな」
「そうそう! 俺が手に入れたのは銀の宝箱。段階で見たら、丁度中間のレアリティだけど、木の宝箱が発見される宝箱の六割と言われてるらしいから、銀でもかなりレア度の高い宝箱って教えてもらった!」
「木の宝箱が六割な……。ダンジョンでの一攫千金は、そう甘くはないってことか」
「そういうことだ! ちなみに銅が三割、銀が九分、金が一分って言われていて……白金に関しては一年に一度ぐらいの確率でしか見つからないらしいぜ! そもそも宝箱自体も全然見つからないし、レアな宝箱を見つけたからといって良いものが手に入るとは限らないからな! 俺の成果としては、二週間ダンジョンに潜って見つけた宝箱は二つだけ。これでも運が良い方らしいが、正直かなり渋かったぜ」
宝箱自体が希少な上に、更にレア度まで設けられているとなると厳しいな。
低層なんて人で溢れ返っているだろうし、競合相手も多く手に入れられる確率は更に下がる。
銀や金の宝箱を手に入れたとしても、低確率とはいえゴミアイテムの可能性もあると考えたら……。
惹かれるものはあるが、大人しく依頼をこなすのが無難であることは間違いなさそうだ。
「ラルフが見つけたもう一つの宝箱というのは、木の宝箱だったの?」
「そう! 木の宝箱の方はその場で開けたんだけど、中級魔力ポーションが三つだけだったわ!」
「さっきレアな宝箱は開けてないって言っていたが、銀の方は開けずに売ったってことか?」
「さっき話したヒヒイロカネ冒険者から教えてもらったんだけど、開けずに売った方が高く売れるんだってよ! ……まぁもちろん、銀の宝箱を開けてレアなアイテムや装備品が手に入れば、そっちの方が高くなるけどな! 微妙なアイテムやゴミアイテムだった場合を考えたら、未開封で売るのが良いって言われた!」
「聞く限り、宝箱は色々と面白そうだな。――てか、ラルフの癖によく我慢できたな。性格上、考えなしに開けそうな感じだけど」
「開けたかったけど我慢したんだよ!! ダンジョンに潜る前に金を使い切っちまったからな! くっそぉ、忘れようとしてたのに色々と思い出してきたわ。良い装備が入ってたとかないよな……」
売り払った銀の宝箱の中身が気になり始めたのか、今になって開けなかったのを後悔し始めた様子。
この様子を見る限り、ラルフには絶対賭け事をさせたら駄目だな。
「ラルフの話を聞く限りは、ダンジョンも中々良さそうですね! 魔物もかなりの数がいるみたいですし、鍛えるのには良い場所な気がします」
「確かにそうだな。俺も例の学生がいなければ行きたいところだが……。ラルフ、王都の学生とは会ったか?」
「いや。何やら深い階層に潜ってるみたいで、一度も会うことはなかったわ。王女様らしいし、一目見ようと思ってたんだけどな!」
「そうか。戦闘に関する情報とかも無しか?」
「少しなら分かるぞ! 一人は俺と同じタンクの騎士。それからヘスターと同じ凄腕の魔法使い。最後に強力なアタッカーの王女様の三人パーティらしいぜ!」
「俺達と似た形の三人パーティか。そこにスノーがいれば、全く同じような構成だな」
「三人パーティなら、この組み合わせが一番バランスはいいからな! そんで、実力については深い階層に潜ってるって言った通り、かなりの実力者らしいぜ!」
王国中から『天恵の儀』で良い職業を授かった者だけが集まるだけあり、クラウス以外も相当な実力者って訳だな。
所詮は俺達と同じぐらいの年齢。
修羅場を潜ってきた俺達の方が強い可能性もあるのではと思っていたが……流石に舐めすぎか。
「騎士と姫ですか。……クリスさん。この騎士って、王都で集めた情報に当てはめると、ロイヤルガードとして活躍していた『聖騎士』じゃないでしょうか? 王女様が『戦姫』となると――魔法使いは『賢者』あるいは『操死霊術師』ですかね?」
「パーティ全員が、王都の情報屋が名を出した奴とは限らないとも思うが……王女のパーティだもんな。騎士はロイヤルガードは固いとして、魔法使いの二人もその二人のどちらかの可能性が高いと俺も思う」
ヘスターに言われるまで頭から抜けていたが、確かに魔法使いは『賢者』か『操死霊術師』の可能性が高い。
そして『賢者』だった場合は――俺がクラウス以外で唯一の顔見知りである、ミエルであるということ。
『操死霊術師』がどんな職業かは不明だが、魔法使いと呼ばれているぐらいだし、パーティの一人である魔法使いは『賢者』の可能性の方が高い。
となると……俺が恨みを買ったであろうミエルは、今エデストルにいてダンジョンを攻略している最中というわけだ。
時間を稼ぐといった意味合いでも、ミエルとクラウスを仲違いさせるという意味合いでも、あの時の選択は間違っていなかったと思うが……。
ミエルが同じ街にいるというのは、少し面倒くさいことになったな。
「クリス、どうしたんだ? 渋い顔をして!」
「もしかしたら、そのパーティの魔法使いが知り合いの可能性が出てきてな。改めて俺は、ダンジョンに近づけないと思っただけだ」
「それ、本当かよ! クリスとも一度はダンジョンに行きたかったんだけどなぁ! ヒヒイロカネ冒険者の人達も紹介したかったしよ!」
「確証はないが、念には念を入れておきたいからな。王女らが王都に帰ったら、ダンジョンに行こうとは考えてる」
「攻略が終わるのを待つしかないってことか! ……とりあえず、俺の報告はこんなものかな」
溜めに溜め、自らトリを務めただけあって、面白くかなり良い情報が聞けたな。
ダンジョンに潜ってみたいし、ヒヒイロカネ冒険者も気になる。
王女とも、俺の名前は伏せて接触してみたいと思ったんだが、パーティにミエルがいる可能性が高いとなれば無理かもしれないな。
クラウスの情報を手に入れる最高の人物といえるため、どうにかして接触できないか一応考えてみるか。