第185話 金色のオーク
残るオークは、オークソルジャー二匹にオークナイト二匹。
それから、オークジェネラルとオークキングが一匹ずつ。
戦闘音は聞こえていたはずだし、すぐに外に出てきていればまだ拮抗した戦いになっていたかもしれないが、駆け付けるのが少し遅すぎたな。
周囲に転がる仲間のオークの死体を見て、体を震わせながら怒ったような表情を見せているオークキング。
オークジェネラルよりも一回り大きな体躯に、金色に輝く体毛。
手には立派な大剣が握られており、オークジェネラルと比べても頭抜けて強いということがすぐに分かった。
ただ、やはり単体だけで見るならば俺の敵ではない。
オークキングはすぐさま指示のようなものを出して、オークソルジャーとオークナイトを俺の下へと向かわせた。
例の仲間の能力を上昇させるというスキルも発動されたのか、飛び出てきたオークの体が赤く光り輝いている。
……この赤い光には見覚えがあるな。
確か、緊急依頼の時に戦ったオークジェネラルが、この光りを自身に纏わせていた。
光りを纏ってからは身体能力が跳ね上がっていたし、飛び掛かってきたオークにも強化がかかっていると思って対処する。
オーク達との戦闘が始まる前に、俺は左手に回り込んだスノーに合図を出す。
ここまで戦闘には参加させず、身を潜ませていたスノーだが、全てのオークが出揃った今が奇襲のかけどころ。
俺にしか目が向いていない今、左手側に立っているオークジェネラルに攻撃を仕掛けるように合図を出した。
ずっと待機していたスノーはここぞとばかりに一気に飛び出し、オークジェネラルに襲い掛かっていく。
飛び出したスノーがオークキングとオークジェネラルに挟まれないよう、俺もさっさと目の前のオーク四匹を殲滅しないといけない。
【能力解放】【身体能力強化】
体力温存のために解除した二つのスキルを発動し直し、全力でバフのかかっているオークソルジャーとオークナイトを殺しにかかる。
敵の陣形としてはオークナイト二匹が前へと出て、その後ろにオークソルジャーが控える形。
オークナイトが俺を抑えて、オークソルジャーが攻撃を仕掛ける――ってのが狙いだろうが、俺を抑えたければラルフでも連れてくるしかない。
二つのスキルに加え、更に【疾風】も発動。
一気にオークナイトの目の前まで詰め、【剛腕】【強撃】を駆使して石の大盾を斬りつけた。
先ほどは軽く斬ったということもあり弾かれてしまった訳だが、スキルの発動に発動を重ねたこの一撃は石の大盾を砕き、オークナイトごと斬り裂いた。
余裕の表情を見せていたもう一匹のオークナイトだが、一撃で牙城を崩されたことにより、驚愕の表情を浮かべたまま固まっている。
予想だにしない状況に固まってしまう気持ちは分からないでもないが――俺はその隙をみすみす見逃すつもりはない。
大盾を構えられていないオークナイトの鎖骨部分に剣を突き立て、そのまま喉を掻っ切る。
膝から崩れ落ちる様を見つつ、トドメに上段から剣を振り下ろした。
オークナイト二匹の瞬殺。
堅牢な壁に守られていると錯覚していたオークソルジャーは、一瞬にして壁が消え去ったことにより、恐怖のあまりか背後への逃走を図った。
バフをかけてくれたオークキングに助けを求めるように、勢いよく下がって行った訳だが……。
オークキングは俺に背を向けて逃げたオークソルジャーを両断し、残った一匹も刃の側面部分で叩き潰した。
仲間のオークがやられていたのを見て、怒った表情をしていたと思ったが……。
逃走した仲間に対しての容赦ないその一撃に、俺も一瞬だけ怯む。
ただ逆に考えれば、自ら数を減らしてくれたということ。
それに、オークキングから視線を外して左側をチラリと見てみると――スノーがオークジェネラルの首を咥えて尻尾を振っていた。
俺がオークナイトを瞬殺している間に、スノーもオークジェネラルを瞬殺した様子。
プラチナランクの魔物でも楽に倒すスノーには、どうやらオークジェネラルは弱すぎたようだな。
ずっと待たせていたし、オークキングの討伐を譲ってあげたい気持ちもあるが――このオークキングは、俺の獲物だ。
スノーには待機のハンドサインを送り、俺は一歩ずつオークキングに近づいていく。
金色の体毛が、日の光に当てられて輝いているように見える。
大剣も他のオークが手にしていた安っぽい武器ではなく、質の良い手入れの施された大剣。
オークジェネラルが推奨討伐ランクがゴールドなのに対し、桁が二つも違うミスリルなのも納得の圧だな。
血湧き肉躍る感覚に、ついつい本能に任せて【狂戦士化】を発動しかけてしまうが、俺は理性を保って制止する。
……ラルフと手合わせしている時も、たまに【狂戦士化】を使ってしまいそうになることがあるんだよな。
カルロとの戦闘の――あの肉体が躍動する快感を勝手に体が求めているような感じ。
アルヤジさんが、【狂戦士化】のスキルを異様に怖がっていたのも頷ける。
「ウガがウウうう! ウガがガグラあアあ!」
「なんて言っているか分からないが、いつでもかかってこい。一対一の本気の殺し合いだ」
何かを言いたげに吠えるオークキングに対し、片手をくいくいとさせ挑発する。
大軍を作るためにここに巣作っていたのかもしれないが、俺のせいでその夢が潰えてしまった怒りかもしれない。
俺の挑発に体をわなわなと震わせると、自身にスキルを使ったようで金色のオーラがオークキングの体に纏い始める。
そこから大剣を構えると、一気に俺に襲い掛かってきた。
動きの速度はまあまあ。
力は見た目以上に強そうだし、避けられるのならば避けるのが正解だろうが……俺も鋼の剣を構え、正面から打ち合うことに決めた。
躱されることなどお構いなしの大振りの一撃に、こちらもスキルを発動させての一撃を合わせる。
【能力解放】は三割。
更に【剛腕】【強撃】を合わせ、豪速で向かってくる大剣を狙って、鋼の剣を振り下ろした。
オークキングの大剣と俺の鋼の剣がぶつかり、爆発音に近い轟音がロザの大森林に鳴り響く。
手には体の芯まで痺れるような衝撃を感じつつも、カルロ戦のように剣が折れることはない。
オークキングの大剣も無傷なことから、再び構え直し互いに斬りつけ合う。
技術を駆使して躱すように戦えば、あっという間に片が付くだろうが、せっかくの強敵相手に試さないのはもったいない。
複数のスキルを使用した時の体への負荷、『イチリュウ』で購入した鋼の剣の耐久性、【能力解放】の使用限度。
実力を試すのに持ってこいの相手に、あっさりと終わらせるなんてありえない。
一撃をぶつけ合うごとに、俺は【能力解放】を一分ずつ上昇させて打ち込む。
そして三割五分まで上げたところで明確に俺の威力が上回り始め、三割七分での一撃で、オークキングは俺の威力に堪えきれず膝を地面に着けた。
それでも諦める様子は見せず、立ち上がって向かってこようとしたが――大剣を振り下ろす前に俺の刃が先に振り下ろされ、深々とオークキングの体を斬り裂いた。
……俺としてはもう少し打ち合いたかったのだが、直接的な傷はなくとも打ち合いの体への負荷が大きかったのか、最後の一撃は振り下ろされるまでが長く、先に振り下ろしてしまった。
深々と斬り裂かれたオークキングは、振り上げた大剣の重さに体が支えきれず、バランスを崩すように後ろに倒れた。
力だけならば、スキル使用前のカルロに匹敵するほどのものを持っていたオークキング。
俺の身勝手な理由で巣を襲ったことを心の中で謝罪しつつ、俺はこれ以上苦しまないようにトドメを刺したのだった。