第170話 情報共有
「まず結論から言わせてもらうのですが、エデストルにクラウスはいません。二ヵ月ほど滞在していただけのようで、ダンジョンの五十階層を攻略すると同時に街から離れたそうです」
「それは良かった。ノーファストで集めた情報通りだったって訳だな」
「そうですね。だから、クリスさんが街に出ても問題ないと思います」
「あっ、だけどな。なんか王都の学園に通う学生が、クラウス達と入れ違いで来たみたいだぞ! 今もダンジョンに攻略しているとかなんとか」
クラウス達とは別の学生という訳か……。
そいつらも俺を探しているのかどうか分からないが、警戒するに越したことはないな。
「ラルフが今言いましたが、その学生って言うのはどうやら王女様らしいです。クリスさん、王都で集めた情報を覚えていますか?」
「ああ。確か【戦姫】の適性職業を持つ、王女が学園に入学したって言ってたよな」
「そうです。その王女がエデストルにいるみたいですね」
クラウスと仲が良い可能性ももちろんあるが、別々に行動していることから、王女はクラウスのパーティメンバーではないことは確定している。
だったら、必要以上の警戒をしなくてもいいかもしれない。
「エデストルでの危険な人物は、その王女パーティって訳だな。極力鉢合わせないように注意しようか」
「だな! 多分、相当な実力者だろうから……まだ勝てない可能性もあるしよ!」
「あのカルロ以上の力を持っている同年代が複数人いるというのは、私としては少し考えにくい――というか、あまり考えたくないのですが……王都の情報屋さんも今年は豊作と言っていましたからね。警戒するに越したことはありません」
「だな。しばらくはダンジョンに近づかないようにし、普通の依頼をこなしていこうか。金を稼ぐためにも、まずはなんにしても依頼をこなそうと考えていたしな」
王女と鉢合わせないよう、ダンジョンはしばらく籠らない――で決定だな。
入口くらいは見てみたかった気持ちもあるが、こればかりは仕方がない。
「やっぱダンジョンには潜らないのかぁ……。色々調べてきたんだけど、無駄骨だったなこりゃ」
「ラルフはダンジョンのことばかり調べてましたからね」
「だってよ! ……やっぱ滾るものがあるだろ、ダンジョンは!」
「よく分からないけど、一応ダンジョンについて調べた情報を教えてくれ」
ダンジョンについては未知の部分が大きい。
魔物がいっぱいいて、一定の階層ごとにボスと呼ばれる強い魔物がいるぐらいの知識しかないからな。
なんでダンジョンに人が集まるのかが……。
今のところだと、さっぱり分からない。
「任せてくれ。まずダンジョンっていうのは、魔物が無限且つ大量に湧く場所だ! ダンジョンの最奥には魔力塊なるものがあるらしく、その魔力塊が魔物を生成しているみたいだな。だから、奥行けば行くほど魔物の強さが増すらしいぜ」
「へー。つまるところ、その魔力塊を壊せばダンジョンはダンジョンじゃなくなるって訳か」
「そういうことだな! その魔力塊も一種の魔物のようなもので、ダンジョンに入って命を落とした冒険者の魔力を吸い取って力にしているらしいぜ」
オンガニールに近い感じか?
魔物を生成し、魔物に冒険者を殺させて力を吸い取る。
「ダンジョンで死んだら死体は残らないって感じか。それはちょっと嫌だな。……ラルフ、ダンジョンの利点はあるのか?」
「もちろん! ダンジョンには魔物だけでなく宝箱も生成されるみたいで、その宝箱からは色々なアイテムや武器、更には金まで出てくるんだとよ!」
「ん? その武器やアイテムや金っていうのは……」
「クリスさん、私も思いました。その武器やアイテムやお金って、ダンジョンで死んだ人間が持っていた物じゃないですか?」
「いやぁ……そこまでは分からん」
恐らくだけど、そういうことだろう。
肉体は自らの糧にして、持っていたアイテムや武器や金は宝箱として設置する。
その宝箱につられた冒険者がダンジョンに潜り、またダンジョンの贄となる訳か。
本当に意思を持った生物のようなものだな。
「ダンジョンについてはよく分かった。上手く攻略し、良い宝箱を見つけることができれば一攫千金を掴めるという訳だな。ついでに、ダンジョンを攻略すれば名声もついてくる。……こりゃ、人が集まってくるのも納得だ」
「ですね。人間の欲を上手く利用している気がします。序盤に弱い敵で、奥に進むにつれて敵が強くなっていくっていうのも含めて」
ラルフの説明で少し気になってきたが、やはりまだダンジョンには潜るつもりはない。
まずは依頼。それからランクを上げて、金も貯めていき――俺はロザの大森林で有毒植物を探す。
そして強くなってから、力試しでダンジョンに攻略するっていう流れがベスト。
クラウス達はダンジョンの五十階層を攻略している。
最低でもダンジョンの五十階層を攻略できなければ、クラウスに勝てる見込みはないに等しい。
「エデストルについての簡易的な情報は分かった。二人共、情報集めありがとな。……明日からは、プラチナランクの依頼をガンガンこなして――力をつけつつ金も貯めていこうか」
「ですね! 気合いが入ってきました!」
「俺もだ! オックスターでは力を余らせてたからな! ガンガン魔物を倒していくぜ!」
報告会を終え、三人で気合いを入れなおした俺達。
スノーも俺達に当てられ、一つ大きく吠えた。
新天地での新たな生活。
初っ端からヘマしないよう、全力で依頼をこなすか。