第157話 ラルフの決意
オレは仰向けになって倒れたカルロの死亡を確認してから、まずは【狂戦士化】を解除。
それから、次々にスキルを解除していった。
全てのスキルが解除し終わり、膝から崩れ落ちた俺に――ラルフとヘスターが駆け寄ってきてくれた。
三つのスキルを発動させたカルロ相手では、何もすることのできなかった二人は、遠巻きに俺を見守ってくれていた。
【知覚強化】を発動してから分かっていたが、ラルフは俺がピンチになった瞬間に身を挺して守る準備を――。
ヘスターは【狂戦士化】に並ぶ、危険スキルである【魔力暴走】を使う準備を整えていた。
【狂戦士化】のせいで二人が敵に見えていながらも、心の奥底で仮に俺が殴り負けたとしても、二人が即座に助けてくれるという安心感があったからこそ、俺は思う存分戦闘だけに打ち込むことができた。
「…………二人ともありがとな。ラルフとヘスターがいてくれたお陰で、何も気にすることなくカルロとの戦いに身をおくことができたし――無事にカルロを殺すことができた」
「礼を言うのは俺とヘスターの方だ! グリースに引き続き、クリスに任せきりで本当にすまねぇ」
「そうです! 私とラルフは何もしていません。クリスさん、今回もありがとうございました」
「本当に二人が謝ることじゃない。カルロの実力を見誤ったのは俺だし、カルロがスキルを発動する前までは三人で連携を取って戦えていた」
実際この通りだ。
俺の中で想定していたカルロの強さは、スキルを発動する前の強さ。
現に四つのスキルを発動される前までは、割と余裕を持って立ち回ることができていた訳だしな。
金銭的な問題から、修業期間は三ヶ月がギリギリだったとはいえ、これだけの強さだったのなら逃げることを選択するのが賢かった。
「……それに俺が殴り合っていた時も、二人はすぐにサポートをできるようにしてくれていただろ? あのサポートのお陰で、俺は気兼ねなく戦闘に打ち込むことができた」
「準備はしていたって言えば聞こえはいいが、実際は手出しできなかっただけだ」
「そうです。カルロがスキルを発動させてからは、魔法が一切効きませんでしたから」
カルロの【肉体鎧化】。
俺の鋼の剣をへし折り、ヘスターの魔法を無効化させたスキルだ。
殴った感触もこのスキルによって軽減されていた感じがあったし、俺の保有する【外皮強化】の上位互換のようなスキルな気がする。
「俺も剣をへし折られたし、本当に強かったな」
三人で死んだカルロを見下ろす。
本当に手を焼かされたし、色々なものを奪い取られた。
キッチリと借りを返すことができて良かったが、俺がもう少し早く強くなっていればと思うと、少しだけやるせない気持ちになる。
「これで、【銀翼の獅子】の面々に報告することができるな。……クリス、報告のために一度ノーファストに行きたいんだけどいいか?」
「もちろんだ。アルヤジさん以外の【銀翼の獅子】達がどこで眠っているのかも知りたいし、ノーファストには全員で行こう」
「そうですね。みんなで報告に行きましょう」
少し落ち着きお金を貯めたら、三人でノーファストへ行くことを決めた。
本当は約束通り、アルヤジさんに街を案内してもらいたかったのだが、こればかりはいくら考えてもどうしようもない。
「それじゃ帰る――前に、死体をカーライルの森に運びたいんだが、二人とも手伝ってくれるか?」
「もちろん。……わざわざ聞くことじゃないだろうけど、クリスはカルロで植物を育てるつもりなのか?」
「ああ。クラウスの手下であるカルロに苦戦させられたからな。俺はまだまだ強くならないといけない。気味が悪いからといって避けては通れない」
「やっぱりクリスについていくには、俺もなりふり構っていられないよな。……今言うことじゃないだろうけど、俺はこれからタンクに専念させてもらう」
カルロの死体を背負いながら、唐突にそんな宣言をしたラルフ。
俺はカルロと戦うまでの一時だけだと思っていたのだが……なんともいえない複雑な心境だ。
「最強の冒険者になる夢はどうした? 諦めたのか?」
「ふっ、諦めちゃいねぇよ! 別に最硬だって最強だろ? ……ヘスターが中級魔法を覚え、レオンさんに守備の才能があると言われた時から薄々考えてはいたんだ。俺の目指す最強の冒険者像をな!」
「それが最硬の冒険者ってことか?」
「ああ。カルロだろうが、クラウスだろうが、それにクリスだろうが――どんな相手の攻撃も防げるようになれば、俺がやられることは絶対になくなる。……攻撃は、俺が『天恵の儀』で授かった【神撃】に全てを懸ける」
「【神撃】が残念スキルだったらどうするんだ?」
「そん時はそん時だ。また攻撃面を鍛えればいいだけの話だろ? どう転んだとしても、守備を鍛えておいて損はない」
ラルフにしては珍しく、論理立てて考えていることを伝えてきた。
カルロが【銀翼の獅子】を殺し、俺達の居場所を突き止め仕方なく――という訳ではなく、本当に以前から考えていた様子。
……ラルフがここまで考えて、更に“最強の冒険者”を諦めていないのであれば、俺は応援するのみだな。
「分かった。ラルフにはまたタンクに戻ってもらう。……それにしても、自分でタンクを止めたりまた始めたりと、本当に忙しない奴だな」
「すまねぇな! でも、タンクを捨てたからこそ見えたものもある。『チャレンジに失敗はつきもの。失敗を怖がったら成長が止まる』だろ?」
「そうだな。俺もタンクを経験して身についたことは幾つもあるし、悪い経験ではなかった。確かにいいチャレンジだったかもしれない」
「そういうことだ! 俺はガンガン成長していくからな! そして、俺はレオンさんの夢を継ぐ」
レオンの夢は何か分からないが、アルヤジさんがレオンを茶化していた時に言っていた、世界最強の夢だろうか。
最強の冒険者と世界最強の夢。
……重複している気がするし、もしかしたら別の夢かもしれない。
そんなことを考えながら、カルロの死体を背負いカーライルの森へと歩く二人についていき、俺は疲労で重い体を必死に動かしながら、カーライルの森へと向かったのだった。