第182話 パーティの解散
オーガの討伐依頼から、約二週間が経過した。
この間、ボルスと共にプラチナランクの依頼をこなし続け、今日の依頼で俺達は無事にプラチナランクへと昇格を果たした。
風邪で一時パーティを抜けていたルーファスも戻ってきたことで、ボルスと一時的に組んでいたパーティは今日で解散の運びとなっている。
「ボルスさん! 色々とありがとうございました! 依頼だけじゃなく、様々な面で本当に助けられた!」
「ですね! ボルスさんがいなければ、ここまで順調に依頼をこなせていなかったと思います」
「二人の言う通り、本当に助かった。ボルス、ありがとな」
ボルスとの最後の依頼であるライノダックスの依頼報告を終えたところで、俺達は各々感謝の言葉を伝えた。
最初は胡散臭い冒険者だと思ったが、実力は本物だったし街の案内は穴場の店を色々と紹介してもらった。
ボルスのお陰で初めての街でも、特に苦労することなく生活が送れたと言っても過言ではない。
「構わねぇって! 困った時はお互い様だからな! 俺もクリス達のお陰で稼がせてもらったからよ。俺と組んでくれてありがとな!」
爽やかな笑顔で感謝の言葉を返してきたボルスと、俺は固い握手を交わす。
「でもよぉ……結局、クリスには敬語を使わせることはできなかったぜ!」
「そこは気にしなくていい。俺の中での尊敬に値する基準が高いだけだからな」
「だからこそ、尊敬させてやりたかったんだよ!」
ボルスは、俺に敬語を使わさせることを最後までこだわり続けていたからな。
正直、そのこだわりが強い故に、敬語を使うのを躊躇った部分が大きかったのだが……わざわざ伝えることでもないか。
「正直な話、戦闘についてが不明なままだったからな。凄いことをしているということは分かったのだが、何が凄いのか理解できないままだった」
そう。結局、ボルスがどうやって魔物と戦っていたのか分からず終いだった。
あの後も何度か戦闘を見ていたのだが、本当にただ戦っているだけとしか思えなかったんだよな。
……でも、本当にただ戦っているだけなら、実力的には相手にしていた魔物の方が圧倒的に上。
このちぐはぐな感覚を最後まで拭うことができないままだった。
「戦闘に関してって言われてもな……。本当に特別なことなんてしてねぇから、俺にはどうしようもねぇわ! まぁ時間ができた時にでも、俺がどう戦闘しているか見せてやるよ」
「それは少し楽しみだ。実際に手合わせしてもらえれば、どう立ち回っているかの理解ができるかもしれないしな」
「手合わせについては日を追って連絡するからよ! ……とりあえず楽しかったぜ! 二週間だけだったけどよ、若い奴らと一緒に依頼をこなせて新鮮だったわ! ギルドで見かけたら、気兼ねなく話しかけてくれよな!」
そう言ってから、片手をひらひらとさせながら去って行ったボルス。
頭を下げながらその背中を見送ってから、俺達も帰路へとついた。
ボルスと別れて『ゴラッシュ』へと戻ってきた俺達は、帰りに露店で買った料理を広げながら、今後についての話し合いをすることにした。
この二週間、プラチナランクの依頼をコンスタントにこなしてきたお陰で、金の方が大分貯まったからな。
明日からは、修行期間へと移行してもいいのではと思っている。
「明日からの動きなんだが、俺は一人でロザの大森林へと行こうと考えている」
「いいんじゃないか? 俺はもっと早くに行ってもいいと思ってたし!」
「私もいいと思います! ……残る私達は、依頼をこなしていればいいのでしょうか?」
「今回は、そこについての話し合いをしようと思っていてな。二人は依頼をこなす方がいいと思っているのか?」
俺がそう尋ねると、顎に手を当てて考え始めた二人。
修行期間に移行すると言っても、二人は依頼をこなすのも十分すぎるほどの修行になる。
エデストル近郊は本当に強い魔物がひしめき合っており、この二週間だけでもラルフとヘスター、それからスノーは順調すぎるほどに強くなっていった。
俺に関しては、いくら魔物と戦っても経験が蓄積されるだけで肉体的な成長がほとんどないため、ロザの大森林に赴かなければいけないのだが……。
二人に関しては、依頼をこなしているだけでも強くなっていく。
「俺は依頼をこなすでもいいと思っているかな! 金も手に入るし、強い魔物との戦いは色々なことを身につけることができる」
「………………ラルフと反対の意見になってしまいますが、私は依頼をこなしたくないというのが本音ですね。もちろん強くなりつつお金を稼げるのはいいのですが、フィリップさんのところで魔法を習いに行きたいです」
やはりと言うべきか、ヘスターは依頼をこなすのを断って魔法の習得に専念したいと言い出した。
ヘスターがゴーレムの爺さんのところに行った時から予想できていたが、俺がロザの大森林でヘスターが魔法の習得。
ラルフだけが一人残される形となってしまっている。
「ヘスターはこう言ってるが、ラルフはどう思ってる?」
「そうしたいって言うなら、俺は止める気はないぜ? この二週間で俺も色々と考えてはいたからよ! 俺も一人で鍛えさせてもらう」
「ラルフが大丈夫なら、明日からの数週間は単独行動としようか。二人ともそれで大丈夫か?」
「おう! 大丈夫だ!」
「私も大丈夫ですが……スノーはどうしますか?」
ヘスターに名前を呼ばれたことで、食事を止めてこちらを向いたスノー。
正直な話、これだけの強さを持っているならば、スノーも単独で行動させてもいい気もするが……。
「俺がロザの大森林に連れて行く。拠点にした場所の付近で放置しておけば、勝手に食料とかも取ってきてくれるだろうしな」
「そういうことならクリスに任せる!」
「ですね。スノーのこと、よろしくお願いします!」
こうして明日からの方針が決まったところで、食事を終えて片付けを始めた。
その後ヘスターは風呂へと向かい、俺は残ったラルフに明日からの予定についてを詳しく聞くことにした。
色々と考えているとは言っていたが……。
本当に考えていたのか、正直怪しいところではあるからな。
「ラルフ、明日から一人で大丈夫なのか? 見栄を張って、本当は予定なんか一切決まってないとかは……流石にないよな?」
「大丈夫だ! 実はな、俺はダンジョンに潜ろうと思ってる!」
「ダンジョン? 一人でか?」
「ああ! クリスがいたんじゃ、しばらくはダンジョンに潜ることができないだろうしな! ボルスさんの話によりゃ、珍しいけどソロ攻略している奴もいるらしいし、俺もチャレンジしてみようと思ったんだ!」
考えなしではなかったのは良かったが……ダンジョン攻略か。
ダンジョンは本当に危険が伴うらしいし、クラウスと同じ学園の奴らもいる。
本音を言うのであれば、ラルフには考え直してほしいところだが、いくら言ったところで聞かないだろう。
ラルフはノーファストで情報を集めていた時から、ダンジョンに興味を持っていたしな。
「…………くれぐれも気を付けて攻略しろよ。魔物だけじゃなく、王都の学園の奴らもいるんだからな」
「分かってるって! 慎重に慎重を重ねて攻略するつもりだ! ……それでなんだが、この二週間で貯めた金。全部使っちまっていいか?」
「俺の金じゃないし別に構わないが、宿代はしっかり払えよ」
「そこは大丈夫なはずだ! ダンジョンで金が稼げるってのは、ボルスさんも言ってたからな!」
行き当たりばったりすぎる気もするが、わざわざ口に出すことでもないか。
もしダンジョンで金を稼げず、宿代が払えなかったら……ラルフは依頼にシフトさせて金を稼がせればいいだけだ。
「稼げるなら構わない。それにしても、かなりの額を稼いだと思うんだが……。全部使うってことは例の剣を買うのか?」
「ああ! 玉鋼の剣と、後はダンジョンに潜るための道具を買うつもりでいる」
「やっぱりそうだったんだな。……タンクのラルフが俺よりも良い剣を持つってことか」
「クリスも買えばいいだろ? 金ならあるんだしよ!」
ラルフのせいで物欲を掻き立てられているのは間違いないが、流石にノーファストで新調したばかりで新しい剣を買うことはできない。
ここ二週間ぐらいしか、まともに使っていないしな。
「剣を買ったばかりだから無理だ。流石に無駄使いはできない」
「クリスもヘスターも本当に自制心があるよな! 俺は欲しいものがあったら、すぐに使っちまうわ!」
「別にそんなことはないぞ。本格的に能力上げを始めたら、俺は能力判別に大金をつぎ込むだろうしな」
まだロザの大森林に足を運んでいないため、能力判別をする必要がないだけだが、また今までと同じように能力判別には大金を使うつもりでいるからな。
俺の中では、良い剣よりも能力判別が大事ってだけで、決して自制心がある訳ではない。
「確かにクリスは教会に金を落としまくってるか! ……まぁとりあえず、俺の明日からの動きはそんな感じだ! ちゃんと考えてはいるから安心してくれ」
「考えていたのは分かったし、少しは安心できた。ダンジョン攻略頑張れよ」
「クリスの方こそ、ロザの大森林の探索頑張れよな! 危険な魔物もうじゃうじゃいるみたいだしよ」
「ああ。十分注意して探索を行う」
こうして話が一段落ついたところで、話し合いはお開きとなった。
明日からの動きは、俺とスノーがロザの大森林の探索。
ラルフがソロでのダンジョン攻略で、ヘスターがゴーレムの爺さんの下で魔法の修行。
各々単独での行動となるが、全員が全員強くなるための最善の手を打っている。
数週間後、再会した時にどれほど力をつけることができたか非常に楽しみだ。