第158話 休み明け
カルロとの死闘から約二週間が経過。
スキルの多重使用により、肉体の限界を大幅に超えていたせいか、俺だけは数日間自室で寝込んでいた。
とにかく【狂戦士化】のスキルの反動が大きかったようで、精神も蝕まれていたため完全回復まで予想以上に時間がかかってしまった。
その間は、これまでこなせていなかった分の依頼を二人とスノーがこなし、俺が回復してからは三人で依頼を次々とこなした。
三ヶ月の修行、それからカルロとの死闘のお陰で成長した俺達には、ゴールドランク帯の依頼はあまりにも簡単で、最終的にはパーティではなくソロで依頼をこなす始末。
街をしばらくの間離れていたことで、色々なことに物足らなさを感じつつも――無事に俺達は、二週間で一文無しからある程度の金を貯めることができた。
「この二週間で分かったけどさ……。俺達、強くなりすぎてるよな!?」
「まぁカーライルの森での三ヶ月間、自分が強くなるためだけに生活していたからな。大幅に成長したと思うぞ」
「私もビックリしました! カルロにはあまり通用せず、魔法への自信を失いかけていましたが……。ゴールドランク帯の魔物を一撃で――それも初級魔法で仕留めるようになっていましたので!」
二人の言っている通り、ヘスターは初級魔法で魔物を一撃で屠ることができるようになり、ラルフは目を瞑った状態でも完璧に攻撃を防げている状態。
俺に至っては……スキルなし且つ拳一つで戦えるほど、ゴールドランク帯の魔物との圧倒的な差が生まれていた。
ただ、依頼をこなすのがほぼ作業となってしまっていて、カーライルの森で過ごした密度との差に俺は少し焦りを覚え始めている。
もう少し強い魔物がいれば、依頼も修行の一環として取り組めるのだが、オックスター周辺では高難度の依頼自体がない。
副ギルド長の話によれば、レッドコング以来プラチナランクの依頼すら一度も舞い込んでいないらしいし、俺達がこなしまくったせいでゴールドランクの依頼も少なくなり始めている。
金をある程度まで貯めて、今度は自主的にカーライルの森に籠るのもアリかもしれないが……。
追手云々関係なしに俺達の成長のためには、そろそろこの街を離れる選択を取る時が来たのかもしれないな。
「とりあえず金を貯めることができたし、すぐにでもノーファストへ行こうか。アルヤジさん以外の【銀翼の獅子】の面々に、カルロのことをしっかりと報告がしたい」
「そうだな。……みんな、ちゃんと弔われていればいいんだけど」
「カルロが死体隠しを行っている可能性は大いにあるからな。【銀翼の獅子】はミスリル冒険者だし、向こうで聞き込みをすればすぐに情報は見つかると思う」
「何をするにしても行ってみないと始まりませんね。スノーはどうしますか?」
ヘスターに名前を呼ばれたことで、首を傾げたスノー。
スノーか。うーん……どうしようか。
従魔登録はしてあるし連れて行っても問題ないだろうが、トラブルを起こしたら面倒なことになる。
体もかなり大きくなってきたし、まだギリギリ持ち運びは可能だが頭は鞄から飛び出してしまうからな。
でもトラブルを恐れて連れていかないのは、従魔登録した意味がなくなる訳だし……。
「連れて行こうか。従魔登録したお陰で堂々と入れる訳だしな」
「おおっ! 良かったな、スノー! 今回はお留守番じゃないぞ!」
「アウッ!」
尻尾を振って嬉しそうに吠えたスノー。
毎度のことだが、会話が分かっているんじゃないかと思う反応だよな。
「それじゃ、もう出発しますか? 一度行ったので、案内なら任せてください」
「ああ、もう向かおう。案内はヘスターとラルフに任せた」
「了解! 俺も少しは覚えてるから任せてくれ!」
こうして準備を整えたらすぐに、俺達はノーファストへと向かうことに決めた。
俺にとっては初めてのノーファスト。
ノーファストにはカルロが居たため、他の追手が少し怖くはあるが……カルロを倒せた俺達なら、過剰にビビる必要はないと思う。
警戒だけは怠らないようにし、【銀翼の獅子】の面々の情報を集めに行こうか。